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「双熾もなまえちゃんも、これからはいっばい、いっぱい幸せになって欲しい。それが私達の願いなの。」
「私達………?」
「そう、ここにいる仲間、狗崎に仕える人達、あなたに関わった全ての人があなた達の幸せを願ってる。もちろん私も蜻蛉も。」
優しく諭すように一言一言を丁寧に菖蒲は告げた。
あの箱の中の狭い世界しか知らなかった。
どうして自分が先祖返りとして生まれたのか、
少しだけ怨んだりしたこともあって。
でも、その裏にはたくさんの人の想いが動いていた。
少しでも幸せに、普通の人と変わらない日常を過ごして欲しいと。
小さな出会いから動いた運命、
空を仰いで、外の世界に焦がれるだけの私はもういない。
ここにいるのは、狗崎なまえというただ一人の人間。
「大丈夫、もうあなたは一人じゃないわ。」
「っ、」
涙が勝手に溢れてくる。
悲しみではない、温かい、心からの涙。
どんなに感謝してもしきれない、
「そうよ!なまえちゃんには私達がいる、それは忘れちゃダメよ?」
「野ばらさん………」
「好きな人と結ばれて欲しい、だから私達は今日は邪魔しに来たの。」
野ばらはにっこりと笑った。
そして、今日の話は蜻蛉から聞かされていたのだった。
許嫁が抱えていた想いをずっと彼は知っていたのだ。
だから、仲間である彼らに言った。
『お前達はどうしたい、』
「それでお見合いを阻止する計画を立てたの!まぁ、御狐神が来たのは少し計画外だけど。」
チラッと野ばらは双熾に視線を向けた。
計画外ではあったが、彼なら何かしら動くであろうと予想はしていたのだった。
「なまえちゃん、御狐神と一緒じゃなきゃ幸せじゃない………だから来たの、」
「カルタちゃん……」
「なんつーか、狐やろーと一緒の方が…」
「なまえちゃんはそーたんと一緒じゃないとね☆」
「てめぇ!まだ人の話の途中で被せんな!」
渡狸の叫びを押し退け、夏目はけらけらと笑った。
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