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「はい」
ドアを開けると、そこには珍しい人物が立っていたのだった。
「なにしているんですか、蜻蛉さん。」
「落ち込んでいる花嫁殿の泣き顔を見に来たのだ!」
「は?」
「聞いたのだろう、来週の話を」
蜻蛉の言葉にピタリと止まった。
こちらが知っているということは、やはり彼の耳にも入っているはずだ。
「先ほど、当家の執事から聞きました」
「どうやら本格的に話が進められてるみたいだな」
「…………」
「どうしたいんだ、貴様は」
どうしたい、
そんなのわからない。
そう言った方が正しいだろう。
逆らえない、狗崎の家に逆らうことは決して出来ない。
青鬼院家に嫁げば、狗崎の事業は安泰だろう。
この先もずっと、ずっと、
「このことは双熾は知らない、これを知っているのは私と貴様だけだ」
「そう、ですか……」
「諦めるか、親の思うままに動かされて」
諦める。
その手しかない。
そう思っていても、どうしてか胸が痛い。
「それが答えか、実につまらん」
「私だって、私だって分かんないですよ!」
声を振り絞ってそう叫んだ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしていいかもう分からない。
家のことだって分かる、蜻蛉がなにを言いたいのかも、
そして自分の本当の気持ちも。
だけど、なにが正しくて、なにが答えなのかも全て分からなくなる。
「分からないですよ、本当の答えなんて……」
「そうか、だったら悩め。考えろ」
「え……」
「分からないからって恥じることもない、自分の納得する答えが出るまで考えろ。今の貴様はそれが出来るはずだ」
蜻蛉から出た言葉は本当に意外なもので、
あの彼からそのような言葉が出るとは思わなかった。
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