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部屋に入ると着替えて待っててください、という言葉に甘えて先に着替えて椅子に座る。
その間に目の前で双熾がパッと作っていたのだ。
「出来ました」
「お茶漬けですか?」
「はい、簡単で申し訳ありませんが、この時間ですのでこういったものが胃には優しいです」
「あ……」
優しく微笑む双熾になまえは気付いた。
本当にいつだって自分のことを分かってくれて、最初に欲しい言葉を見付けてくれる。
そんな彼にいつしか安心を覚えてしまった。
「いただきます」
「はい、お口に合えばいいですが……」
一口、口に含むとお茶の香りが広がる。
確かに脂っこいものを食べた後にお茶漬けは良くて、ついつい全部食べてしまった。
そんななまえの姿を双熾は優しい瞳で見つめていたが、本人は気付いていない。
「ごちそうさまです、美味しかったです!」
「ふふ、良かったです。お口に合ったみたいで」
なまえの笑顔に双熾は安心し、彼女が食べ終わったものを片付けた。
そんな姿にただ申し訳ない気持ちになってしまう。
「すみません、色々とやってもらって……」
「いいえ、僕はあなたに仕えることが喜びであって生き甲斐ですから。なまえさまが笑顔になるのでしたら、どんなことでもしますよ」
「どんなことでもって……でも、ありがとうございます」
その言葉に少し引っ掛かるが、純粋に双熾の気持ちが嬉しいのでお礼を言う。
彼といると本当に安心してしまう、でもそこに甘えるというつもりはなかった。
「なまえさまは……」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。ただ、忘れないでください」
双熾は笑みを崩さないままなまえの手を取り、手の甲に唇を落とした。
突然の出来事に一瞬頭が真っ白になり、上手く言葉が出てこなかった。
「僕は、あなたの犬。どんな時でもあなたのお側に……」
「っ、」
「夜も遅いですし僕はそろそろ戻りますね」
上手く言葉が出ないが、頷くと双熾はテーブルを拭いてからそのまま部屋を出ていった。
その姿を呆然と眺め、未だに動けない。
双熾の唇が触れた手の甲がやけに熱く感じる。
心臓の音もやけに大きく聞こえて、なまえは逸る心臓を抑えながら色々な気持ちを抱えていたのだった。
続く
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