殺意に似た怯えと憧憬


 薄暗い小屋。小屋の木と木の間から射し込む光。今は少なくとも夜ではない。そして夕刻でもない。それだけは理解できた。それ以上は理解できない。頭はぼんやりし続けている。
 昨日、であったはずの日。それとも、
「今日?…か? 昨日?……か」
「何をほざく。この阿呆ゥが。」
 覇王丸が何も考える事なく伸ばした手の上に幻十郎の顔がある。思い出せば思い出す程に、この男の顔と声しか聞いていない気がする。だが、それすらも遠く懐かしい思い出のようで、不確かな記憶に眼を細めた。
「俺、は………いつから…?」
「さァてな、月を跨いだ所までは俺も数えたが――…面倒なんで、止めた」
 覇王丸は気怠さこそあれど、身体の痛みを覚える事はない。伸ばした手には指が五本。ああ、いつぞやに見たあれは夢だったのか、と思う。覇王丸の身体が、痛みを訴える事は無いから。止めた。という言葉と共に幻十郎は覇王丸のもう片方の手を握る、乱暴に掴む。
 その乱暴な動きに、夢ではない情事をありありと思い起こす。覇王丸はそれを気取られたくなくて、思わず相手から眼を逸らした。事実でないと割り切るには、あまりに生々しく、何度も続けられてきた事だったから。それを思い出すと、身体はまた快楽を求めて厭らしく疼くのだ。この浅ましさが夢だったのならば、どれだけ気楽だっただろう!
 覇王丸は、自分の顔が火照るのを気にしないように、また、素早く火照りが冷めるように祈る。


「何で――……、俺を。 …抱いた?」


 幻十郎の手の熱は覇王丸の手を握って、それでもどんな顔をしているのか分からない。眼を合わせるのは、また顔が火照ってしまいそうだった。覇王丸自身で質問しておいて可笑しな話ではあるが、それでもサラリと流すような話題で終わってほしいと、彼自身が強く願っていた。
 幻十郎は覇王丸の手を握った儘、離そうとはなしない。

 時が流れる速度は、川が流れるような速さであればいいのに。と思う。しかし、川によっては酷く遅く流れる、流れの悪い川もある事を忘れていた。川は綺麗で速く流れるものだと思い込んでいた。流れゆく川を見て、何の気もなく棄てた木の葉一枚、暫く岩の脇にふにゃふにゃと縋って、流れの力にやっとこ押されて流れゆく。その速さは実に眼で追える程のものであり、
当時、 覇王丸は 苦笑したものだった。

 その速度は、どうやら幻十郎に伝染したらしい。それは、十数年という期間を経て。
「何故…? それは、貴様が、死にもせずとも眼を覚まさずに、時折眼を覚ましても、戯言しか口にせん。貴様を殺す愉しみは……取っておくのが俺の流儀。それまでの間、俺がどうしようと、貴様の知った事ではない」
 答えになっていない。覇王丸はそう思った。幻十郎の言う事を全て信じるには、あまりにも覇王丸自身の身体と、僅かな記憶が首を縦に振らない。口にするのは衆道でもない覇王丸には実に躊躇われた。それでも身体は幾度となく抱かれた記憶を無くさずに、抱き主の眼を見るだけで酷く火照って、恍惚とするばかりなのだ。自己嫌悪より先に、抱き主から目を背ける事が先だ。どくどくと無闇に高鳴る鼓動は、いずれ静まるだろうと無視する事にした。
 それは決めていたはず。なのに、鼓動は苦しい程に収まる事なく、それが覇王丸を落ち着かない気分にさせる。畜生、負けてたまるか等とふと視線を上げた時に不意にぶつかる、幻十郎と覇王丸の視線。幻十郎の視線は変わらず、覇王丸を射殺さんとしているかのような冷たい視線。けれども、それとは逆に感じる弱味を見つめているかのような、熱く滾るような視線。
 相反する幻十郎の視線に、覇王丸はぞくぞくする。射抜かれている、と感じた。
「なら、――どうして俺は。この、身体はッ、――おめぇを、欲しがってやがるんだッ?!」
 幻十郎が握る手の強さが、僅かに強くなったような気がした。それを思えばこそ、覇王丸は熱を覚え、しかし、先にぞくぞくした際に身体に感じた寒気を、同時に感じた。
 欲しいのならばくれてやる。貴様が望むくらいは充分に。
 そう幻十郎は静かに告げて、あとは覇王丸の身体にじんわりとした快感が広がり始める。
 一月という時を経て、幻十郎は覇王丸の身体をぬるく蹂躙してきた事を思う。覇王丸はどれ程覚えているのか等、勿論解る術もない。だからこそ、逆に知りたくなるのだ。その体がどれだけ厭らしく、浅ましく、悩ましげに幻十郎の名を呼び続けていたのかを。
 握った手はその儘、首筋に舌を這わせる。それだけの僅かな刺激にすら全身で応える覇王丸の姿等、死合いをする前のこの泥臭い男からは感じる事等できなかった。まさか「欲しい」等と女子のように可愛らしい事を口にするようになるとは、誰しも予想がつかないだろう。抱き寄せた身体は、もうすっかり火照って暖まっている。
「そ、…いう事じゃッ、ねエッ!!」
 覇王丸は、情けない程の弱々しい力で幻十郎の身体を押し退けた。欲しがる者の行動ではない。幻十郎はぽかんと目の前の男の久しく凛々しさを隠した眼を、まっすぐに見つめる。
「あ、のなッ…! 俺だって女役だってェ事にゃあ不満はあッけどよ…、ンなこたァどうだっていい。起こっちまった事にグダグダ言う程女々しく、なんちゃらゴタク並べるつもりァねえよ。…この、今の状況だって、俺は認める。時間は掛かんだろうけど。…俺は復活する。復活、してやる」
 突き放された位置を保った儘、幻十郎は覇王丸の話を聞いていたがやがて「ふん」と常のように鼻を鳴らした。覇王丸は強がりを言っているだけだ。復活というのは侍としての事なのだろう。出来るわけがない事を、幻十郎は今までの人斬りの経験上、嫌という程知っていた。だから、ふと見た覇王丸の眼が本気で何かに燃えているかのような色をしている事に気付いた時、思わず問うた。
「そこまでして、何に負けたくないと思う?」
 それは光の如く「……柳生…、」鏡のように。そして瞬時に反射したかのように、



 呻く声も上げる暇もなく乱暴にざんばら髪を引っ掴まれて、思わず歪んだ表情を晒す。
 目の前には、幻十郎の感情のない眼が覇王丸を見下ろしている。
「ッ、何……、幻十郎ッ」
 名前を呼び終わるか終わらないかの間に、くしゃりと掴まれた髪の付け根は再び痛んだ。その直前に、鈍い音とともに覇王丸の視界は激しく揺らされ、顔面と額にも鋭い痛みが及んだのだが。
 その一連の動きが、まさか自分が前髪を引っ張られて、その儘地面に叩きつけられた動きであった事等、暫くの間気付くはずもなかった。
 ぬるり、と入り込んだ幻十郎の指は、どうしてこんなにも濡れて熱いのだろうかと、覇王丸には考える余地もない。ただ、入り込んできた指は慣れた身体に快楽を与えた。
 叩きつける痛みと、押し込まれる快感が、同時に覇王丸の体内へと注がれる。初めは押し込まれる痛みもあったかも知れないが、幻十郎によって慣らされた身体は、すぐに数本の指を飲み込んで、甘い喘ぎと覇王丸の身体の疼きを更に酷くさせた。
「貴様はここも好きだったな…」
 低く落ち着いた声色が、逆に情欲に火を点ける。ゾクリ、と覇王丸の脊髄を渡って脳まで届いた。
 幻十郎の言葉から数秒遅れて、彼の舌が覇王丸の睾丸を舐めしゃぶる。確かに彼の言う通り、そこは覇王丸にとって強い意味合いでの性感帯で、思わずのけ反りながら喘ぎを抑える。
「ク……ゥッ、幻じゅ、ろ……っ! あ、ぁ、…やめ、…っ」
 品のない音を態と立てる。これは幻十郎の意地の悪い責めだ。じゅるじゅる、と吸い付く音に濡れた音。この音こそが覇王丸の羞恥心を煽る事を知って立てているからだ。吸われる事でより感度が増す事を知っているからだ。
 いつの間にか尻穴に挿し込まれる指の数は、三本に増えている。もちろん睾丸や根元への責めは落ち着く素振りも見せない。竿や先端を弄られる事なく、覇王丸は果ててしまいそうだった。
 しかし、ふ、と止むその責め。
 だらしなく開いたままの唇、虚ろな眼。まともな思考なんて殆ど残っているわけもなく、その眼が物欲しそうに光っている事等、覇王丸自身にも知る由もない。ただ、眼があった幻十郎はにやりとくすんだ笑みの形に口を歪め、実に愉しそうに嗤った。
「止めてほしいと言ったな…。の割に、魔羅はひくひくしているようだが?」
 幻十郎は本当にずるい。色事にかけては、覇王丸など足元にも及ばない。人として及びたくもない、といった所ではあるが、こうして責め立てられる身となってしまえば、やはり負けてたまるか、と思うのがヒトというもので。
 しかし、何もせずにただ眺めまわしてくる幻十郎の視線は、酷く興奮を誘う。この男は言葉どおりに『舐め回す』ような視線をぶつけてくるのだ。それを悪びれるでも恥じるでもなく。覇王丸はそう感じる度にゾクゾクとしたものを背筋に感じた。恥ずかしい。ひどく恥ずかしいが、慣らされた身体は興奮する事を止めようとはしない。むしろ、更に高い興奮を望むばかりだ。
「なあ覇王丸、恥ずかしいとは思わんのか…? 見られているだけで、尻まで濡らしている事に」
 幻十郎の指が静かに覇王丸の尻穴に触れた。くちゅん、と小さく水を示す音が鳴り、ぬるっとした感触がそこに広がる。思わず声を洩らしそうになり、息を詰める。同時に、幻十郎から投げかけられた言葉に酷く羞恥を覚える。急に体温が上がったようだった。
「っ、……ずかしい、ッに決まってんだろ! でも、おめえが! そう、なるように、仕込んだんじゃ、ねぇかよッ!」
 理性など吹き飛んだのかもしれない。覇王丸はその指を追うように腰を動かす。幻十郎は嗤いが止まらなかった。
 あの爺が庇った男が、こんな雌犬のように成り下がって自分の目下でよがって、そして幻十郎を欲しがってねだって、腰を振っているのだ。まさかこんな事が起こる等、年寄りは考えも及ばないだろう。くつくつと嗤いながら、覇王丸を更に焦らすために手を引っ込める。
 その時、覇王丸と眼が合う。酷く弱々しく物欲しげに幻十郎を見つめている。
 その眼を見た途端、焦らす気は失せた。袴をずり下げて勃起を覇王丸の穴に宛がう。
 不思議なものだった。その直前まで「ああしてやろう、こうしてやろう」と思っていても、物欲しそうな覇王丸の眼を見るとそれが飛んでしまうらしい。いい加減慣れなくてはこの阿呆を堕落させるのは、きっと難しいだろう。
 そう思いながら、気付けば、幻十郎の勃起の半分近くは覇王丸の奥へと埋まっていた。もっと、もっとと覇王丸は幻十郎を締め付ける。奥まで欲しいと訴える言葉はなくとも、その視線は確かに激しく求めている。激しい色をたたえて幻十郎を見つめている。その色を見て、覇王丸の中で幻十郎の魔羅はびくん、と震えた。それに呼応する。
「あっ」
 声を出すつもり等ない。それでも思わぬ所からきた快感に、覇王丸は思わず声を洩らしてしまう。
 もちろん同時に快感を得ていた幻十郎はその様を見ていた。自分も声を堪えながら。
 一度は快感のために閉じられた覇王丸の眼も、また開かれて目の前の幻十郎のそれと合う。
 それは本気で何かを求めて、光っている。まだ、堕ちた瞳等ではない。そして、その眼は覇王丸が告げようとして語られなかった、彼の人の名を呼ぶ時の眼に、よく似ていた。



   柳生 十兵衛



 幻十郎は覇王丸の奥へと一気に身を進めた。埋め込まれていく感覚が堪らない。そして、目の前の眼もすぐに意思を無くして快楽に沈むのだ。その姿が滑稽で滑稽で堪らない。何度か出し入れするかのような動きをするが、すぐに幻十郎は腰の動きを止めてしまう。
「覇王丸、」と幻十郎が呼ぶと覇王丸の中はきゅっと締まり、幻十郎に快感を与えてくる。それは覇王丸が求める感触の動きのせいだと解る。覇王丸の手が、幻十郎の腕を掴んだ。
「見せてやるわ……」
 腕を掴まれた儘、お構いなしで覇王丸身体を乱暴に掴む。己の魔羅と繋がった儘の相手の身体を、実に強引にぐいんと回転させる。繋がった部分を軸にして。
「あ、あぅあぁーーーーーっ!」びくびくと身体を痙攣させて、覇王丸はその快感に耐え切れずに悲鳴にも似たヨガリ声を上げる。
 だが、それに反して幻十郎は覇王丸の表情を見る事ができない。感じるのは幻十郎を締め付ける、いやらしい淫乱な感触。あとは整わない呼吸ばかり。邪魔臭い覇王丸のざんばら頭がちくちくと幻十郎の顔を刺激する。
 要は、覇王丸の身体を180°回転させたのだ。向き合っていた幻十郎と覇王丸だったが、幻十郎が強引に――魔羅を挿れた儘――覇王丸を自分から見て後ろ向きにさせた。それはまるで栓を閉めるかのように。
 そうなる事によって、更に深く二人は繋がるように思えた。淫らな濡れた音が辺りを奏でる。幻十郎の腰が覇王丸の奥底を抉るように、激しく波打った。もはや理性や根性や好き嫌い等、どうでも良かった。感情や気力でどうにかなるような感覚ではないのだ。
 何度か幻十郎が腰を動かした。その程度で、
「……ッ?!!」それは、言葉にならないことば。クッ、と口を噤んだ儘、ことばにならない。見えない幻十郎の姿がもどかしい。
 そう、幻十郎は意地悪くも、そこで腰の動きを止めてしまった。まだ、覇王丸は達していないのに。そして、幻十郎も達してはいないのだが。


 そこからが、いつもと違う。
 焦らすような動きはなく、繋がった儘の恰好で覇王丸を抱えながら、幻十郎は立ち上がった。その感触に思わずうわずった声を洩らししてしまう覇王丸だったが、そんな様子等お構いなしのようで繋がった儘の状態で歩き出した。
「げ、…ん十ろ、ッ! あゥ、……ッ、ちょ、歩、ッく……な、」
 幻十郎が歩を進める度、覇王丸の奥に収まる幻十郎の魔羅は右と左の前進するという往復の動きによって、奥できゅぅっと締めつけられたかのように、酷く高まった。可笑しなものだ、立ち上がった格好で繋がったからとて、こんなに激しく絞めつけるはずがないのだ。
 幻十郎は常よりも快感を感じにくくなっていたかもしれない。その脳裏には、先に浮かんだ男の姿があった。

 脳内で呼んだ、覇王丸の思う男の名。
 その男が強い事は、幻十郎自身もよく知っていた。だが、彼の者が甘い男である事も、重々知っていた。きっと幻十郎ならば、彼の者を殺す事が出来るであろう。そう思いながら、重みを訴える腕に、もう一方の己の腕を継ぎ足す。そうする事によって、覇王丸はいつの間にか幻十郎の両腕の中に抱かれているような格好となっており、
さく、ざくざく、ざく。
 足音だけが酷く耳に響く。その音は、『現世』と呼べるこの世に生きているという証。覇王丸が、失いかけた証。
 いつもの高さで、否、「懐かしい高さ」の世界を見る事は、快感のために適わない。繋がる痛みと快楽が、ない交ぜになって迫る中、同時に闇に向けて歩を進めている。覇王丸は幻十郎のやりたい事が全く解らなかった。
「外…ッ、なんて、…っ寒ィ」
「そうか? 熱いぞ。」幻十郎が返す言葉は、常の調子の儘、ぷかりと煙管を咥えて煙を吐き出す様と変わらない。優勢を保っている現状ならば、この男はニヤと嗤って目の前の人間の姿を見下すのだ。何の前触れもなく、ぐり、と幻十郎の指が覇王丸の鈴口を抉るように動かす。
「んぁあッ」「――どこも、かしこもな。」今、ニヤと嗤っている。顔を見なくとも解る。腹の立つ男だと覇王丸は思う。それでも悪い奴ではないし、自分は逃げられない。
 さくさく、ざく、さく。
 まだ幻十郎の足音は続いていて、それに比例する振動と、奥を軽く突くような快感。覇王丸が揺られ穿られながら見たのは、木々に隠れられない月の姿。
 月に、見られている。そう思うと、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。
「…覇王丸、貴様、外の方が良い様だな?……締まったぞ」
 やめろと言い掛けたが、幻十郎は人の嫌がる事ばかりする男だ。否、覇王丸をからかう事が愉しいようだ。…否、ただ単にヤラシイスケベ男なだけかもしれない(そしてきっと、そのどれもが当て嵌まるような気がする)。
「おい、下を見てみろ」嬲るような言葉の後に、ふと普通の言葉を掛けられると、急に現実に戻ったような気がする。覇王丸は快感であまり役立たない頭と、とろんと蕩けた眼を下へ。

 そこは、よく透き通った川。虚ろな眼をしたヒゲ面の男が股をおっ広げて涎を垂らしている。その男の足の片側は途中から切り取られたように無く、桃色よりも朱色に近いような、赤に近い桃の色に染まったぬらぬらした肉のようなものが覗いているが、月明かりではよく見えない。それでも、酷く生々しい。しかし男はその生々しい足からは痛みを感じずに、ただ快楽の儘足を開いて、結合部分がよく見えるような格好をしている。まるで、それを見てくれ、と言わんばかりに。
「……っ、やめろぉっ…!」覇王丸の出した声はもはや泣き声に近く、川に映る淫乱な自分の姿から眼を逸らしつつ足掻こうとした。
 その態度が面白可笑しくて堪らない。幻十郎はずん、と後ろから穿つように腰をぶつける。深く覇王丸の中を掘ろうとする動きに、彼は否定の態度すら時を止め、びくびくと全身で快楽を表しつつ声を殺す。しかしいずれは洩れる声が耳に届けば、幻十郎は勝ち誇ったかのように嗤う。所詮、何を言っていようとも人間は快楽には敵わないのだ。
「何だその目は、お前は“認める”んじゃなかったのか? 柳生に勝つために! 回復して!」
 そう語りかけながら、水面に映る覇王丸の顔はみるみる歪んでいった。それはそうだ、幻十郎が深く出し入れを繰り返す。水の流れもそうだが、それよりも若干近いその抽出の音がじゅぐじゅぐ、と届く程に激しく水音に負けぬくらい。
「ならば、見ろ! 貴様の、身体! 認めろ。助平で、淫乱な、身体を! 柳生? …そんな身体で、勝てると抜かすか」
 幻十郎の言葉が途切れ途切れなのは、覇王丸への抉り込むような腰の打ち込みのせいだ。覇王丸はそれと同時に与えられる身体への激しい快感と、そして相反する幻十郎からの言葉。そして、幻十郎の言葉が嘘ではない事を証明する、川に浮かんだ浅ましいヒゲ面―――自分―――の姿を見る。嫌でも、眼を開ければ見ざるを得ない、その姿。眼を閉じても、それを冒す淫猥な音。
 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああううううあぁぁぁ



 最初は、声のようで。しかし、よく聞けば風の音のようで。耳をすませば、それは祈りのようで。
 破壊された物の音のようで。切ない思いのようで。言葉にも、音にもならない何かのようで。


題:殺意に似た怯えと憧憬/彗星03号は落下したらしい

口べた。
考えを説明する事すらできない。だから行動で。
勝敗
それだけ で済む世界なら何も、他に要らない。
だが想い というものは他に、眼に見えないものを必要としているから面倒なのだ。きっと、そういうことなんだろう。


コイツはばっちり続いてるので、こんなモンで(笑)

2011/02/23 23:38:08