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歌が聴こえる、


最初に聞いた時とは違う、


悲しみの歌が………














「ん……」


目が覚めると室内が橙色に染まっている。


いつの間にか机に突っ伏して寝ていたのか、
慌てて体を起こすとなにかが床に落ちた。


「せい、ふく?」


床に落ちたジャケットを拾い上げると、
サイズからして自分のものではないようだ。


一体誰のものなのか分からないまま、
手元の書類に視線を落とし、思わずため息がもれる。


確か、教室が空いていなかったため、
活動がない軽音部の部室で次のライブに向けて企画書を作っていた。


それがいつの間にか寝ていたせいか、
企画書が一切進んでいない事実に思わず頭を抱える。


(確か、朔間先輩に明日この話をするんだよね……今日は徹夜かな)


少しだけ寝たおかげですっきりしたような気がして、
このまま作業を再開しようか、家でやろうか悩んでいると、後ろからガタッと音がした。


「ふぁ……おや、もう起きておったか」

「朔間、先輩?」


軽音部に置かれた棺桶の中から、朔間先輩が眠たそうに目をこすりながら体を起こした。


そして、私の顔を見るとにっこりと笑う。


「少しは顔色がいいみたいだのう、やはり短時間でも寝るのが一番じゃ」

「えっと……」

「少し前に一度起きたら、おぬしが寝ておったからのう……」

「あ……」


そういえば、朔間先輩はいつもこの棺桶で寝ているということをすっかり忘れていた。


編入して来てから時間はある程度経っているはずなのに、
そのことを時々忘れてしまうのだった。


(そもそも、普通の人は棺桶で寝ないしね……)


そんなことを思いつつも、この状況に慣れていかないといけないと分かってはいた。


「このジャケットは朔間先輩のですか?」


「おお!そうだったのう、春で暖かいとはいえ、暗くなると少し肌寒いから気を付けたほうが良いぞ」

「あ、ありがとうございます…」


手にしていたジャケットを慌てて返すと、
朔間先輩はお礼を言って受け取る。


「それにしても、あまり無理してはいかんぞ?」


優しい眼差しを向けられ、朔間先輩の手がそっと私の頭に乗せられる。


頭に乗せられた手は、やがて優しい手つきで撫でられた。


「あの……朔間先輩…」

「若いからといって、無理は禁物じゃ」

「若いって……あまり朔間先輩と年齢が変わらない気がするんですけど」

「我輩は吸血鬼、長いこと生きている身だからのう」


朔間先輩の吸血鬼発言も慣れていない原因の一つでもある。


「それだけ長く生きているから、分からないこととか困ったことはなんでも我輩に聞くといい」

「今のところ特に……」

「ふむ、わんこの言う通り意外に頑固だのう」

「……なに言われたんですか」

「それは内緒じゃ」


笑顔で跳ね除けられたけれど、幼なじみはろくなことを言っていないようなきがしてならない。


ただ、ここで聞いても素直に教えてくれないということは分かっていた。


「不慣れなことも多いから大変だろう、と心配しとったぞ」

「そんなことは……」

「無論、我輩も花を心配しておる」


初めて、朔間先輩に名前を呼ばれたような気がして、思わず驚いてしまう。


そんなことを気にしていない朔間先輩は、
だからあまり無理をせずに、周りを頼るのだと言った。


「はい……」

「ふむ、素直で良い子じゃ」


優しい手つきのまま、しばらく朔間先輩にされるがままに頭を撫でられ続けた。


この空気は嫌じゃないと思いながら……










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