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(本当に、中華……)
目の前には中華料理が並べられていて、隣にいたカルタがいつものように気持ちいい食べっぷり。
それを見ているだけで何故だかお腹いっぱいになる。
「さぁ、遠慮せずに食べるといい」
「そんなことより、帰りたいです」
ズバッと本音を言うと、蜻蛉は一瞬だけ驚いたような表情をした。
珍しいと思った次の瞬間、彼は盛大に笑った。
「それは無理だ!」
「そう言うと思いました」
「ならば諦めて食べるといい」
なんという強情さなのかと呆れたが、昔会ったときも確かこんな感じでかわらなかった。
双熾の記憶はなくなっても、彼の記憶はなくならかったのか、腹立たしくて仕方ない。
カルタや渡狸たちも中華を食べているので、とりあえずそれに習って食べ始めた。
「ところで、花嫁殿」
「なんでしょうか」
「記憶が戻った今、それでも双熾の側にいることを望むか?」
動かしていた箸がピタリと止まる。
まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったから。
ふざけた態度をしていた彼の問いの真意が見えない。
「昔、貴様は言った。自分に自由はないから結婚だろうと好きにすればいいと」
「随分昔の話を覚えているんですね」
「それはそうだ。だが、貴様は双熾に出会って何かが変わった。違うか?」
見掛けの割りには考えていることはちゃんと考えている。
分かっている。
忘れていた記憶と、置き去りにしていた気持ち。
私はそれを思い出してしまった。
きっと今までのような関係を続ける自信がない、
このまま、本当にこの男と結婚することが出来るのだろうか。
「まぁ、今はせいぜいこの生活を楽しむことだな」
「そうですね」
「本当に抗わないんだな、もがいていた方が私は更に弄り甲斐があるぞ!」
「蜻蛉さんの趣味はどうでもいいです」
高らかに笑う声は最早聞いてない、
ただ、彼が言ったことが引っ掛かった。
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