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手を伸ばせば届く光。
本当はずっと目の前にあったのに、掴もうとしなかったのは己の弱さ。
きっと、もっと話しをしてお互いを分かち合っていたらどうなっていたのだろうか。
少しだけ、分かった気がする。
彼らが姉を好きになった理由が。
そして、初めて恋をした人が姉を愛してることも全て分かった。
「友達、か………」
「友達って、ここに来て初めてステキなものだって分かったの。だから、私達も今日から友達としてよろしくね」
「………そうね」
いつも誰かに構われている彼女が眩しかった。
それは先祖返りだからと思っていたが、どうやらそれは違ったみたいだ。
「じゃあ、帰るね。また向こうに帰らないと」
「えっ、もう?」
「学校もあるしね、そろそろ戻らないとうるさいから」
突然の別れの時間に寂しさが増す。
もっとたくさん話しをしたい、今まで過ごせなかった分を少しでも埋めたかった。
言葉を失ったなまえに唯は笑いながら言った。
「また来るわよ、ちゃんと」
「え……本当?」
「うん。でも、私も少し色々と整理したいから、いつとは言えないけど」
「それでも、来てね!絶対だよ、約束!」
なまえの言葉に唯は頷き、荷物をまとめて病室を出ようとした。
なまえと再会する前とは明らかに違った気持ちでいる。
会えてよかった、そう思えた自分がそこにはいたのだ。
「唯、ありがとう」
病室を出る間際に後ろから聞こえ、唯は振り返らず病室を出た。
「本当に、お人好し」
なまえの病室の外には双熾がいて、唯が出てきたのを小さく微笑みながら立っていた。
「盗み聞きなんて趣味あったのね、双熾さん」
「盗み聞きなんてとんでもないです、あなたのお見送りですよ」
どこまで聞いていたのか、あるいは最初からいたのだろうと唯は思った。
しかし、過ぎたことをいちいち言うこともない。
溜め息を嫌味ったらしくついて唯は歩き出した。
「なまえちゃんがあのマンションに来てよかった、それとあなたに出会ったことも」
「ありがとうございます」
それだけ言うと唯は双熾の横を通り過ぎた。
そして、ポツリと双熾に一言告げていった。
「承知致しました」
双熾は後ろ姿の唯に頭を深く下げた。
彼女の想いに昔は応えられなかったが、その願いは守り抜こうと誓う。
『幸せにしてあげてくださいね』
双熾はゆっくり頭を上げ、廊下の窓から見える夕陽を見つめた。
それはひどく穏やかに映り、この景色をこんなにも晴れやかな気持ちで見る日が来るとは思わなかった。
彼女とどんなことを話そうか。
たくさん話したいことがある、
でも、ただ側にいてくれるだけでそれは何より幸せな時間だろう。
この出会いに、感謝した。
続く
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