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暫くすると蜻蛉と菖蒲が部屋に入ってきた。


それを合図に食事等が運ばれ、狗崎家の当主である父がグラスを片手に持った。


「どうですかな、あのマンションでの暮らしは」

「悪くはない、私が楽しめるものが沢山あるからな!」


狗崎の当主に対しても変わらないいつもの態度の蜻蛉、最早慣れてしまったので特に何も思わなかった。


食事を一応食べてはいるが、何の味がするのか分からない。


そうしていく内に時間は進んでいく、
最初は他愛ない世間話のような会話だった。


時間が進むにつれて話はいよいよ本題に入っていったのだ。


「そろそろ、この子も16になります。ぜひ蜻蛉さんと一緒になっていただきたいと思っております」


そう話すと一瞬で席は静まった。


やはりその話は避けられず、予想していた通りの展開になった。


「そうですね、確かにお嬢様は本当に良い方でいらっしゃるとお伺いしております」

「元々そのつもりでいたしな」


蜻蛉と菖蒲の反応に両親は嬉しそうに笑うが、
なまえはその反対の表情だ。


極力表に出さないようにしていた、
だが、目の前でそう言われてしまうと現実を突き付けられた気分になる。


「私共はなまえさんを気に入っております。しかし、結婚は当人同士の問題です」

「うちの子は幼少の頃より蜻蛉さんと一緒になる運命だと決めています」

「っ、」


膝の上で手のひらを握り締めた。


ここまでだと、脳が勝手に言っている。


確かにこの話を成功させれば狗崎家は安泰だろう、
鬼と一緒になればこの先もずっと。







『どうか……どうか、ご自分の想いを忘れないで下さい。あなたは自由でいいんですよ』






(あ……)


ふと、顔を上げると蜻蛉と目が合った。


彼は口元を上げて笑っていたのだ。






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