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「なまえさま、お荷物お持ちします」

「いや、自分で持てます」


このやり取りは先ほどから何度目だろうか、そんなことを考えている余裕はない。


これだけで時間がかなり食っているのだから。






今日はようやく退院の日。
普通の人よりも治りが早いから、一応自宅で安静ということで退院の許可を貰った、


退院の手続きや片付けは双熾がやっていて、ほとんど何もしない状態で退院となる。


せめて着替えが入った荷物は自分で持とうとしたのだが、それを双熾に止められた。


まだ安静にしないといけないから、荷物は自分で持つと言い張る。


それもリハビリの一つだとこちらも言い張るが、先ほどからこのやり取りが続いているのだ。


「あ、それよりもう大丈夫ですか?」

「はい、退院の手続きは終わりました。あとは帰るだけですね」

「ありがとうございます、では帰りましょう!」


なんとか強引に言い、荷物を手に持ったままそそくさと病室を出た。


そんななまえの姿を見た双熾は小さく笑う。


「本当に、変わらない………」


全てを思い出した彼女と、入院中は色々な話をした。


最初は彼女との思い出話、そして、昔みたいに外の世界。自分が見てきた世界を話した。


ひとつひとつに興味津々に耳を傾け、自分の世界はまだまだ狭いですね、と言った。


それでも、今はその世界を自分の足で確かめることが出来ると喜んでいる。
そんな幸せそうな笑顔がとても愛しい。


ずっと願っていた笑顔が確かにそこにあった。


心がとても満たされていく。


「双熾さん、大丈夫ですか?」


中々来ない双熾を案じたなまえは病室のドアから顔を出して、中にまだいる双熾に声を掛けた。


「申し訳ありません、すぐに車を回してきます」


双熾は忘れ物などがないか、今一度確認をして今度こそ病室を後にした。


それになまえも続き、長いようで短い入院生活は終わった。


「あ!」

「どうかなさいましたか?」

「そういえば、学校………風邪で休んでから1週間経ちますよね?」


歩きながらふと思い出した、学校は当初風邪で休んでいるはずなのに。
まさか入院という事態になるとは思わなかった。


高校の授業の内容は付いていけるので心配はないが、さすがにクラスの中に行けるか不安があった。


「ご安心下さい、学校には風邪がかなり酷くて絶対安静ですってお伝えしてます」

「かなり重症患者みたいですよ………」

「幸い、まだ学校は始まったばかりなので大丈夫ですよ。補習などでカバーしていただけるようです」

「よかった………」


入学して間もないのに、こんなに休んでいていいのか不安になった。


補習でカバーしてもらえるなら助かった。
いくら事故とはいえ、今後はこういうことがないようにしないといけない。







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