3






時計の針は既に夕刻を指していて、そろそろ連勝もかえらなければならない時間だった。


楽しい時間はあっという間で、たまにしか会えないので余計に寂しさが増してしまう。


ドアまで見送るなまえの表情からそれをよみとったのか、連勝は小さく笑って彼女の頭に手を乗せた。


「大丈夫だ、これからは毎日会えるし、楽しいこともたくさん待ってる。だからそれまであと少し。頑張れ。」

「うん……ありがとう。」


彼の言葉はいつだって優しい。


不安があっという間に消えていく、


連勝の言葉を噛み締め、なまえは彼に短い別れを告げた。


そう、これからは毎日会って毎日色んな思い出を作れる。


そう思うとこの別れは今までとは違った。


「さて、夕飯まで片付け進めなきゃ。」


今まで感じたことがないこの気持ち。


ここから出られれば何かが変わる。


ただ、今はそれを信じて………






















「おっ、ただいま。」

「お帰りなさい、反ノ塚さん。」


連勝はマンションに着くと段ボールを抱えていた青年に声を掛けた。


青年は抱えていた荷物を端に置いた。


「元気だったよ、それになんか楽しそうだった。」

「そうでしたか、それは良かったです。」


連勝の報告に青年は嬉しそうに答え、再び荷物を持ち上げた。


「なぁ、ミケ。本当にこのままでいいの?」

「僕はなまえさまのSS、お側にいられるだけで幸せです。今度は絶対に守りたいのですよ………」


ほとんどのことを知っている連勝は彼の言葉の重みも悲しみも、覚悟も分かっていた。


幸せだと話す彼に嘘もなく、本当に正直な気持ちだと。


「頑張れよ、ミケにならあいつを任せられる。」

「勿体ないお言葉です。でも、ありがとうございます。」


分かれた道、


そして失われた記憶。


彼女が例え覚えていなくてもこの胸の奥でしっかりと覚えている。


覚えていないなら、今度は新しい思い出を作ればいい。悲しみに暮れることがない、明るい未来に向かって。






僕たちは、冬の冷たく悲しい別れを知っている。





そして、これから訪れる春の暖かい陽射しのような出会いに、心踊らす。





大切なあなたの側に。



この身を捧げると誓った。









番外編 完

.

prev 

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -