3





帰宅したのはすっかり夜になった頃で、あれからほとんどなにも口にしなかった。


蜻蛉との話もそこそこで、いま簡単に答えが出せるものではない。


いきなり現れて結婚の準備を進められていると聞かされても、気分が乗らない。


でも、抵抗しても無駄だというのはよく分かっている。


両親は本気で青鬼院家と繋がりを求めている。
私ひとりが抗っても無駄。


分かっている、はずなのに。


「おかえりなさいませ、なまえさま」


部屋の前にいたのは双熾で、思わぬ出迎えに一瞬言葉が出なかった。


「蜻蛉様から遅くなると連絡をいただきました、ですがやはりお顔を見たくて」

「っ、そ、そうだったんですか……」


恥ずかしいことをサラッと言ってしまう辺りは変わらない、だけど、やっぱり慣れることはない。


遅くなると知っていても、帰りをこうして待っていて嬉しいと思ってしまった。


「あの、待たせてしまったみたいなのでお茶でも……」

「いえ、なまえさまのお顔が見られただけで充分です。ありがとうございます」

「そういうわけには……」


ぐうー


「…………」

「…………」


話の途中でお腹が鳴る音が響く。
その瞬間、なまえは顔を手で覆った。


「夕食は召し上がらなかったのですか?」

「食べる気分じゃなくて……」


あくまで優しく問う双熾に、本気でここから消え去りたいと思った。


まさかこんなとこでお腹が鳴るとは思わない。
そこで初めてお腹が意外に空いていたことに気付く。


「お部屋に上がってもよろしいですか?あとキッチンもお借りしたいのですが」

「え、」

「軽いものをお作りします。このままでは眠れないでしょう」


微笑む双熾に断ろうとしたが、お腹が空いていることは事実。


目の前の優しさを退けることも出来ず、結局お願いしますといって部屋に上げたのだ。





.

prev next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -