3
たくさんの話をしてくれた。
菖蒲に出会ったこと、
蜻蛉の世話係として仕えていたこと。
夏目や渡狸に出会ったこと。
一つずつ丁寧に教えてくれ、その一つ一つに耳を傾けた。
「それから、僕は蜻蛉さまの婚約者という方にお会いすることになりました」
「婚約者……」
「狗崎家は青鬼院家との繋がりを求めていた。
そして、菖蒲さんは狗崎家に囚われていた先祖返りの子を助けたかった」
「え、でも、どうして狗崎家に先祖返りがいるって」
双熾の言葉に今度こそ言葉を失った。
菖蒲とは今日初めて会ったはず。
なのに、どうして狗崎家のことを知っていたのか。
「僕にもそれは分かりませんが、狗崎家と青鬼院家の利害は一致しました。
そして、菖蒲さんは僕に家庭教師をやるように命じました」
「それで、私の家庭教師を?」
「はい。狗崎家は青鬼院家との繋がりの為に僕をあなたに近付けることを許しました」
あの家を出て自由を得るにはお金が必要で。
青鬼院家で十分貰えたが、ここで勉強を教えるだけでもっと貰えるなら。
最初はそんな最低な気持ちでいて。
そんなことをずっと言えずにいたと、双熾は語った。
「あなたに出会って、全てが変わりました。
こんなに幸せな気持ちになったのは生まれて初めてでした」
「っ、」
「それから、あなたと離れてしまいました」
外の世界を教えてしまった、自由を教えてしまった。
彼女が外に行って、一族に繁栄をもたらす力がなくなってしまったら。
狗崎家の当主はそれを恐れて軟禁して、
彼女から自由を全て奪っていた。
そんな彼女に外の世界を教えた双熾は邪魔になってしまった。
だから、二人を離してしまったのだと語った、
そして、双熾は妹の唯の家庭教師となり、あの日の事が起きた。
.
[
back]