一太刀、血染めの黒光り


 目の前の覇王丸に、常のような腑抜けの面は見られない。両手で刀を握り身構えている。体重は前にかけておき、すぐに飛びかかる事もできる。利き足を軸にして隙のない構えで牙神を睨み付けている。
「もう、終わりにしようか、幻十郎。お前の望んだ“死合い”をするか! 剣を手にして生きてきた俺の、全てを賭けて幻十郎、お前と死合おうかア!」
 これは闘意などというものではない。相手を斬る覚悟を、斬るべき相手にぶつけている。ひしひしとその覚悟を牙神は感じる。
 その覚悟とは、殺意と呼ばれるものであろう。
 それを覇王丸から感じるのは、酷く居心地が好い。牙神の心は歓喜に満たされる。このために、今この瞬間のために退屈な世を生きてきたのだと思う。覇王丸に躱される度に、何のために自分が目の前の男を殺そうと思っていのか。それを見失いそうになってきた。それは幾度となく。
 何のために―――
「それでこそよ、覇王丸! 心が震えるわッ!」
「地獄の閻魔によろしくなッ!」



 刀と刀がぶつかり合う。ギィイイィイイン、と高い金属音が鳴り、その衝撃で火花が散る。
 そのまま二人とも弾かれて後ろ脚を踏ん張り、何とか体勢を立て直すと目の前の男と眼が合う。
 互いにそのまま動かない。どちらがどのくらい血を浴びているのか、血を流しているのか解らない。だが、赤い。
 息も切れているはずなのに、精神は酷く張り詰めている。目の前の相手の事しか考えられない。考える必要もない。別の所に意識をやった時点で、どちらかの命が終わるのだ。いつかの日のように、空は白んできているようだった。
 互いの呼吸が整う前に、覇王丸が仕掛けた。素早い踏み込みだが、直線的な動き過ぎる。受け流す。牙神が刀を払う。その軌跡は覇王丸の胸元を掠め、長い前髪を斬り落とした。踏み込みが浅かった訳ではない。覇王丸が僅か半歩、瞬時に下がったのである。チッ、と舌打ちしたのも束の間、追い打ちかけようとした牙神の頭をがつんと揺らすものがあった。
「ぐッ……何?!」
 目の前の覇王丸は口角を上げてにやりとした表情。どうやら覇王丸の腰の徳利で殴り付けられたらしく、更に開いた距離に追い打ちの瞬間を逃してしまった。更に覇王丸の徳利から酒が幾分か零れたらしく、かかった箇所が酷く沁みる。いくら張り詰めている状況だからといって、酒をかけられた方は痛みを感じない程に鈍る訳ではないのだ。しかし、痛みに顔を顰めてなるものかと牙神はきっと眉を吊り上げる。無論、相手に弱味を見せる事は弱い部分を攻められるからだ。
 陽の光を背負い、覇王丸は再び間合いを詰める。中間距離で牽制に一撃。キン、と音が鳴って連続で何度も素早く刀を振る。角度を変え、速さを変え、強さを変えて放たれる刀撃は防ぐ方にも労力を要す。
 覇王丸の後ろから後光が見える。それから目を逸らすために牙神は低く屈んで高い位置を守る。

「くぁっ……!」
 その時、覇王丸の目に飛び込んできたものは牙神が眼を逸らした後光の反射である。その眩しさに思わず顔を顰め、目を閉じた。
 見逃すはずはない。そう、覇王丸の事を一瞬たりとも見逃すはずがない。隙を見つけた牙神は痛みなど忘れ、大きく刀を振り被った。



 二人の男の雄叫びと共に、血痕を残して彼らの行方は解らなくなった。



題:一太刀、血染めの黒光り/ひよこ屋
覇王丸と、牙神のこれまでの生き方を変える、とある一戦。
勝敗はどちらなのか?それより、彼らの生きざまにどのような影を、光を与えるのか?
―――と、こんなとこ(笑)ほんとは、ずっと書きたかったバトルを書けて、よかったなぁって話。(軽ッ)
もうね、バトル文章ってアホみたいに入り込んじゃって、改行すら忘れちゃうんだ。バカみたいなバトル好き。おれ。刀バトルはあまり書いたコトがないのでいつもよりヘタうんこかもかも。
EDの終わり方がぼやかされてるから、ハンパに終わってるのも、うんこだね(笑)

て〜か見てみたら、バトルを書いてない(笑)
刀バトル書いてみたいなあ。もっと血とか何とか書いてたような気がしたんだが・・・

つ、次の機会ッ!

2011/02/23 23:29:08