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記憶に残っているのはふわふわと空を舞うしゃぼん玉で、


私の気持ちも乗せて飛ばしてくれる。


遠くへ遠くへ、


ふわり飛んでも直ぐに割れてしまう。


私と同じ、


どこへ行ったって直ぐに割れて元に戻ってしまう。


しかしあの人は言った、


いつかあのしゃぼん玉のようにふわりと翔ばしてあげる、


だから今はこの気持ちを乗せて飛ばすだけで我慢して欲しい、


いつか本当に翔ばしてあげるから……


信じて待ってて、




















「ん……」


ふと目を覚ますと見知らぬ風景が目に飛び込む、
周りは見慣れないどこかの部屋のようだ。


窓が一つだけある密室。


記憶の糸を辿ると、デパートで双熾が車を取って来るのを待っている間に誘拐にあった。


そこまで記憶があったがその後の記憶がない、
車に乗せられ目隠しをされた所で記憶が途切れている。


その後は恐らく薬品を嗅がされて意識を失ったのだろう。
そして今いるこの部屋に監禁されている。


そこまで分析すると小さく溜め息をつき、
椅子に座らされて縛られている自分に呆れてしまう。


(こんなのに捕まるなんて、私もバカだ……)


自嘲気味に笑うと足音が聞こえ、影を見るからに男二人組だと伺えた。


「おい、目が覚めたのか?」

「なんの用?」

「言っただろ、身代金だ。もうじきお前の実家に電話して金を要求する。お前は大人しく助けてと両親に言えばいい」


先ほどの口振りと今の言葉といい、彼らは自分が狗崎家の人間だと分かっている。


自分でも言うのも変な話だったが、狗崎家は華道で有名な家筋で、更にあのマンションに住んでいれば誰でもお金があると分かる。


恐らくマンションに越して来たのを知っていて、
デパートに買い物をしに来たところまで尾行していたのだろう。


「いいか、今から電話して金を要求する、お前は助けて以外はなにも言うなよ」

「お金目的で私を誘拐して両親を揺するつもりなら止めた方がいいですよ」

「なんだと?」


顔を近付けられた男になんの恐怖もない、
ただなまえは表情を変えずに淡々と事実を伝えた。






昔からケガや病気をしても表情一つ変えない両親、


家政婦や執事や周りには過度に心配されたりしたが、
彼らは一度たりとも心配をする素振りはない。


そんな中でずっと育っている為、今のこの状況に彼らが心配してお金を用意する訳がない。


むしろ狗崎家の恥だと言われるだろう。


それを嫌と言うほど知っていた。


「だから無駄だって言ってるの、もっと別の方法を考えた方がいいんじゃないかしら?」

「っ、この、生意気なガキめ!!」


パチンと渇いた音が響き、なまえの白い頬はみるみると赤くなった。


「おい、無傷でやらねぇと…」

「うるせぇ!っ、だったら殺してやれば両親もさすがに動くだろ!」


ヒリヒリと頬が痛かったが、男の言葉に冷静に返してやりたいと思った。


殺しても動かないだろう、と。


さすがにそれまで言うと逆上して何をするか分からない。


死に対する恐怖はない、


ただ脳裏に過った彼が心配だった。


(私が死んだら御狐神さんが無職になる…
あぁ、でもあのルックスなら直ぐに誰かのSSに就けるよね)


死ぬ手前で呑気にSSの心配をする自分がおかしかった。


全てを包み込むような、安心出来る笑み、
異常なまでに優しい気遣いと行動を1日共にしただけだった。


だがいつの間にか彼の顔が頭から離れない、
出会って1日だけなのに不思議に思えて仕方ない。


「お前の死体は狗崎の家に送ってやるよ」

「お、おい、いきなり止めとけよ」


もう一人の男が止めに入ったが、銃を向ける男の様子は半ば自棄になっている。


ふいに窓から見えた空の色に気付いた。


「夜になったのね…」

「なんだ?死ぬのが怖くなっておかしくなったか?」


一人言のように呟いたなまえに男は鼻で笑った。


しかし、次の瞬間には彼らの表情が一変した。


「なっ、なんだ……この絡み付くような空気は…」

「おい、急に暗くなっ……」


急に暗くなった室内、ねっとりと絡み付くような空気。


そして彼らの耳朶にバサリという聞き慣れない音が響いた。




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