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「おはようございます、なまえさま」
「おはようございます、双熾さん」
いつも通りの朝を迎えた。
昨夜はあれから蜻蛉はそのまま立ち去り、
そのまま分かれて暫く部屋で考え事をしていた。
どうしたい、なんて答えは決まっているはずなのに。
中々その先へいくことはない。
だが、週末までの間に考えて答えを出さなくてはならない。
(私は、考えていいんだね……)
蜻蛉の言うようにここで両親の思うままに生きるのか、
それともそれに逆らって自らの道を開くか。
そのどちらかしかなかった。
「朝食は和食となります」
「はい、大丈夫です!」
「昨日は大丈夫でしたか?体調が悪いのかと皆さん随分心配なさっておりました」
エレベーターの中でふとそう聞かれ、双熾の方を振り向くと彼は心配そうにこちらを見つめていた。
「大丈夫です、心配掛けてごめんなさい」
「退院したとはいえ、具合が悪くなったら遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとうございます、双熾さん」
いつもいつも自分に優しい双熾。
その優しさがどれだけ嬉しくて、
どれだけ助けてもらったのだろう。
そう考えると胸が痛くなる。
「双熾さん」
「はい」
少しだけ深呼吸をして心を落ち着かせた。
一呼吸置き、意を決して口を開いた。
「週末、実家に帰ることになりました」
「ご実家、ですか?」
「はい」
目を一瞬見開いた双熾だったが、直ぐにいつもの表情に戻った。
「では、なまえさまをご実家までお送りします、帰りは連絡を下されば直ぐに向かいます」
「……はい」
双熾は青鬼院家との顔合わせだとは知らない。
だから、そういう答えが返ってくると分かっていたのに。
なにかを期待してしまったのだ。
「迎えはうちの執事が来るそうなので、帰りだけお願いします」
「分かりました」
近くにいるはずなのに、遠くに感じる。
なんとなくそんな感じがした。
胸の痛みを抱えながら、今日という日は始まった。
続く
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