好きとか嫌いとかくだらないよ




 いつもの食事風景。利家とまつ。ほんとうにこの夫婦は仲が良い。
 利家はまつの作る飯をうまい、うまいと褒めちぎり部下にも振舞わせ、部下からもまつの料理はうまいと言葉を聞きたがる。うまいと思う者ばかりなのだからそれも迷惑ではないのかもしれないが。今日も例にもれなく、夫婦水入らずの食事風景。
前田領の見回りの合間、部下たちにまつ手製のにぎり飯を配り歩き、また皆の前でお得意の惚気話を大安売りして帰ってくるや否や、利家の格好は泥だらけの子どものようだったので、まつは開口一発目に叱咤を飛ばし、「犬千代さま、斯様に泥に塗れては食卓に座らせる訳には参りませぬ。湯浴みを済ませてからでないと、食事は許しませぬ。早くなさりませ」全くこの旦那はまつには敵わない。かくりと頭を垂れて反省顔をしては風呂など面倒と溜息を吐いた。二度目の叱咤は先よりも厳しさを滲ませていたので、慌ただしくも面倒な風呂へと直行した。面倒だからまつと一緒に入って洗ってほしかったのだが… しかしどう見てもまつは食事の用意をしていて忙しそうであった。少しがっかりした。
 まつはてきぱきと大量の食事の用意をする。日々の仕事であった。元より人に飯を食わせる事が好きであったが、利家が旦那となってからというもの、その量は結婚前の比ではなくなっていた。大食漢の具合は幼き頃よりも増していたからである。その上うまいものは皆で食べようなどといった考えの持ち主である。まつの仕事は急激に増えた。もはや好きだの、嫌いだのといった問題ではない。日課になったのだった。
釜を開けると、湯気が辺りを包みこむ。炊き立ての飯の香りは何よりも平穏を感じさせ、心を落ち着かせた。ご飯をよそってしまえばもう食事の準備はできる。利家は風呂場で米が炊き上がった匂いを嗅ぎつけて、今上がろうとばたばたしていることだろう。ほら、どたどたと足音が聞こえてきた。きっと廊下は水滴だらけになっていることだろう。そして風呂の湯は泥色の茶色に濁っていることだろう。まつは二人分のご飯を茶碗によそい、みそ汁と箸、焼き魚に漬物とおひたしを乗せた盆に置き、両手でそれを持ち茶の間まで向かう。両手を使っているため、一旦盆を置いてからでないと障子を開ける事はできない。屈もうとしたところ、利家が早く入れとばかりに内側から開けてくれる。優しい旦那を持って自分はほんとうに幸せだ。まつはいつもそう思う。そして、
「犬千代さま。廊下がびしゃびしゃに御座ります。自分の体も拭けないなど人として恥。始末してから食事になさりませ」
 まつに容赦という言葉は通用しない。
 利家は一瞬、雷にうたれたような衝撃を受けた顔をしたが、すぐに立ち直り捨てられた犬のような哀しげな眼をまつに向けながら廊下に向かっていく。ぐう、ぎゅう、と利家を呼ぶ腹の虫と、妻のまつには勝てないのだった。
 ごおお、ぐおお、がるるる、…ぎゅぎゅううぅ。辺りには不穏な音が響いていた。
「さ! まつ、飯だ!」
 利家の腹の音はいよいよ切羽詰まってまつに悲痛を訴えていた。
「お手を拝借。」まつは利家の手を取り顔を近付ける。唇が当たる程に近くまで寄り、その手を離す。
「いけませぬ。斯様な汚れた手ではバイ菌を食べてしまいまする」
「………は、ぃ」腹の音の意見も虚しく、利家は再び洗面所へ向かわねばならなかった。
 やり直しをさせられないように、指一本一本の股の部分までをもよく擦り合わせて洗う。指の腹と腹を擦ったり爪の近くを丹念に流してから手をよく拭いて戻る。もはやこの頃になると、利家の腹は家じゅうに響くような猛獣の唸りのような音を流していた。ごおん、ごおん…と低い声で仲間を呼んでいるかのように。


* * * *

10/4/27書いたらしい。


今までアップできなかったが、なんというか、ただ利家がふんばる話が書きたかったがために書いたようなもの。前置き長いっつの。
ちなみに、これ以降は普通にウンコネタなので、苦手なひとは見ないように。
でも、エロではないです(笑)

以降→それがなんだというの? 一応続く。


ウンコしてもゲップしても屁コイても、絶対の愛があるのが前田夫婦の安心感ですね。

まぁカップリングとして書いてるわけではないので(笑)どうでもいいんですが
BL要素もないので誰が喜ぶのか不明ですが一応書いてるほうは楽しかったので置いときます。

全然ゲームもサイトいじりもやるヒマねえや。

ちなみに、どちらのキャラも使いません。

(100514)




2010/04/27 09:46:52