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「では、今日はこれまで」
教師の言葉が合図かのように、生徒たちが一斉に立ち上がって礼をする。
これで今日の授業は終わりだ。
黒板のものをノートに丁寧に書き写し、なまえは帰り支度をした。
そういえば今日はカルタの姿を見ていない、彼女は一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「はぁ……」
婚約者の蜻蛉が同じとこに住んでいて、両親がまだ彼との結婚の為に動いていることを知る。
すっかり忘れていたが、こうなる日が来ることは分かっていた。
覚悟も決めていたはずなのに。
両親の思い通りになりたくなかったが、互いに恋愛感情もないのに、果たして結婚してよいものなのだろうか。
そんなことを昨夜から考えていた。
「帰ろう……」
こちらがいくら考えても両親の思惑からは逃れられない。
どれだけ蜻蛉のような強い鬼の力を望んでいるか知っている。
「はぁ……」
少しだけ重たい足取りで教室をあとにした。
正門の前まで出ると渡狸がいて、彼はどこかやつれきったような姿で少し心配になった。
「大丈夫?渡狸くん……」
「おう……」
そういえば昨日は倒れた姿しか見ていない、もしかしたら具合が悪いのかなど考えていた。
すると後方から見たことのない車がクラッシュを鳴らしてきた。
「昨日の夜振りだな、花嫁殿!」
「…………」
「無視とはドS!それにめげない私は更にドS!」
高らかに笑う蜻蛉、しかしここは正門の前。
普通の生徒達が通る、彼らは皆、蜻蛉をもの凄い目で見ながら通り過ぎていく。
これ以上ここにいるわけにもいかず、ふと車の後部座席を見るとカルタがいたのだ。
「か、カルタちゃん?」
「北京ダック!」
「は?」
「さあ、花嫁殿。中華をたべるぞ、中華を!!そして我々の今後を話す!」
蜻蛉は唖然としているなまえの腕を掴み、車に押し込んだ。
更に渡狸まで車に乗せられ、彼は嫌だと叫びながら抵抗するが、それも虚しく車は発車してしまった。
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