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時計の針は既に夕刻を指していて、そろそろ連勝もかえらなければならない時間だった。
楽しい時間はあっという間で、たまにしか会えないので余計に寂しさが増してしまう。
ドアまで見送るなまえの表情からそれをよみとったのか、連勝は小さく笑って彼女の頭に手を乗せた。
「大丈夫だ、これからは毎日会えるし、楽しいこともたくさん待ってる。だからそれまであと少し。頑張れ。」
「うん……ありがとう。」
彼の言葉はいつだって優しい。
不安があっという間に消えていく、
連勝の言葉を噛み締め、なまえは彼に短い別れを告げた。
そう、これからは毎日会って毎日色んな思い出を作れる。
そう思うとこの別れは今までとは違った。
「さて、夕飯まで片付け進めなきゃ。」
今まで感じたことがないこの気持ち。
ここから出られれば何かが変わる。
ただ、今はそれを信じて………
「おっ、ただいま。」
「お帰りなさい、反ノ塚さん。」
連勝はマンションに着くと段ボールを抱えていた青年に声を掛けた。
青年は抱えていた荷物を端に置いた。
「元気だったよ、それになんか楽しそうだった。」
「そうでしたか、それは良かったです。」
連勝の報告に青年は嬉しそうに答え、再び荷物を持ち上げた。
「なぁ、ミケ。本当にこのままでいいの?」
「僕はなまえさまのSS、お側にいられるだけで幸せです。今度は絶対に守りたいのですよ………」
ほとんどのことを知っている連勝は彼の言葉の重みも悲しみも、覚悟も分かっていた。
幸せだと話す彼に嘘もなく、本当に正直な気持ちだと。
「頑張れよ、ミケにならあいつを任せられる。」
「勿体ないお言葉です。でも、ありがとうございます。」
分かれた道、
そして失われた記憶。
彼女が例え覚えていなくてもこの胸の奥でしっかりと覚えている。
覚えていないなら、今度は新しい思い出を作ればいい。悲しみに暮れることがない、明るい未来に向かって。
僕たちは、冬の冷たく悲しい別れを知っている。
そして、これから訪れる春の暖かい陽射しのような出会いに、心踊らす。
大切なあなたの側に。
この身を捧げると誓った。
番外編 完
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