星の花束をただ君に愛を込めて



好き、


そんな言葉をあれから何度も言われて、その度にくすぐったくなるような気持ちになる。
だけど、私はそれにも素直に答えることが出来なかったけど、彼はそんな私の心を全て見透かしてるようにただ笑うだけだった。








「ほら、サボった分のノート、写すんだろ?」


バサバサと目の前に何冊もノートが積まれて、驚いた私はその本人に視線を送ると呆れたような表情をしていたのだ。


「あ、ありがとう」

「あと、朝は悪かった……つい、カッとなってだな……」

「怒ってないよ……ゆき」


黄瀬の話によると、私が逃げた後にゆきからかなり怒られたそうで、
私を探すように行けと言ったのも彼だったということも聞いていた


結局、中途半端な時間だから二人して最後までサボってしまったのだ。
その間は屋上に隠れて他愛のない話をたくさんしていた。


こそこそと教室に戻るとあれだけの騒ぎになってしまった為、先生からも特に怒られることがなかったのだ、


「解決、したんだろ?」


既に帰って空席になってしまった前の席のイスに腰掛け、ゆきはそう私に投げた。


「した、多分」

「多分じゃねぇだろ、またなにかあってもなんもしねーぞ」

「だから、ありがとう」


本当に彼がいなかったらもっと事態がこじれていただろう、 だから感謝しても足りないくらいだ。


「んだよ、素直に言えるじゃねーか」

「いつも言ってるじゃん」

「言ってねーよ!」


そんな話をしていると私のゆきの側に数人の女子が近付いてきた。
彼女たちは今回の黄瀬のことで絡んできた人たち。


中にはクラスじゃない人もいるからいちいち名前とか覚えていない、
彼女たちが近付くとゆきも少しだけ警戒したように身構えた。


「あの、みょうじさん」

「はい、」

「ごめんなさい、少しやり過ぎて……二度とやらないって黄瀬くんにも言ったから、みょうじさんにも謝ろうと思って」


彼女の口から出た黄瀬という単語に反応してしまった、
どうしてここで彼の名前が出たのだろうか、そして黄瀬にも同じようなことを言ったということなのか。


そこまでは追及出来なかった。


何故なら、クラスの入り口に黄瀬が来ていて私の名前を呼んだからだ。


「部活、行きましょう!先輩」


彼の姿を見るなり女子たちは、それだけだからと言ってそのまま走り去ってしまった。


「なに、あれ……」

「まあ、解決してるからいいんじゃねーの」


一瞬のように過ぎてしまった為、私の中で一体なにが起きたのか理解出来なかった。
ただ、それを見ていた森山が、普段優しい男を怒らせるとすごい迫力だよな、という謎の言葉を残して体育館へと向かったのだ。


それから荷物をまとめてゆきと黄瀬と体育館へ向かって、いつもと同じように部活が始まっていった。





















「疲れたっス」

「………お疲れさま」


体育館から着替えて校門で待ち合わせをしていた黄瀬はしゃがみこんでいた。


二人してサボったことが監督の耳にも入って、事情は分かった監督が黄瀬だけ特別メニューを課していたのだ。


普段の倍の練習メニューをこなして、終わった頃にはヘトヘトになったところを、
ゆきや森山達に更に掃除やらコキを使われて一人だけ満身創痍だった。


「でも、先輩の為ならこのくらいどうってことないっスよ!」

「ごめん、」

「そこは謝るとこじゃないっス、じゃあ、帰りましょう」


すっと手を差し出されて、ほんの少し躊躇ったけど差し出された手を振り払う理由はない。


いつもはこんなところでこういうことをするのは憚れたけど、
今日からはそんな不安要素もなくなって、もう堂々と出来るんだと実感した。


その手を重ねるとそっと包み込むように繋がれ、照れ臭いけどその温度が私の心にすっと染み込むように感じた。


「なんかバタバタとした一日でしたね」

「そうだね、生まれて初めて授業サボった」

「でも、オレはなまえ先輩のこともう隠さなくていいと思うとすげー嬉しいっス」


私もそうだと、言いたかった。


でも、その言葉を簡単に口に出すことはどうやらまだまだのようだけど、
黄瀬はそれでもニコニコと笑いながら私の顔を覗きこんだ。


「今までなまえ先輩がオレのこと本当に好きなのかな、って不安になってたけど今日ので確信しました、先輩はオレのこと大好きなんスね」

「直ぐに調子乗らない」

「はーいっス……」


思っているとこをちゃんと話せばこんなにも変わるものなのか、
自分の気持ちも聞いてもらえて、それで実感した。


私はちゃんと黄瀬のことが好きだった、と。


「ねぇ、なまえ先輩!空、見てください」


隣から突然そんな声が聞こえて、黄瀬と同じように空を仰ぐ。
やっぱり星がきれいに見える、もうすぐ冬が近付く。


そう思うと自然に気合いが入ってしまう。


「絶対に勝つから大丈夫っスよ、みんなで行きましょう」

「なんか、黄瀬に言われると本当にそうなる気がする」

「約束するっス、絶対になまえ先輩を連れていくって」


差し出された小指を見つめ、その約束の意味を考える。
最後だ、この冬が一緒にいられる最後の試合となるだろう。


だから、私もその重さを分かっている。


「約束、破ったら冬休み以降は一緒にいないからね」

「えっ、それは無理っスよ!?」

「冗談、でも本当に……」


行けるの?って言いたかったのだと思う、
前の私だったらそう言っていたと思うけど、今ならそれを信じてみることが出来る。


そして、私の為にいつも全力で向かってくれる彼に一体なにが出来るのだろうか。


「風邪引くと大変っスから、早く帰りましょうか」

「あの……」

「はい?」


いつもいつも、真っ直ぐに私へ言葉を紡いでくれる彼に出来ることは、


私もその想いに答えて真っ直ぐ向かうことだと思えるようになったから、



「り、り……涼太」


穴があったらそこに全力で顔を突っ込みたい勢いとはこのことだろうか、
とても恥ずかしくて今も逃げそうになる心をなんとか抑えて、ただ下を向いて小さくそう言うのが精一杯だった。


「………先輩、」

「っ、」

「オレ、すげー泣きそうなんっスけど」

「は、はあ?」


顔を上げると今にも泣き出しそうな表情になっていて、私がどうしようかと思って考えるよりも先にすっぽりとその腕の中に閉じ込められた。


「オレ、先輩を好きになって良かったっス」

「な、なに、急に……」

「先輩だけなんスよ、オレのことただの黄瀬涼太として見てくれてるの。キセキの世代とかモデルだとかそういう目で見ないで、本当のオレを見てくれていたのはなまえ先輩だけだったっス」


今にも消えそうなその声を聞いて、無性に抱き締めたくなった。
どれだけの重圧が彼にのし掛かっていたのだろうか、そう思うと私には分からないけどきっとツラいことなのだろうと思う。


それでも、私の前ではキセキの世代でもモデルでもない、ただの『黄瀬涼太』としていて欲しいと伝えると更にきつく抱き締められる。


星のように無数に広がる世界に、


私と彼が出会ったことは奇跡なのか運命なのか、


本当の私と彼がこうして出会えたことに、


ただ、感謝をした。
















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