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最初は、些細な出会いからだった。
『ご挨拶が遅れました。御狐神双熾と申します、どうぞお好きなようにお呼び下さい』
彼はただの家庭教師、
外を知らない私に初めて外の世界を教えてくれた。
そして、ふわりと飛んでいた私の気持ちを見付けてくれた。
あの空の下を、一緒に自由に歩くのだと約束してくれた。
『本日よりなまえさまのSSとなります御狐神双熾と申します。
なまえさまにお会い出来る日を心待ちにしておりました』
彼はただのSS、
私の生きる世界を全て変えてくれた。
過去も全て受け入れることが出来て、
そして、掴んだ手を離さずありのままの私を受け止めてくれた。
どちらも大切なもので、
どちらも私を変えてくれた。
支えてくれたその手をずっと差し伸べていた。
だから、私は………
「失礼します」
丁寧な仕草で襖を開け、和室へと入っていった。
目の前にいる人物の姿に足を止めそうになったが、
ぐっと堪え、なんとか力を入れて足を進めた。
「…………」
「…………」
既に両親が席に座っていて、一瞬だけこちらに顔を向けたが直ぐに戻った。
両親を見るのは本当に久し振りで、
なんだか違和感があったが、父の隣に静かに着いた。
「くれぐれも狗崎家に恥のないように」
隣からそう聞こえたが、短く返事をするだけで終わった。
久し振りに会った娘に対してそれしかないのか。
そう一瞬思ってしまった。
でも、彼らは自分を娘だとは思っていない。
ただ一族に繁栄をもたらす先祖返り。
そんなことでしか"狗崎なまえ"というものを認識していないのだ。
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