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こちらは番外編になります。
時間軸は、ヒロインが妖館に住む少し前の出来事です。
ご理解の上、下記にお進みください。
それはまだ桜が蕾を覗かせている季節。
毎年、この季節は新しい出会いなどで胸が踊る季節だと、昔誰かに言われたことがあった。
それを教えてくれたのは誰なのか分からないが、何故かその言葉はずっと残っている。
この鳥籠にいても季節は関係ない。
ただカレンダーの一枚が無くなっていくだけ。
今年は違った。
少しだけ、誰かが言ったその言葉を理解することが出来た。
「荷物は………これだけでいいわね。あとはマンションに送ってもらえば。」
荷物といっても洋服くらいだ。
必要最低限持てば生活には困らない。
なまえは一段落つくと、長年暮らしてきた部屋を見渡す。
真っ白な壁、本がたくさん並んだ部屋。
ベッドとテーブル、パソコンぐらいしかこの部屋にはない。
この4月からこの家を出ることを許可された。
あれだけこの部屋から出ることを許さなかった彼ら。
どうせこの家の繁栄だとかそういうことだろう。
理由はどうであれ、この家から出られることはとても喜ばしいこと。
一生出られないと覚悟していたので、今このチャンスを逃したくない。
面倒な条件付きではあるが、ここで一生を終えるよりは遥かにマシだ。
(一生、この家であの人達の思い通りに生きていたくない………)
普通の女の子みたいに生きたい、
学校へ行って勉強して、何でもないことを話したり、遊んだり、
当たり前のようなことをこれからはもっと出来る。
先祖返りだということは関係ない。当たり前に毎日を楽しく過ごしたい。
「よっ、」
「びっ、ビックリした!連勝か……」
誰も来ない部屋に突如背後に現れた幼なじみ。
確か、彼と会ったのは随分前だったような気がした。
「一応許可は得てるし、ノックもしたけど気付いてないみたいだったし。」
相変わらずな幼なじみの姿に思わず笑みを溢した。
この中で唯一彼だけとは合流がある。
頻繁に会っている訳ではないが、同じ先祖返りとして彼を紹介されたのはかなり前だ。
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