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慣れない着物を着付けてもらい、少しだけ化粧をしてもらった。


ずっといた部屋ではなく、臨時で用意してもらった部屋で待機することになった。


あと少しで食事会という名のお見合いが始まる。
正直、行きたくないし、蜻蛉の顔すら見たくない。


あの男と結婚など考えたくもないくらい。


(その辺歩いてもいいよね……)


気分転換に部屋の外を歩こうと思った。
長年あの鳥籠にいたため、自分の自宅なのに他の所になにがあるなど分からないことが多い。


外に出ないという約束をして、執事の田所の許可を貰って近くを歩くことにした。


広々とした屋敷は和を基調としている。
華道で有名である為、至るところに花が活けてあるのだ。


習い事としてやっていたので、久々にやってみたいなどと思ってしまった。


「綺麗なお花ね」


ふと後ろから声を掛けられ、慌てて振り返った。


そこには見たことがない女性が立っていて、
小さく笑いながらこちらを見つめていたのだ。


「あの……」

「驚かせてごめんなさい、さすが華道の家元の狗崎家だなって思って」

「そう、ですね」


優しく微笑む女性に見覚えはなく、
お客さんなのだろうか、親戚なのか分からなかった。


「あなたが、なまえさん?」

「あ、はい。狗崎なまえです」

「そう、あなたが……」


女性はそう言って小さく何かを言った気がしたが、最後の方はなにを言ったのか聞き取れなかった。


こちらの視線に気付くと女性はにっこり笑った。


「私、青鬼院菖蒲って言って蜻蛉の母親なの」

「……え?」


青鬼院菖蒲と名乗る女性、どう見ても母親という感じではない。


(す、凄い綺麗な方)


なまえはどう返していいか分からず、言葉が詰まってしまったのだ。







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