狡猾に唐突に




※ 古市とヒルダ。ありがちネタw


 悪魔というものに初めて会った瞬間、それはそれは古市といえど、多少のことには慣れっこな古市貴之といえど、かなーーり驚いた。し、男鹿のクソみたいな説明がイラつきもした(コミックス1巻参照)。悪魔についてはまず、アランドロンの体が真っ二つに割れて男鹿が登場したした瞬間、自分の脳みそが壊れてぶっ飛んだかと思った。次に、ヒルダの存在。エロテロリストが来たかとポコチンが後ろに勃起したかと思うほどに動揺した。そしてベル坊。電撃を食らって、男鹿をこれほど恨んだことはなかったかもしれない。簡単にいうとそんな印象。つまり、最悪だったということ。
 だが、時間は邂逅を生む。それは単純に『慣れ』に他ならないのだが。悪魔というものがなんであるのか、徐々に徐々に、それは今までおとぎ話やファンタジーで聞いてきたものとは違った、なんだかおマヌケで人間に近いように思えた。それはある意味ではとても親近感がわくものであるし、そう思うことで完璧ではない、悪魔たちが仲間かのようにも思えてきた。人間としての気持ちであればそれは間違っていることなのかもしれないが。間違いかそうでないか、なんてことは自分で決めることであって他人がどうこういうことではない。
 少なくとも古市にとって、悪魔はなにものにも代え難い存在になったのは確かだ。それは彼の特異体質のせいでもあるし、男鹿とベル坊との絆や、美女としか呼べないステキなお姉さまがたが存在することも含めて、それは痛い思いもしたけれど、いい思い出になっている。まだ、これからも増える思い出の一つ。
 そんなこんなもあり、古市はいまや悪魔たちと仲良くやっていた。ハッキリ言って男鹿よりもうまく。力を借りる、ある意味仲間でもあるわけだ。それはこの『人間であるにもかかわらず一人以上の悪魔と有利に契約できる』という能力があるため。代わりにカッコ悪い鼻ティッシュ姿ではあるものの。だからこそ古市は悪魔のことをとても知りたいと思うし、当然仲良くもしたいと感じている。だから時折、頼まれてもないのに古市は悪魔について文献を漁ることがある。今日もそんな放課後を送ってから、ゆっくりと帰宅した。悪魔についてはわからないことだらけだ。いろんな本や話では見かけるけれど、どうしたってそれが本質だとは思えないのだ。いわゆる『そこまで悪いやつらなのかなあ?』という思いがあるからに他ならない。つまり、古市としては情が移ってしまっているという状態なのだということに彼自身が気づき、「まさか、悪魔相手に…」と愕然としたのは内緒だ。
 悪魔についての文献を閉じ、古市は図書室から出ようと立ち上がったところ、室内の椅子に一人、見覚えのある金髪が風に揺らめいていた。その人もまた本を読み耽っていた様子だ。組んだ足は短いスカートから三角形のあそこの部分が見えてしまうであろうことをうまく隠し、ピンと張った太ももが白く健康的に目に眩しい。さらに上へと視線をやると、キュッと締まった腰。これは素晴らしいプロポーションであると言わざるを得ない。古市はこれほどにスタイルの良い女性を見たことは他にもない。雑誌だとかエッチな本だとか、流行りのチェック用に買っているファッション誌でも見たことはなかった。それほどまでに彼女の肢体は見事な姿かたちをしている。さらに上にいくと、パツンパツンに膨れ上がり苦しそうにボタンとボタンとの間をこじ開けんとするブラウスのボタンがまた眩しい。これが弾けて飛んでしまえばいいのに、と何度男子生徒らが思ったか知れない。または弾き飛ばしたい、とも。それほどに大きな胸が、ブラジャーの奥で揺れることができずにいることが、あまりに不憫な気にもなる。そんな彼女の細くて長くて白い首と、細く尖ったアゴ先。その上にぽってりと乗ったくちびるがわずかに桃色に輝いているのがまた美しく、そして愛おしくてならない。古市はそんな彼女の名前を呼んだ──悪魔の、名前を。
「ヒルダさん…!」
 本を読む姿は意外だった。だが変わらず美しい。
「なんだ、貴様か」
 貴様か、ときたもんだ。古市は彼女のドSぶりには閉口するしかない。さすがに悪魔だと言えよう。苦笑いを隠す気にもならない。古市は困ったように笑った。
「ヒルダさんも図書室にくるんすね」
「ああ、まあな。人間の世界の文献は魔界と違って興味深いものだな」
「奇遇っすね。俺も思ってたとこですよ」
 ヒルダがよく分からない、といった感じで首を傾げつつ古市を見上げる。その首の傾げかたがいい角度に胸の谷間をよく見せてくれることに古市は感動しながら答えた。
「俺も今、悪魔について調べてたとこだったんで」
 ヒルダのくちびるが僅かに歪み、ニタリと上がって微笑を浮かべた。黒い笑みにしか、古市には見えなかった。



 ほんとうに珍しい。古市はヒルダの申し出を断ることなど、当然のことながらできなかった。なぜなら、ヒルダが人間界に来て数ヶ月経つ。だが、そんなことを言われたことは初めてだったのだ。
 悪魔の本と人間界の文献について一言二言話したのち、ヒルダはすぐに読んでいた本を片付け手ぶらになってから古市には向き直ると、こう言った。
「古市よ、今から帰りだろう? 私も方向はいっしょだ。帰るか」
 つまり、いっしょに帰ろうと言ったのである。それは飛び上がって喜びたいほどの言葉であり、周りの目が気になる、否、なってしまう言葉でもあるのだが、いい意味で取ることにしよう、と古市は一瞬のうちに決めた。そして教室に置いたカバンを手にしてから並んで歩く帰り道。
 いつもと同じ帰り道。木々のざわめき。町の喧騒。子供たちの笑い声。晴れた空。そよぐ風。すべてがいつもと変わらないはずなのに、どうしてだろう今日は、今日だけは違って見えた。なぜだろうか、それはきっと、隣に君がいるから。ちらと古市は隣を歩くヒルダを盗み見るように見やると、彼女と目が合った。ヒルダもまた、古市のことを見つめてくれていたのだ。そう思うとまた、古市は飛び上がって鼻血を吹きそうな心持ちになった。自然と浮かぶ笑顔にヒルダは、
「なんだ貴様、キモい面をしおって」
と、一蹴してくれた。古市貴之、ある意味で泣きそうである。笑ってキモいと言われるだなんて、あんまりである(そんなにブサイクではないはずだと、古市自身は自負しているから余計に)。
「そんな言い方しなくったって。傷つくなぁ」
「フン。…で? 古市貴様、私に用があるんだろう? 興味津々だと顔に書いてあったからな」
 急に何をいうのかと思えば。古市は眉を寄せた。どうしてそんなことを言い出したのか、解せない。
「なにか気になった文献でも読んだのかと思ったのだ。悪魔の知識は、人間たちは間違っているようだしな」
 古市は思い出していた。今日開いた本ではない。前に見た本だったり、マンガだったりするのだが、悪魔はいかがわしい内容でも使われる。それを妄想して、実は古市は悪魔について調べ始めたのだったが、そんなよこしまなことをヒルダに言えばどんな反応をするのだろう。むろん、人間たちと同じ反応かどうかは怪しいところだけれど、引いてしまわれてはやりきれない。と、ヒルダがふっと笑った。珍しく邪気のない笑みだった。余計に、言えるわけがない。古市は苦笑いを浮かべつつ言えない旨をやんわりと告げた。だが、そんなことは分かっている、とばかりにヒルダは古市をまっすぐに見て告げた。
「どうせ貴様のことだ。下世話なことであろう? 人間どもの勘違いを聞いてみたいのだ。言ってみるがいい」
 そう言われても。古市はぐ、と息を飲む。言ってみたい気持ちもある。それこそ下ネタなので、思わず口のなかでもぐもぐとしてしまう。冷たいヒルダからの視線が突き刺さって痛い。こういう時の美女は最強だ。口をつぐむことすら罪のような気持ちにさせられる。古市はおずおずと口を開いた。
「悪魔には発情期がある、っていう」
「はつじょうき……?」
 きょとんとしたヒルダの目が珍しくクリクリと丸く可愛らしくうごめいた。こんな表情もできるのかと古市は意外に思った。こんなときでなければそこにもツッコミを入れたろうに、今はさすがにそんな顔にもなるだろうなあといった具合なので言えないが。と、少し置いてヒルダはケラケラと笑いだした。古市は訝しげに横目にその様子を伺う。
「ハッ、ハハハハハ! 本当に人間というのは下世話なのだな。発情とは」
 古市のその話は、よくある成人誌などのネタである。悪魔にたぶらかされる人間。決まって悪魔の発情人間の付き合わされるおいしい非モテ主人公に、いつだって古市はなりたかった。性的な意味で。だがここで笑うというのは、どういう意味なのか古市には測りかねていた。
「なんだその顔は。悪魔も人間と同じだ」
「つまり……?」
 ちゃんとヒルダの口からその答えが聞きたい。人間には発情期のようなものはある、と古市は感じている。年齢的なことが多いが、高校生という歳であれば雄はいつだってムラムラしている。雌はそれを隠しているんじゃないか、と最近のティーン誌やネットで調べた情報から考えるようになっていた。女はエロくないと一般的に言われているものの、それは仮の姿で、実は恥じらいから一人エッチをしまくっているムラムラした女子が9割もいるのだという俗説もあるくらいだからだ。それをヒルダに言えば下世話と呆れるだろう。ヒルダの冷ややかな目が細められ、
「つまり、そんなものは───ない」
 古市の理解とは逆の言葉が述べられたのだった。悪魔は、発情しない。


「なんだ、つまらん顔をしおって。そんなに知りたいのか? 事実を」
 ヒルダの冷ややかな視線が古市の目のなかで妖しく揺らめいた。その目の光りが僅かに変わったのを古市は見逃さなかった。
「事実って?」
「発情期がないのであればいつだって交尾できる、ということだ」
 確かに、そういう意味では人間は発情期がないと言えるのだろう。雄もしょっちゅう使っていれば(どこを、とはいわないが)死ぬまでできる(ナニをともいわない)とも聞くし、年齢だけではないのだとも考えられるのだろう。急にヒルダが古市に身体を預けるようにのしかかった。やわらかな胸が額にあたる。それだけで昇天しても良い心持ちに陥ってしまう。どうしてこんなことを、と古市は口には出さない。ここは身を任せるところである。鼻息が荒くなってしまうのはご愛嬌、ということで…。
「してみても、よいぞ?」
 もしかしたら、神はいるのかもしれない。古市は思った。ただし、
「ただし、悪魔のティッシュを使え」
──ただし、神といっても悪魔の側かもしれないが。
「……どうして、」
 聞きながら古市はその整いすぎた顔に、自分の唇を寄せた。こうしたかった。男鹿の隣でベル坊を抱いて、周りからオガヨメと呼ばれることに慣れていくヒルダのことを見るのは、嫉妬にも似た辛い思いが、頭のなかを何度もよぎった。そんな彼女のこころが、今このとき古市にはまったく分からない。
「久々に、欲しくなっただけだ」
 ヒルダは発情などないと言った。だが、これが発情でなくてなんと呼ぶのだろう。古市は下から必死に抱きつくように彼女の首から肩にかけて、両腕を回して懸命に抱きしめた。
「魔力が欲しい」
 言葉は届いても、意味など理解できるほど古市の理性はどこかへ吹き飛んでいた。ヒルダのふっくらとしたくちびるに、噛みつくようにむしゃぶりついた。ヘタなキスだったかもしれない。初キス。ロマンスなんてどこ吹く風。舌と舌を絡ませる技なんて分からない。唇とくちびるが離れてからヒルダが笑った。
「ヘタだな」
 腹がたつ余力もない。ただ、彼女が欲しい。古市はもう一度その端正な顔へ口づけをするために近づいた。
 今この瞬間、愛だとか恋だとか、そんなことは全部ひっくるめて、どうでもいい。悪魔は、人間を誘惑する。どうしようもなく、狂おしいほどに。


17.06.13

久々にシリーズでないやつの更新をしたような気がしますなあ。ヒルダ×古市のつもりで書いた(エッチするぞーっ!てとこで終わらせてますが)。

ちなみにエッチシーンはマンガで描きたかったんですが、要望が5人以上くらいあれば(あるわけないが)小説でもいいかもです?w
マンガだと下書きでお腹いっぱいになって投げっぱなしジャーマンになるので。。。まあ続き見たかったらよろしくです。

えー、この話は、ギャグです。
ラブストーリーですらないし、古市の気持ちにも殆ど触れてない謎文だったりします。
ただの頭悪いエロ設定って書いてないなーと思ってぽちぽちしだしたものです。元々、上記で言った通り、マンガとして描きたかったんですが、描ききれないしパソコン立ち上げめんどいとかいろんなことがありましてw 文にしてみた導入部です。マンガだとたぶん5ページ以内で済まされそうなところですなw

2017/06/13 12:04:35