クリスタルのような森を、スフィアマナージュを辛くも倒しつつ抜けてやっとたどり着く宿の前。わざとらしくジェクトが足を傾けてふらふらと座り込む。
「……休むとしよう」
 見かねたブラスカがアーロンに声をかける。アーロンが文句を言おうと口を開きかけた時、空の色が夜半を間近に迫らせていることを示していた。文句の前に、確かに休んだ方がいいのかも知れない。黙ってアーロンは従う。
「っあー、…疲れたァ」
 大声で背伸びをしながらフロントに入るジェクトは、やはりアーロンの癪に障る。先程のへたな演技の疲労感はどうしたのか、さっぱり元気なものである。

 都市部であるベベルやルカの近くは常に混雑している。部屋は大部屋が埋まっていて、二人部屋と一人部屋が一つずつという形になった。この時ばかりは、ジェクトとアーロンの意見も一緒である。
「ブラスカは一人部屋でゆっくりするんだ」
 気にするな、とブラスカは二人に笑顔を向けたのだが、召喚士はその精神力で祈り子を呼ぶことができる、スピラの未来を背負った存在だ。彼の不安や疲労は、召喚士でないアーロンやジェクトには計り知れないものがあるのだ。
 そして、ブラスカの弱音や愚痴を吐かない性格もまた、彼らの心配の種なのであった。仲間なのだから、少しくらい愚痴をもらしても構わないのだ。だが、彼はそれを口にすることはない。後ろ向きな言葉を口にすることも。
 そんなこんなもあり、無理矢理に一人部屋にブラスカを押し込みアーロンとジェクトは二人部屋の方に転がり込む。

 ベッドを椅子にして、二人は背を向け合っていた。先に口を開くのは、やはりムードメーカーであるジェクトだ。
「なぁ、アーロン。
 …疲れたな」
「……ブラスカ様の方が、もっと疲れている」
 仏頂面のまま、低い声でアーロンは答えた。もちろん、アーロン自身も疲れていた。どう見ても一番元気そうな顔をしているのはジェクトだ。オーバーアクションだし、何かあれば大声を張り上げる。どうしてそんなに元気であるのか、それを知りたいぐらいである。
「半日以上、魔物と戦って歩き回って…疲れねぇわけねぇだろ、ターコ」
 口調は荒いがアーロンが疲れていることも、認めている、分かっているという言葉だ。アーロンはふんと鼻を鳴らしただけ。そんな態度も気にせず、ベッドにどさっとそのまま横になり延びをしながらアーロンの顔を見るジェクト。
「んー……ふぁ、風呂行ってこいや。それまで寝てら」
 変わらず勝手な男である。泥のように眠りたいのは、アーロンもジェクトも変わらないはずだ。

 風呂に入るアーロンのかたわら、ジェクトはベッドでそのまま仰向けの姿勢。欠伸を何度もしているせいで涙目になってはいるものの、なかなか寝付けないでいる。ごろり、体を傾けて溜息を吐く。もやもやした何かがあるせいで眠れない。さらに体を傾け俯せになる。
 すると、何かに気付いたように眉を寄せ鼻から息をしつつ舌打ち一つ。やがて面倒そうにその場に上半身を起こし、やれやれ…独り呟いた。アーロンがひとっ風呂浴びている音だけが、そこに響いていた。
 何を思ったか、ジェクトは部屋から出ていってしまったのだった…。




 体も清め、充分に温まり気が済んだアーロンは宿屋の寝間着姿で風呂から上がって来た。しかし、ジェクトの姿はない。
 アーロンは時計を確認する。結構長い時間入っていたなと思いつつも無言のまま、備え付けの保存庫に入っている冷えた水を取り出す。時代とか国とか人とか、関係ない。ひとっ風呂浴びたばかりの冷水とは、実に美味なものである。
 アーロンは酒が飲めないわけではない。むしろ飲み口はある方である。だが、ジェクトを見ていると自重しよう、と思うのだ。酔ったジェクトは何をするか見当もつかないし、周りに迷惑であることには違いないからだ。
 冷えた水を数口のうちに飲み干し、満足の息を吐いた。それからしばらくしても彼は部屋に戻る様子もない。
 いるはずの者がいない状態とは、どんな相手であろうとも実に落ち着かない状況である。アーロンはソワソワと、柄にもなくその気持ちを隠せない様子で室内をウロウロとさまよい始めた。
 そんな時、ようやく扉が開いたのであった。

「!…ジェクト、あんた、どこに」




「ブラスカ様!どうしてこちらに?」
 ジェクトと思われた男は、ブラスカであった。ゆっくりと体を休めていればよいというのにどうしてこの人はいつも来てしまうのか。人と人を繋ぐ需要と供給は、いつもうまくいかないものなのである。
 理由を言いたがらないところが怪しく、また、ジェクトが戻る様子がないことが余計に怪しかった。すぐにアーロンはジェクトが関係していることを見破ってしまう。
 一度声に出して聞いてみると、ブラスカは口ごもり挙動不振に笑みを零す。決まりだ、内心アーロンはすぐに思った。ジェクトがブラスカに何かを言い、部屋を移動させたことは明白。とすれば、ジェクトは一人部屋の方にいるのか…。
 思えば、沸き上がり怒り。さっと立ち上がるアーロンを宥めるよう、ブラスカが腕を掴み首を横に振る。しかし振る意味が分からないのだから、アーロンはブラスカの制止を振り切った。
 次第に早くなる足。足音はアーロンのものとブラスカのもの、二つ分が静かな宿内に木霊する。なかなか追い付かない焦れる距離にブラスカは足を止め、声をかけることにした。
「アーロン!ジェクトは不調で休むと言っていた。私はだから交換したんだよ」
「ならば、様子を見ておくことも私たちの役目です」
 どんな言い訳も、アーロンの鋼鉄の考えの元では威力を失ってしまう。ブラスカは見誤ったのだ。止まった隙に更に離れたアーロンの背中を見て、僅か溜息をもらす。
 そんなブラスカの姿をふと見た宿のオーナーである、アルベド族のリンがブラスカに小さな声をかける。
「ブラスカ様。ジェクト殿に頼まれた件ですが―――」
 何と言うタイミング。アーロンの姿は、もうドアノブに手をかけているところだ。
「――お断りしました。我が旅行公司ではかのようなサービスはしておりませんので、丁重にお断りさせていただきました、申し訳ございません」
「や、構わないよ。聞くだけ聞いたらいい、気がすむだろうからと薦めただけのこと」
 アーロンの姿が扉の中に消えた。見えなくなってしまった。
(アーロン…見合いを断り出世を断りここに来たくらいだ…。きっとジェクトの話を聞いたら怒るだろう。男として咎められない私とは裏腹に……)



――――――――

長くなってます。

調べたところ、
ベベル→マカラーニャ→雷平原→………→ビサイド→来た道を戻る→マカラーニャの森→ベベル方面へ(この辺り順番怪しい)→ガガゼト→ナギ平原→ザナルカンド
みたいな二度手間踏んでるんですよね(ビサイドのスフィアから分かる)。

これは序盤中の序盤の頃のつもりで書いてます。本当は旅行公司なんてないんですが、アルベドと結婚したブラスカの旅を支えるアルベドのリンは、実に使いやすいキャラです(笑)
実際、リンはブラスカのナギ節直後にホテルを作り始めたっぽい話を、アーロンとしています。ただ、もしかしたら…ということもあるんでリン出しちゃいました。


性格や話し方、10年前なんでアーロンはブラスカ様、私、とか結構違う。


次こそが裏パート
それを書くために、だいぶ引っ張ったなぁ…。ジェクトはゲイ受けがハンパないらしく、野性的な男に孕ませられたい、とかわけわからん板とかありました。
逆にアーロンはゲイ受けしないらしいです。脇毛剃りが萎えとか
あと受けてるのがワッカとリン。FFXはゲイ受け率高いっすね。Zはシドとバレットだとか…
みんな好きキャラばっか…アッシはゲイどすか…



今まではセリフもできるだけ削ってきましたが、これからはどうだか…
あの同人小説の読み易さであり読み辛さである改行しまくり、セリフ入れまくり、は好きじゃないんですよね…。
2010.01.02


ケイタイ作成

配布元:Abandon
最後の一人になった君へ より



2010/01/02 10:03:35