最後のあいさつだと思う。

久しぶりに彼が話しかけてきた。言いたい事はこちらに伝わらないが、珍しい事もあるもんだ、とさっきも思った。どうしてこっちが一人になった時を狙って、話しかけてくるのだろう?

弱った体でフラフラと、トイレと部屋の行き来で終わっているだろう日々。
ここ数日はあまり姿も見ていなかったし、こちらには大した用事もないだろうと思った。
それなのに、急に人の顔を見て話しかけてきたっていうのは、一体なんなんだろう?
聞こうと思うけれど、まっすぐにこっちを映す目はなにかを企んでいるわけでない事は誰にでもわかる。それこそくそばかやろうでも。
こっちも生理的に話をしている場合じゃない時がある。とりあえず用を足してから彼のもとにもう一度戻る。水でも飲みたいのかと思ったので、彼に水を渡した。しかし彼は水にはなんの興味も示さない。結局彼は何がしたいのか。
こっちが自室に戻ると、彼はこっちに「やぁ」とか「ねえ」とか特に意味のない言葉をかけながら入り込んできた。…入り込んできた、という表現はきっと正しくない。彼だって入る権利はある。その証拠にこっちの部屋は誰でも入る事が出来るように開け放したままだ。
彼は変わらず声をかけながら、こっちに寄りそう。病で痩せてガリガリになってしまった体はあまりに不憫だ。その背中をさすってやると彼は気持ちいいらしく、傍らに腰を落ち着けてしまった。
彼の体調を考えれば布団で横になるべきだと思ったので、一度は布団に押しやった。だが彼はこっちのぬくもりがある場所に来る事を望んだ。小さくなってしまった背中は骨がゴリゴリとせり出していて、ひどく触り心地が悪い。それでも嫌いにはなれない。頭を撫でてやるとこっちを見て、もっととせがんでくる。あまり声も出せないのだろうと思う。
あまり甘やかせるとこっちが外に出られなくなってしまう。体の自由のきかないものはわがままをいつ言い出すか分からないのだ。できることはしてあげたいと思うが、何でも聞いてあげるのは優しさではないと思う。親友と悪さをするような感じかな。

2010.12.01

さようなら、キミ・・・   

2010/12/01 23:34:47