果ての無い望みと虚ろ



 闇が時を浄化し、時は光を呼ぶ。
 この狭い空間にもそれは贔屓も分け隔てなく訪れた。



 何時振りだろうか。覇王丸が闇の時から眼を醒ましたのは。そこに幻十郎の姿は無く、
「…幻十郎?」
 名を呼びながら辺りを見回して探してみた。闇に慣れた眼は少しの間、注ぎ込む光の強さに馴染まずにぼんやりとした世界を映していた。しかし時を置けば元より光に慣れた覇王丸の眼はすぐ、常の視力を取り戻して薄汚れた、しかし落ち着くと思える山小屋の姿を映した。そして、ああ…と思わず覇王丸は溜息を吐く。
 見たくなかった。知りたくなかった。でも理解せずには生きられないのも、解っていた。


 幻十郎から与えられる“現実”は、残酷なようでいて、実は、酷く優しい。本物の現実から眼を逸らすには格好の場所であった。
 与えられる“現実”を思い出せば、慣らされた身体は疼く。覇王丸の思い等は無視して身体の温度ばかりが上昇してゆく。浅ましいとは思っても、身体が訴える疼きに逆らえる人間等この世にいるのだろうか。少なくとも、その人間は覇王丸ではない事は確かだ。


 快楽に溺れて、慣らされた身体を鎮める為に自慰を行う。
 再び顔を合わせるであろう、現在の同居人というべき男・幻十郎の帰りが何時であるか等、全く見当もつかない。あの性質だ、数日この古びた小屋を空ける事もあるだろう。この小屋には彼の男が望むような娯楽は無いのだから。
 覇王丸の予想を裏切って、幻十郎は日も沈み終えた夜という時間にその姿を見せた。現れる前に足音がしたので、覇王丸は己の股を開いた姿を隠すのに、充分に間に合った。自慰姿等見られた暁には、どんな面下げて相手を見れば良いか全く分からない。
「幻十郎。…何、してたんだ? 今日」
 声を掛けた。それは幻十郎にとっての何日振りだったのか、それも覇王丸に理解できず、ただ、幻十郎の表情が驚きに変わったのは、実に愉快な様であった。だが、それは瞬間的なものであったらしく、気付けば覇王丸へ向ける視線はいつもの、激しく攻撃的で冷たさを感じるものへと変わっていた。
「フン、酒と飯の……調達だ」
 答えるや否や、幻十郎は食物と酒の入った袋を覇王丸の傍へと乱暴に投げ付けた。
 匂いは感じなかったので、覇王丸はその袋を開けようと手を伸ばす。その手を慌てた様子で幻十郎ががっしりと掴む。急な事だったので体力のある幻十郎が勝るのは当然と言えよう。覇王丸はへにゃりとその場に倒されるしかなかった。幻十郎の眼は、そうするつもりではなかった、と言わんばかりに揺れている。だが、それも良かろうとすぐに覇王丸へと情欲剥き出しの視線が注がれた。
 忘れていた訳ではない。三度の飯より賭事と色事が好きであるという事。
「――久しいな、その眼…」
 幻十郎の言葉等、理解する暇もなくその場に押さえ付けられるように転がされて、相手の顔しか見えなくなった。今宵は愉しめそうだ、と幻十郎が嗤った。この笑みに毎日射抜かれていたのだと思うと、覇王丸の身体は期待に震えた。精神を、無視して。

 気付けばあられもなく喘いでるサマ。男としては実に情けない限りだが、与えられる快楽に抗える者が何処にいるというのだろう? 覇王丸は唇を、指先を、触れられる度に与えられる刺激にただ、声を殺して耐えるだけ。眼を開ければその様子をにやにやと、してやったりな表情押し隠そうともせずに見せている幻十郎の姿が映るだけ。それを見たくないがために覇王丸は、必死でその目を閉じ続けた。
「随分愉しそうだな……。俺を愉しませろ」
 自分はまるで愉しんでいないとでも言いたげな科白。それと相反する表情は、酷く愉しげに歪んでいる。幻十郎は羽織を脱ぎ、袴を下ろす。どうしてそこで勃起した魔羅が出てくるのか、普通の感覚ならば理解できない。どうやら幻十郎は褌を着けていないらしかった。がちがちになった魔羅を覇王丸の顔にべたつかせる。
 むしろ、不快感は無い。ただ、目の前の一物が欲していたものだという事が理解できる。実に浅ましく、発情した雌のようだ、と思わない訳にもいかない。そう思う事は、自分は情けない生き物だと認める事である。そこから眼を逸らしたいと、願う。
 思いは全て葛藤して、元より形無いものだからよく混じり合う。混じり合った結果に勝るのは、最も強い思い。
「…んっ、ふ、………」
 ぴちゃぴちゃと音を立てて、幻十郎の魔羅にしゃぶりつく覇王丸。理性等という言葉はない。
 その野性的なさまに、幻十郎はひと声掛ける。否、そうでなければあまりに酷い有様だったから。お前のされて、気持ちの悦いように舐めしゃぶってみろ、と。その一言でとろんと夢現な眼をした覇王丸の動きは実に的確なものとなる。嗚呼、上手く飼い慣らしたものだ、と幻十郎はざんばら髪をくしゃりと撫でやる。
 覇王丸の舌は、幻十郎の魔羅の先端を軽く咥え、ぢゅうと強く吸い、亀頭をぬらぬらと舐め、そうやって尖らせた舌で裏筋をなぞり、根元に吸い付いて、袋を頬張る。全く、情婦のような手管でありながらも、何処かぎこちない動きに逆に興奮をそそられる。
 悪くない、と幻十郎は覇王丸の口から腰を引いて、覇王丸を貫くよう構える。虚ろな瞳を見れば、それは面白味のない姿であったが、同時に安堵をも与えた。覇王丸はまだ、正気になってはいない。だが、
「ァッ、…………げ、ん十ろ、ッ…」
 喘ぎに名を呼ぶ声が増えた。無論、男という事に反して耳に優しいものであったが。
 幻十郎は覇王丸の利き手を、反射的に握った。これ以上ないくらいに深く、押し込めば覇王丸はぎゅうと中を締め付けて、酷く甘えたような、気持ちよいような表情をして、幻十郎の方を見ている。幻十郎が腰を動かさずとも、呼吸をするだけの生命に必要な最小限の動きでさえも、激しい刺激を与えるようでビクリと身体全体で応える。
 あとは、自分が気持ちいいように揺さぶるだけだ。
 深く貫けば、更に深くしろとねだるように内はひくついて幻十郎を離さず。
 浅く焦らせば、物足りぬ刺激に深くするようにとねだって吸い付く。
 卑猥な身体になったものだ、とそう仕向けた幻十郎自身が嗤う。その意味を、快楽の亡者になっている覇王丸は理解できるはずもない。幻十郎の妖しい笑みに感じるのは、期待。これ以上、今以上に与えられるのではないかという激しい快感。期待の儘、肉欲の虜となった男は眼を細めて幻十郎の上に跨るばかり。
 もう、どちらが跨るか。跨られるか。そんな事はどうでも良くなった。互いに腰を振ればよいのだ。浅ましい人間の男はどうでも良くなって、果てて、そして、



(こんな、滅茶苦茶な世界。もし、かしたら―――…
 夢 、だったら。)


  どうなるんだろう?


題:果ての無い望みと虚ろ/彗星03号は落下したらしい

快楽に溺れる事。慣れてしまった。
だから、弱くなった。それでも、

しんじたくない。めちゃくちゃな世界。


とか言ってみたけど、コイツラのふぇら噺
書いてなかったな。ってダケでノリで書いた(笑)阿呆ゥが

2011/02/23 23:36:40