沈黙は、時にひとを恐れさせ、
    時にひとを脅えさせ、
    時にひとを変えてしまう。





「ねぇ、ねえ」

 何度も、何度も。
 しつこいくらいに呼ばれていた。

 答えることが、信頼だと思って、
「何」とか、「おう」と、何度も答え続けた。
 答えないことは、意思表示をしないことなのではないかと、思い続けて。
 飽和、しているかのような言葉のなかに、共にいた。

「ねぇ。これってどう思う?」
 …実は、どうも思わなかった。
 今日は疲れている。それだけが頭にあった。
 気だるい。けれど、君と一緒にいるのは、悪くない。互いに、落ち着く存在だと言っていたからこちらもそう思っている。
 気を使わない、いい相手だと。
「ん〜、さぁ」
 疲れは、本来の自分なのか。それとも…
「…ふぅん」
 複雑な表情をする。たまに、こんな顔を見せる。別に否定はしない。
 それは、ムリして笑ってほしいと、思っていないからだ。ムリはしてほしくない。互いに落ち着く存在ならば。
「ねぇ」
 またこちらに質問なのか、それともただの愚痴なのか判別のつかない言葉を投げ掛ける。
「………好きにすればいいさ」
 イエスでもノーでも。
 最後に決めるのは、自分だ。
 こっちに決定権があるわけでなく、最後に歩くのはこっちでもなく、君。考える必要のあるのは、君だ。
 …とまでは考えていなかったが、答える必要もない。
 そして、頭が重い。何を考えているわけでもないのに。週末の疲れがどっときたのかもしれない。

 こちらがまともに取り合わないのが悪かったのか?

 そそくさと、消えてしまった。
 別にこちらは消えてほしいと思ったわけじゃない。
 ともにいるだけで落ち着くんじゃなかったのか?
 君の行動が分からない。
 やはり、口でなら、なんとでもいえるのだ、と思いながら、自分の愚かさに、ひそかに涙しながら、ひそかに泣いた…。

 疲れで、邪険に扱ったのが、悪かったのか。
 どうしても君が、沈黙に脅えていたようにしか見えなかった。
 沈黙のなか、ただ二人でぼんやりと話もせずに空を見ている空間も、アリだと思ったのに。
 それでも、こっちは安心できたのに。隣に感じる温もりを、君は感じなかったのか。

 さようなら。

 何を恐れているのかわからない。沈黙は静寂じゃなく、隣に君がいるという無言の安心だと、ひとりで思っていたこっちがバカだったのか……




 こうやって、ひとはまたひとり、ひとりと…
 大切ななにかをうしなっていくのだろう。



 最後の言葉。

さようなら。


2009/01/30 23:39:44