3



全てを思い出せて、そしてまた側に彼がいる。
こんなに幸せなことはない。


ずっと、なにも覚えていない自分を守ってくれて。
そのことにどれだけ感謝してもしきれなかった。


双熾がようやく体を離すと、外から控えめなノックが聞こえた。


病室のドアが開かれると、そこには妹である唯が立っている。
唯の姿を見た双熾はなまえを背中で隠すようにしてたち立ち上がった。


それを見た唯は小さく笑い、その表情は今まで見たことがない自然なものだ。


「双熾さん、暫く唯と二人にさせてもらえませんか?」

「ですが……」


双熾はなまえに珍しく頼みごとをされ断るわけにはいかなかったが、今回は状況が状況なだけにその頼みを素直に聞き入れる訳にはいかなかった。


「あなたが頑張らなくても、なまえちゃんに何かあったら外にいる人達が真っ先に来るわよ」

「そうでしたね……では、僕は外で待機してます」


渋々ではあったが、外には唯と一緒に来たと思われる妖館の仲間達がいる。


何かあれば直ぐに駆け付けられる。
そう考えると幾分か安全ではあった。


双熾は一礼をして、病室をあとにした。


彼が居なくなると部屋は静かになり、何から話して良いか分からなくなった。


思えば、こうして二人きりで面と向かって話をするのは初めてだと呑気に考えてしまう。


「私ね、他人にあんなに怒られたの初めて。知ってる?なまえちゃんが倒れた後、あの人達がもの凄い勢いで怒ったのよ」

「そ、そう、なの?」


倒れた後の話はほとんど聞かされず、双熾からあのあとは大変だったとしか言われていない。


唯によると、まずは野ばらに説教をされとそうだ。
その後は渡狸に泣きながら姉は大事にしないとダメだなど言われた。


カルタは相変わらず食べてるだけで、夏目はただ双熾をからかって遊んでいたらしい。


「変な人達。よく連勝もなまえちゃんもつるんでられるね」

「…………うん」

「でも、連勝に怒られたのはさすがに怖かった。昔から優しいお兄ちゃんだったのに」


唯はどこか遠くを眺めながらそう呟いた。


連勝は自分の幼なじみだが、唯にとっても彼は幼なじみ。


だが、この二人のやり取りなどは見たことがないのでまだそれは実感できなかった。






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