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なまえを抱えたまま庭を飛び出し、門に向かって双熾は駆け出す。


開いていないはずの門は既に開かれていて、
そこには狗崎家に仕える執事とメイド達が並んでいた。


「な、なに…これ」

「どうぞ、こちらから行って下さいませ」


前に現れたのは執事の田所で、一礼をすると後ろに控えている執事やメイド達も一礼をした。


「なん、で」


小さく疑問を漏らすと、田所は目を細めて口を開いた。


「全て我々が望んでいたことです。御狐神双熾さんとこの日を待っていました」

「どういう、こと?」

「それは彼からお聞きになって下さい。騒ぎになる前にどうか……」


声が小さくなっていく彼を見て、このような姿は初めて見たような気がする。


いつも厳しくいた、そんな彼の姿は今は小さく見えてしまったのだ。


「行きましょう、今はとりあえずここから離れます」


双熾はそのまま開いていた門を飛び出した。


後ろを振り返ることはなく、ただそれに身を任せた。


「あなたの幸せが我々の喜びなのですよ」


その想いは風に乗ってふわりと消える。


田所は少しの間だけ二人が去って行った門を見つめ、直ぐにいつもの執事としての顔に戻った。


「皆さん、そろそろ私共も参りましょう。後片付けがまだ残っております」


田所がそう言うと、執事もメイドも作業をする為に持ち場へと戻った。


今頃は大変な騒ぎになっているであろう。


だが、後悔の念は一つもない。
これで良かったのだと誰しも思っていること。


そして、これが彼女にしてあげられる最初で最後の勤め。
どうか、この先の未来が明るいように、


そう願いを込めて、もう一度だけ振り返り前へ進んだ。










続く
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