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やがて男達の目が少し慣れた頃、目の前に金色の双眸が闇夜に浮かんだ。
「だから言ったのに、全て無駄だって……」
再びバサリという音と共に徐々にその正体が浮かんできた。
どこからか雷の音が鳴り響く。
窓の外に目を向けると大粒の雨が窓を叩くように降りだしていた。
一段と強い雷が鳴り、部屋に一瞬だけ光が差し込んだ。
「ひっ……ば、化け物!」
「くっ、来るな!」
「化け物?失礼ね、昔妖怪と交わった人間がいた。
私たちはその先祖返り、れっきとした人間よ?」
金色の双貌に闇夜と同じ色の翼、
先ほどまで着ていた服は着物に変わっていた。
全てが人間の常識の範囲を超えているように見え、
彼らには目の前の少女が異形のものに見えて仕方がない。
「う、撃て!」
銃を手にしていた男をもう一人ね男が促し、
手がガタガタと震え、銃口が中々なまえに定まらないが男は恐怖心からか半ばやけくそに撃ってきた。
人間が作ったものでの攻撃など大した傷にもならない、
なまえは得意の術を繰り出そうと印を結ぼうとした。
しかし、瞬時に現れた影によりそれは止められてしまった。
「なまえさまがお手を汚す必要はございません」
男の銃はいつの間にか真っ二つに切り裂かれ、新しく現れた男は刀を鞘に納めた。
「御狐神、さん……」
数時間前に見た彼とは別の服装と、九本の尻尾と真っ白な耳が生えている。
彼もまた九尾の狐の先祖返りだと、なまえは今さら実感したのだ。
あのマンションに住む者達はみんな妖怪の先祖返りなのだ。
再び鳴り響く雷が部屋に光をもたらし、
なまえの顔を見つめていた双熾の表情が一変した。
「なまえさま、頬が赤くなって……」
「大した傷じゃないですよ、ただ一回パシンと…」
大丈夫だと言い募ろうとしたなまえの言葉はピタリと止み、
代わりに背筋が凍るような冷たい空気が流れた。
男達も異変に気付いたのか、先ほどよりも身体をガタガタと震わせている。
「なまえさまに怪我を負わすとは、殺しても許さないですよ」
そう言った彼の瞳はあの穏やかな瞳ではない、
本当に目の前の彼らを殺そうとしている。
殺気に満ち溢れている瞳だった。
「御狐神さん!もう、気絶してますよ……」
双熾に向かって精一杯叫び、なんとかその殺気が収まらないか、
いくらなんでも一般人に手を掛ける真似はして欲しくない。
「なまえさまに怪我を負わせた彼らを黙って見過ごすことは僕には出来ません……」
「私は大したことありませんから、それに御狐神さんはどうしてそんなに……」
――自分を守ってくれるの?
一番聞きたかった言葉は出てこない、
聞いてはいけないような気がしたから。
彼が自分を助けてくれた上に自分の為に一般人の彼らに手を掛けようとした。
それは狗崎の家だから、
分かっていたはずなのに……
「なまえさま、」
「ごめんなさい、なんでもないです」
「僕は、決してあなたが狗崎の家の者だからお守りしている訳ではありません」
双熾の思わぬ言葉になまえは目を見開いた。
なぜ自分の思っていることが分かるのか、
色々な思いが絡まって言葉にならない。
それを分かったのか、双熾は小さく微笑んだ。
「僕はあなたがあのマンションに越してくると分かった時、絶対になまえさまにお仕えしたいと志願しまし。」
そして双熾はゆっくりと語ってくれた。
なまえがあのマンションに暮らす条件はSSを必ず付けるということ、
そして彼女のSSを希望する者が双熾以外にたくさんいた。
しかし彼らはみんな狗崎の名前を欲していた。
皆その名前の為にSSとして志願していた。
「詳しくはまだお話出来ませんが、これだけは分かってください。僕は狗崎の令嬢だからなまえさまを選んでいないことを」
深く話をするにはまだ時間が必要だった、
だけど狗崎なまえという一人の人を本当に想っていた。
それだけは分かって欲しかった。
「僕はあなたに救われていま生きています。だから、あなたに一生その恩を返したいのです」
「私、が?」
「申し訳ありません、それもまだ詳しくはま言えません、ただ知って欲しいかった、僕はあなたを裏切りません」
裏切らない。
それは誰もが紡いだ言葉。
どうせ彼もいつかは裏切るだろうと思っていた。
しかし、その真剣な眼差しを見れば直ぐに分かった。
彼は本気なんだと、
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