6
僕たちは、冬の冷たく悲しい別れを知っている。
そして、春の新しい出逢い、その先に待っている温もりを知っている。
大切なあなたの側に。
この身を捧げると誓った。
あなたにあの春の日に出会って、
今度こそ、その手を二度と離さないと誓ったんだ。
「はぁ、なんだか苦しいです」
「え?私の方が苦し……」
双熾に力いっぱい抱き締められている為、
若干苦しくなりつつあったのだ。
「胸が、いっぱいいっぱいで苦しいんです。でも、幸せな気持ちでいっぱいです」
「わ、私もです………」
誰かと誰かが、心から繋がることがこんなにも幸せをもたらしてくれる。
幸せすぎて、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
それは知らぬ間に涙に変わっていた。
「申し訳ありません、泣かせてしまいましたね」
小さく笑った双熾は、人差し指でそっとなまえの目尻を拭う。
恥ずかしいけど、その温もりが心地好い。
そんなこと本人には言わないが、そっと静かに目を閉じた。
「なまえさま」
「はい」
「キスしてよろしいですか?」
目を思いきり開け、双熾の顔をまじまじと見てしまった。
思考が一瞬停止してしまったが、当の双熾はニコニコと笑うだけだ。
「そ、そういうのって……聞くんですか?」
「一応、無礼のないように聞いた方がいいと思いまして」
どう返事をして良いか分からなかったが、言葉を発する前に双熾の顔が目の前にあって。
次の瞬間には既に重なっていた。
「っ、そ、双熾さん!」
「申し訳ありません、確認取らないとこれが夢なのか分からないので。不安、なんですよ」
「やっぱり、ズルいです……」
双熾の目の前になまえの顔があって、一瞬だけど唇が触れた。
「現実です、だから、不安にならないでください」
「なまえさま!」
もう一度双熾はなまえを力いっぱい抱き締めた。
ふわふわとした気持ちが確かにそこに定まって、
これはもう夢ではなく現実なのだと実感出来た。
怖かった、自分の想いが否定されたらどうしようと。
もう彼女がなくては生きていけないほどで。
これ以上ない程の幸せがなくなったら。
でも、彼女は直ぐ側にいて、こんな自分を全て知った上で愛してくれた。
「好きです、大好きです。愛してます、愛してます」
「そ、そんなに言わなくても……恥ずかしいです……」
ふと、空を仰ぐといつの間にか茜色に染まっていたことに気付く。
双熾を抱き締めながら、背後から見える景色を見つめた。
昨日が最後だと思っていた、ここで見たものがもう最後だと思ってこの目に焼き付けて。
でも、今日は新しい出発。
もう一度、この目に今の景色を焼き付け、この想いをもう忘れたりはしない。
私たちは、今日からまた新しく歩き出すのだから…………
続く
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