懐の大きさ





「ブラスカ」
「…見違えたな」
十年越しにやっと顔を合わせたのは深く傷を負って傷んだ姿なのに、儚い強さも兼ね揃えているアーロンの姿だった。
とん、と肩を叩く。それだけで、共に戦ってきた友らに思いは伝わるものだ。肩と肩を突き合わせてアーロンは無表情のままどこか遠くを見る目をしている。ブラスカはアーロンを見、丁度目に入る高さの口許を見ていた。十年前は殆どたくわえられていなかった口髭と顎鬚。少年のようなあどけなさが残った男は、死してなお大人になったのだろうか。ひげは年輪のようだ、とも思った。
「私は、やはりこちらの方が分かるみたいだ」
思いついたように行われる、急な抱擁。
アーロンが思い起こしてみればブラスカもジェクトも他人に触れることに何の疑問も持たない、情に溢れた男達であった。スキンシップは友愛総ての情を示す行動だと本能で知っているからなのか。
服を介して触れ合うまごころの部分は、十年も前に事切れたことを感じさせぬ胎動を放っている。スピラから見ればちっぽけな身体に詰め込まれた生命を教えるように、中を通る血潮は互いの存在を示している。
どくん、どくん
一定のリズムを刻んでいるのは、この今の瞬間が落ち着くものであるから。
「ブラスカ、一つ聞く。ーー…信じてきたものが覆される瞬間を、お前は見ていたのか?」
その言葉の意味は酷く残酷。だが、ブラスカと同じようにアーロンもまた生まれ育ってきたこの世が壊れゆく姿を間近に見つめてきたのだ。そして、立場もそう変わらない。
違うのは、ブラスカは大召還士で、『シン』を生み出したということ。
アーロンは従者であり支援し続け、『シン』を倒し、そして復活させる手助けをしていたというだけの違い。
信じてきたものが覆される瞬間。それは…『シン』が再び現れ、スピラを破滅へと追いやること。そして、『シン』はブラスカの祈り子であり、戦友でありかけがえのない親友である、ジェクトであるサマ。突きつけられた現実に押し潰されながら、アーロンはそれを見据え戦い続けてきた。
どくん、どくん
ブラスカの胎動の速度が、僅かに揺らいだ。それは彼が息を飲んだためだったか。
「…私は見ていなかったよ」
彼らに総てを丸投げしてしまったようで申し訳ないが、それでも死の螺旋を繰り返さないように異界で祈っていたのだ。とブラスカは正直に答えた。
それでいい、とアーロンは思う。死してまで果てなき螺旋に捕らわれることはない。
安心を腕の力に込めて、華奢な召還士の身体を抱き締め返した。そんな行動に出るとは思わず、ブラスカの鼓動は驚きに瞬間、跳ね上がったがすぐに落ち着きを取り戻し、
「アーロン。君は随分変わったんじゃないか?」
ブラスカの疑問にはふん、と愛想なく鼻を鳴らすのみで答えもせず。軽々と彼の身体を抱き上げて足を進めだした。ブラスカの身体は相変わらず軽い。
「……真実を見ただけだ」


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 鼓動 を使った散文を書こうとしたが、普通の短編になりましたね笑

 アーロンとブラスカというスピラの英雄コンビです。深読みする方はカップリングだと申されるかもしれませんが、そういった要素はありません!(言い切り)

 個人的にブラスカは家族らぶ。で裏切らない。あと慈愛は凄そうだが欲薄。
 でもやっぱり雷にうたれたジェクトを笑ってるあたり、Sっぽいですかね…
 ブラスカ×アーロンとか見ますが、ブラスカは性欲とかタンパクな感じがして違和感ありますね。

 実は個人的にはジェクトも性欲薄のイメージです。向上心とか物欲や食欲なんかは人一倍あるんだけども、性欲は薄いっていう…。あっしの小説やらではジェクトが誘い受けとかなんで性欲モンモンっぽい感じに受け取られそうですが、それを覆すネタはあるんで書きたいっすね

 だからブラスカ一行で1番スケベはアーロンですね。まあむっつりですよ。
 まあ恥ずかしがりですから。ガーーいけないんでしょうね。若いのもありますけどね。
 ただ恋愛ゴト自体が苦手なんで余計ムッツリ化したんだと思います。女からモテるけど女はいない…堅物だし話しかけづらいという感じで。


 で、例によってまたELTの冷たい雨がテーマ曲でした。ブラスカ一行はこれのイメージなんかな?歌詞がね

 さよならよりも向こう側にある哀しみ
 空のどこかでまたつながったならそれだけで…
 (略)
 朝日が二人を包み まっすぐに生きることだけを教えてくれてたように

 恋の歌っていうのはどうかと思うが、寂しさとあたたかさの混同が合う、気がします。

2010/05/22 00:25:29