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帰宅したのはすっかり夜になった頃で、あれからほとんどなにも口にしなかった。
蜻蛉との話もそこそこで、いま簡単に答えが出せるものではない。
いきなり現れて結婚の準備を進められていると聞かされても、気分が乗らない。
でも、抵抗しても無駄だというのはよく分かっている。
両親は本気で青鬼院家と繋がりを求めている。
私ひとりが抗っても無駄。
分かっている、はずなのに。
「おかえりなさいませ、なまえさま」
部屋の前にいたのは双熾で、思わぬ出迎えに一瞬言葉が出なかった。
「蜻蛉様から遅くなると連絡をいただきました、ですがやはりお顔を見たくて」
「っ、そ、そうだったんですか……」
恥ずかしいことをサラッと言ってしまう辺りは変わらない、だけど、やっぱり慣れることはない。
遅くなると知っていても、帰りをこうして待っていて嬉しいと思ってしまった。
「あの、待たせてしまったみたいなのでお茶でも……」
「いえ、なまえさまのお顔が見られただけで充分です。ありがとうございます」
「そういうわけには……」
ぐうー
「…………」
「…………」
話の途中でお腹が鳴る音が響く。
その瞬間、なまえは顔を手で覆った。
「夕食は召し上がらなかったのですか?」
「食べる気分じゃなくて……」
あくまで優しく問う双熾に、本気でここから消え去りたいと思った。
まさかこんなとこでお腹が鳴るとは思わない。
そこで初めてお腹が意外に空いていたことに気付く。
「お部屋に上がってもよろしいですか?あとキッチンもお借りしたいのですが」
「え、」
「軽いものをお作りします。このままでは眠れないでしょう」
微笑む双熾に断ろうとしたが、お腹が空いていることは事実。
目の前の優しさを退けることも出来ず、結局お願いしますといって部屋に上げたのだ。
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