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真っ白な空間で、一人に慣れていたせいか、皆で美味しくご飯を食べることにまだ照れ臭さを覚える。
それでも誰かが側にいることは、確かに幸せな気持ちになる。
「心当たりあるでしょ?」
「はい、とても……」
「だから、あなたもこれを誰かの為に心を込めて作ってね?」
教師の言葉に頷き、作業を再開した。
(美味しくなれ、か)
今まで一度も考えたことがないのでかなり新しい発見だった。
でも、それは決して嫌な気持ちではない。
むしろ、自分が作ったものを誰かが美味しく食べてくれるなら頑張れる気がした。
(カルタちゃん、渡狸くん、連勝、野ばらさん、とりあえず夏目さんに蜻蛉さん)
一人一人の顔が自然に浮かぶ。
彼らの分も作れるかなと不安だったが、材料が少し余るから余分に作っていいと言われた。
(それに、双熾さん)
カップに元を流し込みながら、仲間とは別に双熾の顔が浮かぶ。
以前、スコーンを振る舞ったことがあった。
それを彼は本当に美味しそうにたべていたことを思い出す。
あの時、本当に嬉しかったことを覚えている。
(あぁ、こういうことか)
誰かと一緒にご飯を食べて、他愛ない会話をして。
そして、自分も皆も笑顔になる。
それはとても尊く、幸せなこと。
一人でずっと過ごしていたからこそ、それがどれだけ大切なのか知ることが出来た。
「先生、私はこれを大切な人達に食べてもらいたいです。初めて、そう思えました」
「そう、あなたの大切な人達は絶対に笑顔になんるわよ」
はい、と力強く返事をした。
家を出てから色んなことがあったけど、
皆がいたから乗り越えられた、それをどうにか感謝の気持ちをあらわしたい。
皆の笑顔に救われたから、皆に笑顔になってもらいたい。
そう思うと、無意識に顔が綻んでいることに自分では気づいていなかったのだ。
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