熱だけは絶えず





 白旗はみえない。ただ、騒がしい。
 銃撃戦の惨劇。周りに散らばる赤い血と、ちらほらとみられる躯が邪魔だった。
 紫の甲冑、装束が赤茶けた色に染まって、兵がくたばっている。これがいくさばの日常で、胸糞の悪い弱い者たちの行く末。
 ただ、負けを認めたわけじゃないのか、白旗はみえない。そして、銃の耳障りな音も消えた。いくさは終わったのか?
 山。どうやらこの軍の奴らの土俵じゃないところに誘い込まれて、うまくしてやられた、という感じか。
 その割には屍骸がすくない。あの頭の悪そうな大将にしちゃあ上出来な、負けいくさ。どう見ても退却済み。
「高見の見物も、無駄足だったようですな」
 …ふ、と耳にはいる、逃げ脚、というべき整わぬ足音。がしゃがしゃ。
 急いでいる。逃げている。疲れている。ふらついている。息が切れている。
 間近で、まだ気づいていない。ここにいることに。木々をかき分ける音が近い。ガサッ。
「…ハァ、ハ、ここま………ヒッ!」
「ha! 飛んで火に入る何とやら」
 紫のハデに着飾った甲冑が土に汚れてみすぼらしい。いくさで薄汚れたツラを片手、指でぐ、と掴んで持ち上げる。細い体に似合わぬ力。
「お、オメェは………だ、て…!」
「負けてシッポ巻いて逃げるたぁ、鬼とやらも大したコトねぇなぁ?」
 足をバタつかせている長曾我部軍のジャリは、惨めな有様。
 何処ぞのボンクラかと思えば、前に見た伊達軍の長である独眼流・伊達政宗。その右目・片倉小十郎。その他お付きに三名のボンクラ。
「ウチの小十郎ぁよ、刀も強えが実は拳が滅法強いって野郎だ。お前さんのツラの骨折るなんざ朝飯前ってな具合によ」
 片倉小十郎がボキボキと指を鳴らしながら、近づいてくる。眼は血に飢えた獣のよう。口元にはわずかに笑みさえ湛えて。周りの三人はニヤニヤしてフラついているだけ。
 トチ狂ってやがる…!
 安堵を感じる間もなく、兵は死への恐怖に負けた。



 そこで政宗たちが現れた先は、その山のなかの山小屋であった。
 静まり返ったその小屋に誰かいるというのか。そっと耳を当てて確かめる。
 山小屋のささくれ立った扉に耳を当てれば、なかの様子がかすかに耳に入ってくる。
 なかの人物が低く呻いている。どうやらのたうちまわっているらしい。床をこするざりざり、という音が耳触りだ。呼吸が荒い。
「待ってろ」
 政宗がそれだけいうとすぐ立ち上がり、その言葉どおり片倉小十郎を含める部下はその場を動かず。それはまるで囲みを敢行するかのよう。
 勢いよく扉を開けて、小馬鹿にした笑い顔に張りつけたまま、扉を音高く閉める。
 なかにいた者は驚いた顔をしてその場から動くこともなく、ただ政宗の姿を見ており、
「Hey! 随分ハデにヤラレたんじゃねぇのか?西海のド田舎鬼」
 けっ。と唾を吐かんばかりに元親が悪態づく。
 だが締まらない。脇腹を押さえて床に横たわり、その床がまた傷んでいるものだから、擦り傷だらけになっており、顔を含むあちらこちらに血が滲んでいる。顔色はすっかり悪く、それは体調の悪さを物語っている。
 起き上がろうと、脇腹から手を離し両手を床につき、上半身を起こしなんとかかんとか座る。だがすぐに背もたれ代わり、壁に寄り掛かる。
 よくよく見れば押さえていた脇腹は血だらけ。皮膚がめくれて肉が見えているが、血が黒々と光っていてよくみえない。部屋が暗いのもまた悪い。
「Nm〜…アンタがそんな状態で勝ったなんざ到底信じらんねぇがよ、敬意を表して助けに来てやったぜ」

 政宗が元親の部下を脅かして聞いた話はこうであった。
 相手軍には勝ったのだという。相手軍は大将は出ていないいくさだったので、元親はいくさの指揮官だけを討つ、といって飛び出した。
 もちろんそれが一番自分の部下に被害が少ないからである。
 そして、向こうが銃撃戦を仕掛けてきたからでもある。銃撃ともなれば、いやでも被害は大きくなってしまう。
 元親は早期決戦に臨み、単体、部下たちの制止など聞かず、指揮官に火薬を狙ったのだという。
 それでいくさは事実上の勝利となったわけで、自軍の被害は最少。だがその際に元親は撃たれ、さらには姿をくらませてしまった。

「撃たれたってぇ訊いてなぁ…。ざまぁねぇな」
 もう一度、声にならない悔しさを舌打ちで示す元親。
 顔色がひどく悪い。息がはぁはぁと上がっている。相手にみられていると思えば、庇うようにその脇腹を手で隠す。弱味を晒しているわけにもいかない。
 痛みは治らない。何故か撃たれた側の腕が痺れている。おおよそ毒が仕込んであったのだろう。悪い弾を受けたものだ。なにより、自軍の痛手が最小限でよかった、というべきか。
 血は止まっている。まだいくらかは鮮血がある程度。止血については申し分ない。ただしある程度流れた血が乾いてガビガビになってズボンを濡らし、気持ち悪い。ついでに生臭い。
『なにかしてきたら、テメェの腹を掻っ捌いてでも、負けやしねェ』
 言葉にならない視線で、政宗を睨みつける。鬼であるからには自称・竜なんぞに殺されるわけにはいかないという思いで。体にはまともに力などはいらないだろうに。
 いい眼だ、と政宗は思う。簡単に崩れ堕ちるジャリ共なんぞに興味はない。烏合の衆といえど、軍をまとめるだけの器はある。
 敵意を剥き出しにする相手の腕を自分の肩にかけて、半ば強引に肩を組ませる。もちろん支えるのは政宗の仕事になるわけだが。なにがあったか解らないといった顔で元親が慌てる。
「……ッ、テメ、…なんだッて…やがンでェ…」
「Ah? ビビッてんじゃねぇぜ。言葉どおりに助けにきた、ってんだろがよ」
 それにはまず、元親の体を脅かす、銃弾を取り去るのが最初だろう。政宗は相手をまた壁に押しやり屈む。そうしながら腰の得物に手をやる。

 キラリ。光るきらめきを抜いたのは一瞬。
 元親の見上げる先には刀の切っ先を自分の方に向けた政宗がいる。薄笑いすら浮かべて。
「Hey,Guy! 小十郎ならこのくらいのことで大声はださねぇ」
 政宗がお得意の刀を軽々と振りかぶり「Shut Up!」その瞬間。
 一太刀を避けるのは諦め、元親は目の前の男に体当たりしていく。そのときに上げた声は、悲鳴ではなく『鬼の咆哮』だ。

 政宗の刀が一瞬早かった。元親の脇腹をぐりりとえぐる。
 遅れて元親の肘と体当たりが政宗の腹にブチ当たる。そのまま横になって崩れ落ち、
「Han? アンタは恩を仇で返す気か? ア、ニ、キ。だっけな」
 政宗の狙った部位からいくらかずれた切っ先。ただ皮膚を傷つけただけのような浅さ。気に食わない。
 アニキ。と仲間が呼ぶ。それを業とらしく政宗が呼ぶ。気分が悪くて鳥肌が立つ。この野郎、馬鹿にしやがって、と。
 なにを思ってもこれ以上ムリに動く元気はない。暑いわけでもないのに額から、背中から脇から、汗が滴り落ちてきて、それもまた気持ち悪い。
 政宗が脇で膝をついたまま、元親の体を跨ぐようにして片腕をつく。
 なにをされるのか、と思う間もなく、また脇腹に冷たい、それは刃物の感触。
 皮膚を裂き、肉を割る感触。切っ先がぐり、と肉をえぐる。さらに広く皮膚が裂ける。と同時に蘇る熱。脇腹を駆け上がって、腕から胸から下腹部を伝って足まで。
 悲鳴に近い呻きが口から洩れる。
 気がつけば体じゅうのあちらこちらから、汗が噴き出して冷たい程に。
 そんなことは構わず、政宗は顔から表情を消して、さらに深く切っ先をねじ込む。そう、「ねじ込む」という表現が正しいか。ひねりながら奥に刺し入れるそのサマ。
 う、ぐ、く、く、ぐ。押し殺した声が滑稽。みち、みち。と、音こそ聞こえないけれど、刃を動かすたびに無理矢理に曲げた肉がねじれて壊れていく。壊れた証に紅い汁が滲む。流れる。落ちる。
 脇腹からずぅっと元親を襲う痛みは、決して鈍いものですらない。肉がねじれ削がれた鋭い痛みが脳を支配している。それだけが頭にあるから、今の自分がどれだけ惨めか、なんて感じる間もない。声はもう泣き声に近かった。
 血糊でずるっと滑ったかのように、政宗の刀の先が脇腹の内部と外部を傷つけながら、それでも容赦なく薙ぐように引き抜かれた。うあっ、と悲鳴が上がる。
 その直後、からん。と乾いた硬いものが落ちた音がした。目につくそれは、銃の弾。
 元親の頭はまったく働かない。ぐたっとそのまま横たわったまま。脇腹を中心に、体の全体が熱い。叫んだせいか顔も熱い。それと一緒に、濡れている。頭も体も全部。
「bich...とんだ ア、ニ、キ だぜ」
 政宗は見下ろしたまますっと立ち上がり、冷たい視線を向けた。だが、これまでの屈辱感に放心した様子の元親を見て、口元に笑みを張り付けたまま外へ出ていく。

 政宗が外に出ると、薄汚い小屋を背凭れにした片倉小十郎がそこにいた。
「まったく…。お好きですな、政宗様も」
 それには答えず、どん、と肩と肩をぶつけ、
「毒は抜けてねぇ。お仲間サンどもに知らせてやんな」
「毒……。は!ただちに」
「ちったぁ愉しめたんだからよ」


 痛みと、恐怖と、屈辱と。今侵されている熱と。
 だが、眼は死んでいなかった。
 屈して、いなかった。

 伸びてまた、向かってこい、と口のなかで、嗤った。







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 ドS伊達、を言葉すくなに表した、つもり。
 
 最初はドМチカを書く予定だったのだ。
 ただ、この組み合わせだと、とてつもなく腐女子と名乗る方ら向けというイヤンな感じ。
 たしかにМを書こうとすると被虐だもんだからいたぶられて悦んでる感じだからアレになってしまうのだ。
 だが決してワシはカップリンとやらのノリで書いたつもりはない。
 だから分かりやすく、チカが悦んでる部分は削りましたともさ。ハッハー
 SМとはそんなもので計れるほど安っぽいモノではないのだよ?(SMフーゾクは高いでしょ?)


さて。伊達…といえばサンド(サンドウィッチマン)の伊達ちゃんである。
彼女ができて、ゲイの噂が消えたわけだが…伊達ちゃんよりやはりトミーのほうがゲイくささがある気がするのはワシだけかいな?見た目がさぁ…
彼女もちなのに(前から)なんでそれっぽいんだろう?
伊達ちゃんはさぁ、女性を意識してるって感じがするもん。絶対。あの格好とか。なぁ?

そういえばマッキーはソッチ系のひとだっていってたなぁ…。
…ゲイ受けしそうな見た目ですがなにか?つうか!ガチムチだね。
なんなんだ伊達からこの話題って…………

お題拝借:GOZ

2009/03/14 09:38:16