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悲しい時は、


笑わないで、


たくさん泣いて欲しい。






「あれは……」


学院内を歩いていると、
良くも悪くも一目で分かりやすい人物に目が止まる。


(まあ、この辺りを歩ける女性なんて、二人しかいないですしね)


声を掛けようとしたが、一瞬だけ見えたその横顔に足が止まる。


普段見慣れないその表情に、『いつもの』調子でいくのが正解なのか考えてしまったからだ。


「まあ、考えても仕方ありませんね」


あれこれ考えるのはめんどくさくなって、
導き出した一つの答えに従って、
息を吸って大きな声で、彼女の名前を呼んだ。


「花さーん!あなたの日々樹渉ですよー!」


名前を呼ばれた彼女は、驚いたように振り返ったけれど、


人の顔を見るなり、次の瞬間には校舎内に向かって走り出してしまった。


「おや、逃げるとは……面白い!」


予想外の出来事に火がついて、逃げ回る彼女をそのまま追い掛けるように校舎内へ同じく入っていく。


それから暫く、彼女を追い掛けていくこととなる。















「確か、ここに……」


最終的に行き着いたのは屋上で、
階段をかけ登る彼女を見掛けたから、ここにいるのは間違いない。


そう思いながら辺りを見渡すと、
屋上の隅に身を隠そうとする彼女の後ろ姿を見つけた。


「ふふーん、捕まえましたよ!」

「ひっ!」


その背中を抱き締めると、彼女の体は小さく跳ねて、
恐る恐るこちらを振り返った。


「な、なんで追い掛けてきたんですか!日々樹先輩!」

「あなたが逃げるからでしょう、人の顔を見るなり逃げ出すなんて……」

「いきなり大声出してこっちに来ようとしたのは、先輩じゃないですか!」


反論する彼女の姿が可愛らしくて、思わず抱き締める手に力が入る。


「ちょっ……く、苦しいです…!」

「あぁ、すみませんね。どうにも気を付けていても、まだまだ力加減が分かりませんね」

「はぁ……」

「怒らないでください……とりあえず座りましょうか」


呆れているであろう彼女だったけれど、
こちらの言うことに今日はやけに素直に従っている。


(相当弱っているのでしょうね……)


「なんでニヤニヤしてるんですか」

「そんな顔に見えましたか?」


小さく笑いながら誤魔化していると、
彼女は諦めたように、それ以上は突っ込んではこなかった。


彼女を離して、並んでその辺りに腰掛ける。


「女性がスカートを汚しますよ」

「いいですよ……別に」


そのまま座ると、彼女は小さく息をついた。


その横顔からは疲労の色が出ていて、
やはり先ほど見た表情に間違いはなかった。


「花」


名前を呼ぶと、彼女はこちらに顔を向けるとその肩をそっと引き寄せた。


「ひ、日々樹先輩!?」

「静かに、誰に見つかったらどうするんですか?」

「だったら離してください!」


嫌だ、と彼女の意見に反するように手を緩めずにいると、
この行動の意味が分からないと言わんばかりの目で睨まれる。


そんな顔で睨んだところで、可愛いとしか思えないのに。


小さく笑いながらそんなことを思う。


「本当に……日々樹先輩は、意味分からないです」

「分かってしまったら面白くないでしょう?ミステリアスな私がお好みならそのように演じましょう!」


そう微笑むと、彼女は不満そうな顔でこちらに視線を向けた。


「意味分からないけれど、演じなくていいです。ありのままの先輩でいいです」

「私に演じるなと言うのは面白いですね」

「だったら、私も演じません」


もたれ掛かるように私に体を預けると、
小さな声でポツリと呟く。


「少しだけ、疲れたので肩を貸してください」


彼女から出てきた言葉に驚いたが、
誰にも疲れたと言わずに走り続けた彼女から告げられた本音に少しだけ嬉しくなる。


良いでしょう、


疲れたらいくらでも肩を貸して、
笑い疲れるまで笑顔にしてあげたい。


羽根を休める場所が欲しいなら、
いつでも私の側に来て欲しい。


だから……


「あなたが私を望むなら、私もあなたを望みましょう」


そっと目を閉じる花の頭をそっと撫でると、


心地よい風に同じようにそっと目を閉じた。















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ひびきわたる難しい……

でも好きです!!!

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