きっと意味なんて持たないんだ

真田と伊達。
二人の出会い。そして、共闘。
(*年齢指定要素皆無)




好敵手。
異国の言葉で言えばRival と言う。

Title of 時が終わるまで




初めて会ったのは、それは数年前の武田軍。

いつもの通り、信玄は大声で幸村に言う。
「まず、小田原を攻める。あの爺はびびりよ。驚かすだけで良い。西は広い、東から攻め入るが得策よ!」
強大な軍勢は東にはない。邪魔な北条も、氏政が上に立ったのでは精鋭とは言えない。上に立つ者で軍勢など百八十度変わることを、信玄は知っていた。
それからすぐに武田軍の特攻隊として幸村は東へ向かったのである。

小田原城に近い道を通る。
まだ北条の城は見ていなかった。特に大きな出来事もなく、これから北条と武田の戦いは始まろうとしていた。佐助はその移動の間、ずっと姿を見せずに仲間を通じて文だけを寄越している状況。忍らしいと言えばそうなのだが、昔から世話になるのが当たり前であった幸村は、少しだけ寂しさを覚えていた。顔くらい見せてもよいではないか、と。

いつもの佐助の文がきた。
いつものように余計なべきではないのだ。一言もなく簡素な文が綴られている。だが、文の中身はいつもより深いものであった。
【城を狙う他軍の姿あり】
甘い。予想していなかった。城を囲んで他軍と接触があるなどと。
予想できない事態ではなかった、と幸村は一人、己の不甲斐なさに静かにうなだれながら悔いる。頭には他軍と戦いになり、北条に気取られてしまう恐ればかりが浮かんだ。面倒で余計な労力ばかりが浪費されてしまう。少しでも傷は少なく帰りたい。誰もが望む願いである。そして最後に、はたと思う。一体どこの国の者であろうか、と。
佐助の文によれば今現在、上杉軍勢は大人しいものであるとのことであった。豊臣も織田も、東に向かった様子など耳に入っていない。地方の豪族がのさばるおそれがあるとすれば、遥か北の大地だろうとおぼろげながらに感じる。だが、まだそのような豪族が現れたという噂は耳にしていない。
色々と考えているうちに、まだ遭遇した訳でもないのだから、と気持ちが落ち着いてきたようだ。表情からは焦りが消えつつあった。
簡素な佐助の文を、もう一度見る。
佐助は無事のようだ。だが、どこにどのように潜んで調べているのだろうか。危険もあるだろうに…と、余裕を思い起こした幸村は一人、夜半に立ち上がる。
「どうしました?」一人の見回り兵が幸村の姿を確認し、すぐに近寄ってくる。彼を守るための兵だ。「否、少し風に当たってくる」そう暑い日でもない。兵は良い意味で興奮のため、熱くなってしまったのかと思い、あまり遠くにいかないように。とだけ告げた。

夜半の風は思ったよりも冷たく、周りの者らに守られていたのだ、ということを精神で助長するかのような有様。要は、情けないが暗く冷たい風に吹かれ少しだけ、ほんの少しだけ不安になってしまった。それだけのこと。
辺りの木々がガサガサと音を立てている。それすらも敵意があるように思えてしまい、時に風が吹けば身構えてしまう。それも五回も続けば情けなく感じてしまい、身構える度に自分が臆病者なだけではないか、と心で溜め息をつく。



がさ、っ。

僅かに、幸村が立てた音ではないような音が静かに響く。それと同時に、幸村は音のした方へと視線を向ける。
ざ、ざざっ、
今度は間違い、なかった。
誰かが、否、人間が歩く、否、人間が逃げる音が、幸村の耳に届いた。
その姿は、夜の闇に紛れていたがため、夜目が全く利かない訳ではない幸村の目にもよく見えないほどに早く消えてしまった。
消えゆく足音を黙ったまま聞きながら、武田信玄。その人を護り、護り抜きたい。そう、誰にも言わぬながら、それだけは何が何でも譲れない、このいくさば という危険迫る中で、護りたい。 と、そう、誰に言っても仕方ない想い。それを抱えながら、自分だけは護るのだ、と、そう、思った。
そこには、さっきまでいた「誰か」の気配だけが残っていた。

ああ、もっと夜目が利けばいいのに!
僅かに難しい顔をした幸村の想いなど、見た者であれば代弁できるであろう。だが彼のその表情を見た者などそこには存在しない。
それでも、ここからそう、遠くない場所に何者かが率いる軍勢がいる。そう思えば今までどうすればよいか分からなかった気持ちはどこかへいってしまった。誰がどう、というよりかは、誰がこちらに向かってくるか。そればかりが気掛かりであった。

うろうろと辺りを見回してから、誰の姿も認められない現実に心中舌打ちしながらも、現実で認められぬ雲隠れを忌まわしく思う。これでは、お館様を守れもしないではないか! 己の不甲斐なさに表情に不快を露わにした。
それ以降、物音はしない。十分ほど経ってから再び武田陣営の元へと取って返した。
明日の朝には北条を攻めねばなるまい。荒ぶる闘志は胸にしまい、部下らに守られ床につく。


***


朝。
まだ暗いながらも、冷え切った空気と辺りに漂う緊張に凍りついた空気が、気持ち悪い。だが、お陰で目はすぐに冴えた。
腹に晒を巻き、その下には薄い鉄板。その上から甲冑を纏う。昨夜も磨いた二本の十文字鎗を再び磨く。不思議と、そうしていると昂った気持ちが落ち着いて来るのである。生粋のいくさ莫迦と笑われるが所以だ。
磨いていけばいくほどに、刃先はぎらぎらと危うくも艶やかさをたたえた輝きを取り戻していく。滾る心はそこにある。同時に、いくさの空気が強まれば強まるほどに冷静になっていく。
朝焼けは鮮やかに赤い。幸村は勢いよく立ち上がった。
「いざ!時は来た!!」
幸村の咆哮とともに、一気に武田軍の熱き兵士たちが歩を進める。辺りの空気は一気に熱を孕む。百を超える兵が小田原の城に向け、進軍する様はきっと近くの他軍の連中も見ているだろう。幸村は軍勢の最後尾についていた。他軍が何者であるかを確かめる必要があったからだ。
瞬時に辺りはいくさの熱に飲み込まれていく。城の中は一気に暴かれていく。ばたばたと駆ける兵士の足音、斬られ苦しみや痛みに喚く声、追う者の怒号にも似た叫び、追われる者の悲鳴、軍勢が踏み込んだときの熱さとは対象的に、去った後の生命の消えゆく冷たさ。全てが同時に起こり混沌としていた。奇襲とは実に呆気ない。



そして、来たるべきときが来た。

武田の軍勢に混じり、柄の悪い連中が城の中に乱入してきた。目立つ連中であった。武田軍の兵を含む幸村も、他人のことは言えたものではないが派手で目立つ出で立ちで、これまでよくも静かに隠れていられたものだ。わざと幸村は、一層目立った男の姿に向け大声を張り上げる。威嚇のつもりで。
「何者だ?!」
蒼に三日月。相手を切り刻むような眼差しで幸村を見返してきた。実に端正に整った顔をしている。すぐ後ろに就くがっちりした顔に傷のある男のせいで華奢なようにも見える。三日月と傷男は何かをぼそぼそと喋り、そうしてからすぐ二人ともが幸村に歩み寄ってきた。
「アンタ、武田ン所の……Ah…真田、じゃァなかったか?六文銭の…噂は聞いてる、ぜ。オレは奥州の、伊達政宗。北条の爺さんの首ァオレが先に貰うぜ!Let's…Ya〜〜ッHa!」
高らかに上げた声とともに、そこに大将がいると見て切り込んできたらしい果敢な北条兵は、いとも軽く政宗が抜いた刀により絶叫ののち絶命していった。
「組みましょう。と政宗様が仰せだ。武田軍総大将殿、そなたの返答は…?
……と、済まない。我が名は片倉小十郎。政宗様の背を護る者。答えによっては………」
片倉は言い終える前に幸村の喉元に向けて、冷たい刃を向けている。拒む者は赦さない、その場で斬る。そう告げている。そして、片倉という傷男は本当に隙のない男である。その本気の目に危機を感じ、迷うことなく組む。と低く返す。何より、この場では組んでいた方がお互いに有利なのだ。兵力の減少も抑えることができる。
答えを聞くや否や、伊達政宗はその場から飛ぶように走り、二刀流の形にした刀でバッタバッタと目についた今川の者らだけを容赦なく討ち取っていく。幸村も目を見張る速さであった。
凄い…。幸村は思いのまま呟く。最初は呟いただけ。だが次の瞬間、常々出しているあの大声で、
「政宗殿。某も負けませんぞ!」
言い終わる前に二鎗は弧を描き、熱い火を伴い周りの者を焦がしていく。北条氏政の首を取るのはどちらが先か、壮大な鬼ごっこが始まったのであった。



伊達政宗が倒す相手は虎にでも引っ掻かれたかのように三本セットの赤が刻まれる。裂かれた皮膚からは溢れんばかりに吹き出す赤、赤。
隣に佇む片倉は実に寡黙で、声を殆ど発することはない。たまに仲間に活を入れる意味で怒声のようなものを発することがあるが、傷さながらの迫力がお前の方が伊達の頭領なのではないか? と見紛うほどである。彼は剣の腕も凄まじい。太刀筋にブレがなく、断つために存在しているかのよう。腕や首を落とされた者たちは、もう二度といくさに出ることはできないだろう。
そして幸村。槍だけに突くことが多いが、振り回すことで摩擦による炎をも武器とするのだから相手は堪らない。腹に突きを喰らった者はそのまま絶命し、ときに臓腑を撒き散らし周りの戦意を喪失させる。
それぞれの持ち味をそれぞれに感じ、それぞれに評価する。それは同時に、互いに認め合うことであると言っても過言ではない。
互いに敵軍の者を斬りながら今は共存している相手のことを感じずにはいられない。今は仲間でも、いずれは敵になることは明白。奥州の伊達、と言えば名門。ならば天下を狙うは分かり切った現実。今回手を組んだのも同じ理由、兵力を削ぐ訳にはいかない。これに尽きる。その証拠に、実力は一時的に結ばれた不安定な協定を結んだ直後に見ている。
六本もの刀を一気に抜く伊達政宗を見て、幸村は己にはできぬ芸当だと諦めつつ、そして羨望の眼差しを向けながらに溜息を吐いた。勿論、幸村の持つ槍一本の重さと、伊達政宗が持つ刀一本の重さは、それは違うのだろうが。それでも己の指のように刀を操る動きはとても羨ましいものであったことは間違いない。
ただし、彼の剣の重さは幸村の比ではないことは明白。足りぬ力を速さで補った、と言えば言葉も悪いが、そういうことなのだろう。
隣にいる片倉の剣は有り余る力を抑えてでもいるような素振りが時折見られた。そして速さは伊達政宗とそう違いもない。実力では彼の方が数段上であったが、華はない。
そんな二人を見、いずれは手合わせしてみたい。そう思うのは武人として真に当たり前のことである。


「幸村様! 北条は…北条は此処にはいません!」
急に切羽詰まって兵が声をかけてくる。幸村は左様か、とだけ返す。兵はその落ち着いたままの幸村の態度に困惑し、その場で立ち止まる。そんな様子に構うことなく、次にいつ会えるか分からない、胸の騒ぐような男たちは早くも刀を鞘に納めようとしていた。
「政宗殿、片倉殿。本日は誠に愉しいいくさを有難う御座います。次はいつ、まみえるであろうか?」
ちん、と伊達政宗が六本の刀をすべて納め終えると、
「さァな……。ただ、今日はもうTime limit…ーー時間切れのようだな。オサラバ、だ。…Here we go!」
どうやら最後の一言は部下に告げたものらしく、幸村が分からないながらも伊達軍の物たちは撤収し始めた。そして、隣につく片倉は一礼しただけで何も語らない。幸村の欲しかった答えは得られなかったが、再会を望んでいない訳ではないことだけは理解できた。そのまま二人も部下らと共に姿を消した。特に城を狙っていた訳ではないのか? 否、武田軍の多さには流石に敵わぬと見て、引いたようにしか映らない。
「幸村様…」
佇んだままの部下が、申し訳なさそうに幸村に声を掛ける。伊達軍勢を見送り、そしてそのまま大人しくして動かない様子は異常と見て声を掛け辛かったのである。
「最低限の人数にてお館様に報告をせよ。北条氏政は城から逃げておらず、城は占拠しておると!」
的確な指示が急に与えられ、一瞬は呆気にとられながらも兵は走り去っていた。幸村は、
ーー会う。必ず!
それは確信に似た何か。伊達政宗、片倉小十郎。彼らのことを覚えておこう、と心に決めながら窓の外を眺めたのであった。

_______________

20100428 ぼんやりぬ見ながら

伊達政宗VS真田幸村 です
初出会い。もしかしたら出会いはバサラ1でやってたかもしんないけど。わざわざゲーム付けんのめんどくせえ。っつーことで勝手に作りました(バサラシリーズは1〜バトルヒーローズ迄全て我が家にありんす。PS3あるし3も買うと思われる)。
戦闘の長所、短所などはアッシは伊達だけは使わないんで詳しくないですが、印象ですね。
ちなみに途中からいがいな展開にいく予定です。でも予想できたらすいません。しかしうちのサイトではまだない展開だから意外であると信じてる。
でも一般受け云々はあやしいので注意書きしますけどね。

でも段階を踏む予定なので展開はかなりたらたらずるずるべったの予定であります。
個人的に伊達政宗も真田幸村もラブキャラではないのですが(でも幸村のが好き。)幸村×政宗になる予定。
や。アッシ個人としては伊達はドSキャラと思ってるから攻めだと思ってんだけど。今回は設定上伊達受け予定。
予定は未定だが、このシリーズ書き終えたらこの組み合わせはないと思われる。

ワッハッハ。
でもネタがあれば好きも嫌いも関係ない。書くんだっつーの。


2010/04/28 09:23:20