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「それでは、補習を始めますよ」
「よろしくお願いします」
家庭科の教師に頭を下げ、家庭科の補習が始まった。
今朝、カルタに言われたことを思い出した。
そういえば熱を出してしまった日は家庭科で調理実習だった。
休んでしまったので補習があるなんてすっかり忘れていたのだ。
カルタも伝え忘れていたと言って謝ったが、確認していなかった自分が悪い。
これでなんとか家庭科の成績を落とさずに済んだ。
「じゃあ、レシピ通りに作れるかしら?」
「スコーンしか作ったことがないので、混ぜて焼けばいいんですよね?」
そう問うと、教師はええ、と頷く。
とりあえず目の前にあるレシピ通りに作ることにした。
「えっと……計りでやって」
そういえば、こうして家庭科という授業で調理をするのは初めてだ。
しかも補習ということもあり、たった一人でやっている、
きっとクラスの人と大勢でやると楽しいのだろう。
そんなことを考えていた。
「ねぇ、狗崎さん」
「はい」
「料理はただ焼いたり、煮たり、茹でたりとかするんじゃないのよ?」
材料を混ぜていると、横で見守っていた教師が優しくそう言った。
「食べてもらうその人の笑顔を思い浮かべながら作るの、そうしたらすっごく料理が美味しくなるのよ」
「食べてもらう人の笑顔?」
「相手に美味しいって言ってもらったら嬉しいでしょ?そうしたらまた作りたくなる、それでまた美味しく作ってその人がまた笑顔になる。素敵なことだと思わない?」
教師の言葉に一瞬言葉が出てこない。
そんなこと考えたこともなければ、必要だとか思ったこともない。
ただ、料理が運ばれてそれを食べる。
生きていく上で必要なことだからそうするだけ。
だから、その言葉になにも言い返せなかった。
「例えば、ご飯を皆で美味しいって言いながら食べると笑顔溢れて、温かくならない?」
「そういえば……」
妖館に来て、皆でラウンジで食べる時は笑いなどが絶えない。
誰かが側にいて、今日の学校での様子やどんな過ごし方をしたとか、
テレビの話題とか本当に日常の話なのに、そこには確かに笑顔が溢れている。
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