ひめかわ夫妻のIF...久我山の浮気編w
(そんなのねーよ!とか石投げないでっ)


 蛇のよう粘着質に口を歪めて嗤うそのうち悪どい表情も、すべてを許して責めたことなんてなかった。それすら愛おしいと思うほど、傍にありたいと常に願っていたし、叶わない夢ではないかとその昔、ずっと思っていたから。
 だがその夢は叶うこととなったし、傍にありたい人と共に今生きている。前述した悪どい表情なんてものを見る機会もなくなったが、それでいいと思っていた。そういうところに惚れ込んだわけではなくて、そういうところも好きだというだけのことで、それが見たいというおかしな趣味というわけではない。
 単純にいってしまえば、ただ姫川竜也のすべてが大事なものであるし、怒りなんてない。すべてを愛(いつく)しむ。それだけのこと。


*****



「で? 何したって?」
 竜也が冷たく尖った声で潮に詰問する。詰問、である。答えないという選択肢はなく、またそれは許されない。回答を拒めば何かキツイお仕置きのようなものがあるだろう。
 潮は既に両腕を縛りつけられ、その紐はベッドの柱に結え付けられている。こんな顔の竜也を見たのは何年振りだろうか。冷たく誰をも寄せ付けないような、そんな笑み。それは笑うというにはどこか辛い。そして、どこか切ない。ピンと張り詰めた空気が潮の肌をザワザワと撫ぜる。理由は分かっている。竜也の問いに答えなければとうなるのか、それを知りたい気もした。だから、敢えて口を閉ざす。これは竜也に対する反抗なんかじゃない、断じて。だが、その思いは潮だけにしか分からないし伝わらないし、伝わってはならない。
「黙ってちゃわかんねぇだろ」
 少しだけ竜也が口調を緩めて潮に先を促す。だが、この状態では普通の女ならば口を開くのも躊躇われるのではないか? そんなこともフゥッと潮の脳内に掠めたが、それは竜也だって分かっていることだろう。そもそもこの男は潮だけを見てきたわけではないのだし。なにより、潮が女であったことに対して一番ショックなりを受けたその人なのだから。それももう夫婦になってしばらく忘れていたことではあるが。
 そして今。こんな夫婦になった二人の間に走るこの冷たい空気の理由について問われているのだった。それはなぜか。そして、竜也の詰問。潮が答えない理由───…、
「いえねぇのか」
 竜也の声が突き刺さる。胸を射るような冷たくて尖り切った、それは仕事用の声ともまた違う、怒気をも含んだ何かだった。潮はその声色に負けることはない。ただ、黙ったまま見つめ返す。こちらも間違ってなどいない、といわんばかりにできる限り張り詰めた空気を作って。だが、声は出さない。否、潮は出せないのだ。きっと、その声は震えてしまうから。ぶつかる視線が突き刺さるようで痛む。
「他人から聞いたんだけど」
 切り出すのは竜也から。そう、絶対に潮からこんな話題を持ち出すことはしない。それは非を認めていることになるから。冷たい空気をぶつけられることはこんなに痛むことだったなんて、今初めて知った。そんな気持ちに苛まれながら潮はそれでも口を噤んだまま。竜也の顔が、表情のない顔が潮の眼前に近寄る。ヌゥと現れる様は、どこか幽霊のようだ。怒っているのだろうけれど頬の紅潮は見られない。実に冷静に怒るものだ。ようやく声を震えるのをなんとか堪えながら潮は口を開く。
「竜也。お前は、なにが言いたい」
 疑問符にする必要はなかった。潮が口など開かなくても、どうせすぐに次の言葉は竜也の口から紡がれたのは明白。少しだけ潮の言葉のせいで呼吸のタイミングがズレたというだけのこと。竜也の視線が潮の瞳を鋭く射抜く。そう、男として生きてきたあの時代、こんな竜也のことをすぐ傍で見ていた。他人が蔑まれる様をまざまざと。
「どこのヤローと寝たんだ?」
 わざと辛辣に言い放つその頭の回転の速さに潮はクラリと眩暈を覚える。そう、今回は潮が浮気をしていることが発覚しての、コレだ。後手に縛られて体の自由が利かない状況にされ、今は尋問中。ふ、と竜也は口許を歪めて冷たく嗤うと、再び潮にキスでもするかの距離まで顔を近づけた。目は笑ってはいない。作られて嘘くさい笑みを張り付かせて、彼は問う。
「良かった?」
 その問いには、否、これからの問いに潮は答えるつもりなどハナっからない。どうせ不毛でグダグダな問い。竜也がその答えを本当に欲しているであろうことではないことも分かっている。ただのデモンストレーションのような言葉たち。そして、この分かりやすいまでに反応してくれた竜也について、潮はそんなこんなもありながら、離れ難く思う。竜也が誰を抱いたとしても、自分自身が竜也以外の誰かに抱かれたとしても。
「どういうふうにやったのか、教えてくれよ。参考にするからよ」
 竜也がわざとらしく優しくいいながら潮の髪を優しく撫ぜ、頬までをゆるく撫ぜる。だがすぐにその手つきだけが乱暴になって、前髪を強く引っ張り上げる。急なことで驚いて声もでない。潮は思ってみれば、こんなふうに竜也から乱暴を受けたことはほとんどなかった。それは男女とかそういうものを超えて、二人の間には確かにある絆のお陰だったろう。そう、今回の潮の浮気というものが浮上した、それで脆くもその絆は失われようとしているのか。潮は怖くなった。だが、共にあった時間はそんなことぐらいでは簡単にはぐらつかないだろうと信じている。だからこその行動だったのだ。今回のことは。竜也を裏切ったのではなく────
「身体に聞く?」
 服を剥ぎ取られるように、脱がされるがそれは縛られた腕が邪魔になる。べつにそれでもよいのだと言わんばかりに竜也の乱暴な動きは性急だ。だが行動とは裏腹にその表情は冷静そのもの。冷めた目で潮の露わになった身体を見下ろす。否、見下すといったほうが正しいのかもしれない。露わになった潮の肌を感情のない目で徐々に下へと視線をやる。と、なんの前触れもなく脚をMの字に開かせる。明るいところに下肢が晒される感覚は、これまでに何度か経験がある潮だが、慣れることはない。否、慣れたのならばただの痴女だと竜也は笑うだろう。そう笑われるのも気持ちとしては悪くないのだが、この状況ではそんな余裕も言ってはいられない。そう、竜也の冷たさは外敵に向けるそれとは違うけれど、同じくらいの冷たさのように、今の潮には感じられた。だが、触れる指は熱を保っている。足の付け根にある女性の部分を、斜め左右に割り込むように押し開く。触られ慣れた感触に期待すら持ってしまう。慣らされた身体はどこまでも竜也にも潮にも都合がいい。すぐに快感を追ってゆく。精神的な状況がどうであれ。
 触れているのは押し広げている部位だけで、どこにも竜也は他には触れていない。それなのに二人共がきっと熱量だけを増していた。だが、どちらもそれを発さない。桃色の内部をただ抉るように竜也は冷たく見下ろす。それだけで潮は悲鳴をあげそうなくらいに感じ始めていた。奥から溢れてくる甘い疼きに、堪らず腰を揺らすとそれを咎めるように竜也が抑えている手の力を強め、それを感じて潮はハッとして我慢をする。前にもこんなふうにして焦らされたことがある。もっと、もっともっと夫婦でゆったりと夜の営みを愉しむような、幸せな時だったけれど。
「どうされたか教えてくんねーワケ?」
 口の中で、ソイツに。と短く言う。ソイツというのが誰のことであるのか、竜也は詳しいことを聞いていないのだ。潮はそう感じてわざと、そのずぅっと見つめていたい彼から目を逸らした。
「触っても、弄ってもねーのに、…濡れてっし。これじゃ、なんの意味もねぇな」
 竜也の声がふたたび尖る。そして広げていた手を潮の股間から離した。潮は竜也の顔に視線を戻す。もっと触れていて欲しかったけれど、この状況でそれは言えないだろう。驚いたのは次の竜也の行動だった。カチャカチャと耳に届く音とベルトを外す手先を見て、どうしてこんな状態で妻を抱こうなどと思えるものなのかと潮は、予想していなかったことに目を丸くし慌ててて身体を起こす。今までの竜也の行動は読めたものだったというのに。途中まで下ろしたボクサーパンツの前開きの部分から中のソレを取り出して、潮の眼前にやり何も言わずに口に咥えさせる。また、それを潮は望んでもいることを知っているのだ。
 潮は竜也自身を咥え、ソレが咥内で質量を増すことにウットリと目を細め己の世界の中に入り込んでいく。初めて咥えたソレ初めてあまりに大きくて驚いて、アワアワしたものだったけれど何度となく夫婦の営みを年数と共に重ねた二人にとってはもう、真新しいものではなくなっていた。ここを責めて舌で嬲ってやれば呻きながら竜也は口の中に射精してしまうだろう、ということも今となっては熟知していた。口元をぬらつかせて吸ったり舐めたりしつつ、気持ちよくさせるために上下にソレを緩めに扱くのだが、今は後手に縛られているので扱く動きは口を使ってやらなければならない。結構な重労働だが潮の心は踊っていた。あとは咥内で響く水音と二人の吐息だけが潮の脳内を侵食していく。口の中だけのことだけれども、一人と一人の境目が曖昧になっていく。その委ね切った神経が実に心地いい。気持ち良さと熱は粘膜を通して性急に伝わってくる。竜也の十分に大きくなったモノを潮の口から半ば強引に引き抜くと、そのまま後ろを向かされて尻をパシンと平手で軽く打つ。その外部への唐突な刺激に潮の喉がひ、と悲鳴にもならない呼気が上がる。いつもより急ぎ足のような営みに、潮にしろ竜也にしろいつもよりも高揚していた。この冷え込んだ雰囲気の中でどうして人は性的に興奮できるのか、答えはない。
「スゲーな。こんなグッショリさせて。けど、俺は、お前のこと、悦ばすつもりなんて、ねえんだけど、」
 四つん這いの格好のまま、竜也は自身を潮の尾てい骨辺りにひたりと押しつける。その脈打つソレが奥に入るのかと思うと、潮の期待は大きく膨らむ。だが────
「んあっ?!」
 後ろから入れられたのは、慣らされてない穴。違う、そっちじゃない、と潮は竜也から逃れようと身を捩る。だが、そうさせないのが男の力だ。というか、濫用だ。むしろ悪用だ。これは暴力以外のなにものでもない。押さえ込まれてもがくたびに痛みとともに失われていく力は、振り絞っても振り絞っても敵うはずもなく、少しの快感もない。そう、直前に放った竜也の言葉通りに彼は、悦ばせるつもりなど最初からなかったのだ。今回の行為に関しては。
「いあぁ、や、やぁめて………」
 痛みに潮は顔を歪めて、涙と鼻水で汚れていく。そんな痛む様子を見ても竜也は冷たい目をしたままだ。そう、これは互いの力関係が同じなんかじゃないと知らしめるための、いわば制裁なのだ。くちゅくちゅと鳴る水音は竜也が腰を動かしているせいではない。潮が暴れるせいだ。突然ほぐしもせずに尻穴に挿入したのだ。傷まないはずはない。分かってやったことだ。まだ竜也のモノを深く咥え込んだわけではなく、入ったのは3分の2くらいだ。それでも入口──というべきか、出口というべきか。──は一部が裂けたようで少量ながらまるで処女のように鮮血を滴らせている。潮の口からは今まで聞いたことのない苦痛の悲鳴が上がるばかりだ。だが、これぐらいのことは当然だろうと竜也は思う。
 どこかの使えねぇヤローとホテルから出てきたところを目撃された。それは久我山のところの重臣数名から聞いた確かな話だった。夫婦生活がうまく運んでいないのかと心配した一番の女執事が、竜也の元に駆け寄ってきたのだ。そして打ちあけられた。ありえない話だと笑えない。むしろ、潮の気持ちが分からなくなった。あれだけ竜也、竜也と彼しか見ていなかった。その姿しか彼自身知らなかったから。それなのに、器用にも潮は浮気を楽しんでいたという。むろん、前に竜也は数回、浮気の疑惑が持ち上がって口論になったことがある。潮の涙も見せられた。だから、その理由を作ったのはきっと竜也自身なのだろうけれど、それでもいざ、こうなってしまうと嫌なモノだ。勝手だとは分かっている。だが、そういうものだし、そういう男なのだ、姫川竜也という男は。
「いてぇか」
「うっ……も、もちろん、あぅ…っ」
 潮の顔は痛みに歪んでいる。だが、恍惚の表情と苦痛の表情はどこか似て非なるものだ。つながっている。竜也は結合部に手をやり、少し腰を浮かせて引く。それだけのことでも潮の顔はさらに歪む。歪んでも美しいのは、生まれ持ったラッキーなのだが。
「同じことしたら、同じようにしてやる。今度は全部入れんぞ? ソレを教えといてやろーと思ってな」
 潮の痛みなどには構わず、引き抜く時は一気に行った。キツい穴から抜くのもまた一苦労だけれど、抜いた後のポッカリと開いたままの後ろの穴の様子を見て、おかしな興奮を覚えたことにも、また竜也は自身で驚いてしまった。そういう性癖があったつもりはないのだけれども。潮は体全体を怒らせるようにハァハァと荒い呼吸を繰り返し横になったまま脱力している。痛かったという割に股間はびしょ濡れだし、本当に痛かったのかどうか測れないところもある。ほぐしていないのだから痛くないはずもないのだけれど。
「懲りた?」
 抜いてからゴムをすぐに取ってゴミ箱に放る。涙と鼻水と涎で濡れた顔であっても、その端整な顔立ちは激しく崩れたりしない。この程度の汚れならキスしてもいいかな、と思うほどに。どこか放心したままで潮が竜也を懸命に見上げている。急になくなった痛みと、まだ残っている裂けた痛みで恐怖感は拭えないのだった。だが、竜也のことが怖いのではない。内臓に近いそこが痛むことが怖いのだ。傷の様子を自分で見ることもできない位置であることもまた。竜也の発した言葉の意味を理解するまでにかなりの時間を要した。口を開けるが、声はカラカラに乾いて掠れていた。軽く咳き込んでから潮はただ濡れた目で頷いた。ようやく出た言葉は意外にも、「だっこ」だった。子供か、と竜也はそれこそ先までの冷たい態度を一変させて、優しげに緩く笑いそっと寄る。このままではあんまりだ、とティッシュで顔を拭う。その拭い方はやはり男なんだなと思わせるもので、ガサツで丁寧じゃない。だが、それでいいと潮は思う。そんな竜也でいいのだ。変わらない彼が。
「いた、かった……」
「さっきいったじゃん」
 抱き寄せてあやすように頭をポンポンと撫でる。痛みはたぶん数日続くだろう。だが、それを予想できなかったはずはない。それほど潮は馬鹿じゃないはずだ。
「次やったら今回より痛ぇぞ」
「……ふふ」
 笑った。
 気味の悪さを感じて、竜也は思わず軽く身を離す。そして潮の顔をまじまじと見る。たまに読めないところがあるからこいつは昔から苦手だったのだ。そして、さっきまで泣いていたはずなのにもう笑っている。嬉しそうに。なんでだよ。竜也は理解できずに、黙って引いた。それはもうかなりのドン引き。
「実は、嘘なんだ」
 なにが。本日2度目の意味不明。竜也は訝しげに、だが口を挟まずに続きを待った。潮の言いたいことが皆目見当がつかない。その中で潮の笑みはより深く、さらに楽しげだ。ケツは傷まないのだろうか。
「してなんて、ないんだよ。うわき」
 ……………
 …………
 ………
 ……


魔が差した悪戯と甘い代償



「はっ?!!」
 うわき、をうきわ、と都合良くも悪くも聞き間違えたくらいにして、しばらくはその言葉を脳内反芻してようやく理解した時に出たのは竜也からの情けない声だった。
 それが嘘かよ。ならば、今日のこれはなんだというのか。無駄か。なんの意味もない、不毛なことでしかない。そして、そんな無駄でくだらない嘘をついた意味が理解できない。それでも潮は笑っている。新手のホラーみたいだと竜也は感じていた。
「妬いて、くれたんだろ…? 予想よりずっと激しくて。私、嬉しかった…」
 踊らされていたのは竜也の方だったのか。別の意味で何枚も上手な潮を見て、ある意味恐れ入った。そして、こいつを心底ビビらせるのは、それこそ竜也が別の男を連れて行って、竜也の前でよろしくヤラせるくらいだろうな、と冷静にも思った。仕置きになるのはきっと、それぐらい酷いことでないとこの竜也に溺れ切ったこいつの脳みそはどうにもならないのだろう。脳みそを輪切りにしたらたぶん竜也成分しか入っていない大馬鹿なのだろう。そんなことを思いながら、潮の手を自由にしてやる。これ自体が無意味だったのだ。出るのは溜息と嫌悪感だけ。
「妬いてねーーよ」
 言うだけ無駄だとわかって、それでも声に出さずにはいられないことというのがある。それがきっと今の竜也の言葉だ。妬いてない、と言うことで妬いていたということを初めて自覚するのだから。そう、他人に自分のものを奪われる感覚。それはとても決まりの悪い、心地のよくないものだ。怒りより信じられないという思いのほうが先に立った。そして、浮気をしたとしてどんなふうだったのか、想像ができなかった。できるはずがない。なぜなら、現実そんなことはしていなかったのだから。
「いてぇか」
 その声は、同じことを聞いたつい数分ほど前よりもさらに労わるような響きが含まれている。竜也に抱かれながら潮はその身体に身を委ねたまま目を閉じた。こうして互いの体温を感じあっていることが、なにより幸せで嬉しく思える。それだけで痛みなど吹き飛ぶような心持ちだ。
「いたい……でも、いいんだ…」
「よくねーよ。なんかだあったよなー……ワセリン入った塗り薬?」
 ボーッと考えてしばらくしてから竜也は勝手に潮の身体を退けて立ち上がる。薬を取りにいったらしい。心配してくれているのだと思えばこそ、潮はそれを感じられて一人ほくそ笑んだ。やがて、すぐに戻ってきた時にはその手に小さな小瓶の薬があった。先に呟いたものは記憶の通りあったようだ。
「塗ってやる。また後ろ向いてケツ出せ」
 潮にはもう恐怖などない。痛みだってだいぶ挿入されていた時から比べれば和らいでいる。安心して竜也にまた身を任せることができる。潮は言われた通りにふたたび身を起こして竜也に背を向ける。四つん這いになってまた恥ずかしいところを見せる。ほんとうは後ろの穴などさすがの潮でも見せたいとは思っていないのだ。先と違うのは、触れてくる竜也の指先がやさしいこと。尻たぶを撫ぜられてどうしようもなく気持ちよくなる。これは性的な意味だけではない。精神的に満たされていく幸せ。ここにこうしていてよかった、という和む気持ち。だが、それが破られるのは冷たい薬が患部に塗られる時の心臓の跳ねよう。心構えはしていたつもりだったが、やはり見えないので余計に驚いてしまうのだ。
「……もう、いい。つか、お前なぁ…」
 竜也の呆れ声に、また身体は火照り始めていたことを、自分の身体だというのに、後から理解するだなんて。竜也が言いたいことはすぐに分かった。だからすぐに身体を起こして竜也のほうを見上げた。それと同時に彼の股間に触れることも忘れてはいない。状態を確かめる必要があった。そして、笑えてくる。呆れた声を出しているくせに、まったく。
「なにがだ。お前だって……そうだよな、さっき、出してないもんな?」
 サワサワとやらしい手つきで竜也の股間を撫ぜ回す潮は、情事の時のいつものようなねっとりとした女豹のような眼をしている。竜也は大人しく頷いた。どうせ竜也だってそんなに堪え性がある方じゃないのだ。竜也は少しだけ潮から離れて己の着衣をベッドの脇に脱ぎ捨てる。痛みなんてなくなるくらい、久し振りにヤリまくるのもいいだろう。チラと時計を見たらまだ夜も早い時間だから。
「分かった。今日の詫びに、朝まで可愛がってやる」
 潮がその言葉に喜んで飛びついてくる。抱き合ってキスしながらベッドになだれ込む。そうだ、こんなヤツが浮気なんてことをするはずがないのだ。信じたことがきっと馬鹿だったのだろう。啄むようなキスをしながら、時折舌先を舐め合う。こそばゆいキスの応酬だ。激しくならないこの時が一番そそられる。そして、一番大事だとかほしいと願う時。それを打ち破るように、竜也からその口づけを深いものとした。先に浮気のことを思いながら押し倒した時の気持ちを思い出す。あれが嫉妬じゃなかっただなんて、そんなわけないということを思って自分自身を誤魔化したいような、やりきれない気持ちに溜まらず、舌先を一度離して、すぐに潮の目元を、鼻を、口の周りを、口を、顔を食べてしまうみたいに舌先で味わって、それをくねりながらも悦ぶ妻の姿を見て安心する。こうしてゆっくりと頭から潮を味わっていけばきっと朝まで、なんて容易いことだろう。そのくらい手放すなどということは感じなかった。隣にいるのが当たり前なのだ。そして、それ以外考えられないのだ。そんな想いは言葉になんてならずに潮の心臓に近い胸へと唇は寄せられて、そこへの愛撫となって潮の身体へと降り注ぐ。竜也の舌先に翻弄されて喘ぐこの女が可愛くないはずがない。すでに開いている足をさらに割るように身を納めて、今度は股間をまさぐる。すでに濡れそぼったソコは竜也を欲していた。もはや先に塗ったばかりの尻の薬は流れてしまったのではないかと思うくらいにそこかしこを濡らしている有様だ。そこに顔を寄せ、今度は竜也がソレを味わった。咽び泣くように喘ぐ潮の声をBGMに、竜也は潮を快楽へと追い込んでゆく。
「なっ…、なんか…っ、たつ、や、っ、ああっ、なんかぁっ、い、つもよ、り…ふぁあぁっ、や、さし……くてっ、んぁっ、ふ、かいぃ」
 潮が言っているうわ言の意味なんてわからない。けれどもそれは褒めてもらっているのだろうというプラス思考でスルーすることとする。口を離して潮の両足を抱え上げる。もうくにゃくにゃになっている。なすがままの姿に、竜也の支配欲は十二分に満たされていた。だからこそ、こんなゆったりした挿入ができるのだろう。先に尻に入れた時とは真逆。潤滑油になる愛液を素股でゆーぅっくりと腰を動かして竜也のモノに塗りたくって焦らしに焦らす。この時点で夜は深まっている。それでも先はまだまだ長い時間だ。まだゴールデンタイムのドラマが終わらないような時刻なのだから。
「はぁっ…! あ、や、あ、いっ、あぁっ、あん、ひゃあっ」
 こうしてつながることなんて慣れっこのはずだというのに。潮はいつもよりも多く啼いている。気のせいかもしれないけれど。ゆっくりと、ずぶずぶと呑み込まれていく竜也自身。潮の中にのまれていく、消えていく。ずぶずぶと。竜也の敏感な部分はのまれていくと同時に、潮の内部にキュウとタコの吸盤かのように吸い付くみたいな感触に包まれる。ほんとうはさっきよりも今の方が激しく腰を動かしたい衝動に駆られながらも、それをなんとか竜也は抑えながらゆーっくり、ゆっくりと開き入れ、押し込んで押し進んでいく。中がどれだけもっと、もっととヒクヒクと痙攣しながらほしいところまで来るのを待っていることを知っているとしても。そうしてようやく辿り着く奥の深いところ。待ち焦がれたソコへの竜也の到達に、それを失いたくなくて潮から竜也にしがみついた。そうすることでさらに深くつながると信じて。そう潮が思うと奥が、キュンと締まるのを感じた。きっと身体も、心も竜也のことを深くふかく欲している。激しく愛おしくつながり続けていたいと願っている。踊らんとする潮の腰の動きを奪うように、竜也は尻の肉を強めに掴んでふたたびそのくらい濡れて光る唇を吸って舐めた。唇が離れる時に伝う透明の糸がとてもいやらしい。竜也がその糸を啜りながら笑う。
「ポリネシアンセックス、って知ってる? 」
 好きだ、とか愛してる、だとか。そんな安っぽい言葉で言い切れるほど、この結婚してからの期間というものはぬるいものではない。だが、それでも、竜也は思ってしまう。潮が自分の元から離れることなど、想像できないことであると。愛も好きも口にはしたことなど、いままでの一度もないし、きっとこれからもないのだろうけれど、それでも。潮は竜也からの問いに緩く首を振る。今までこんなことをしたのは竜也とだけだ。今回は、竜也がどんな反応をするのか見てみたくて、使いの者たちを使って騙したというだけのこと。それにすっかり騙されてしまったのだ。そんなふうにいいようにされるのは気に食わない。それは男としてのプライドの一部だろう。だから今夜は。
「長くつながってるだけの、ゆるいエッチ」
 潮の腰を押さえ込んで動けないようにした。こいつはいつも堪え性がなくがっつくところがあるからだ。竜也も腰を動かさない。ただつながるだけの時が流れる。互いが互いの温かさに包まれて、長いことそのままで見つめ合っていた。たまにくちづける。そんな時がいちいち愛おしい。ぴったりとくっついてつながったまま、時折萎えかけた竜也が動くだけの緩やかな時が流れ続ける。潮の中で竜也が時にヒクつき、大きくなったり小さくなったりしているのが、身をもって感じられるのが新しい感触だった。気づけば、潮もその緩くてぬるい気持ちよさの中に身を委ねて、このままでもいいかな、なんて潮は思っていた。だが、それが竜也に分かられてしまえばきっと、揺さぶられてイく前に寸止めしたりして潮のことをいじめるだろうから、わざと我慢できないふりをして腰を揺らしてはそれを制止させる。よくよく考えてみればどちらとも負けていない頭脳プレイがこの夜の間、繰り広げられるのだ。
 そんな潮の思いなど知らない竜也は汗が額に張り付いた呼吸の荒い潮の髪を撫ぜて笑う。今夜は、死ぬほどイカせてやるつもりなんてない。まだまだ夜は長いのだ。こうしてたまにはつながったまま、溶け合って二人が一つになっている時をできる限り長くながく楽しもうじゃないか。


15.10.13

タイトルは、姫久我の大エロスクイーン、やぎ仔さんにつけてもらいました!
やぎ仔さんに捧げた文なはずなのに、タイトルつけろとかむちゃくちゃですねw
タイトルつけるの、こんだけいろいろ書いてるとめんどいっていうのもあるし、思いつかないんですよね〜。ってさらっとクソなこと言ってますが、本当にありがとうございます!


まぁ見て分かる通り、嫉妬する姫川を書きたいなぁって思ったんだけど、がっつりは書けてないかな…あとはアナルね。これアナル処女喪失物語なんだけど……っていえば、最低っすな。
そのくらい、普通のカップルはアナルなんてやらねーよと私が思ってるだけです。ちゃんとゴムも付けてますありがとうございます(二時創作ホモのゴムない感と感じすぎらめぇえええ感が怖いので)。

アホすぎる、この話が浮かんだのも多分べるぜプチに一般参加しちゃうぜ!という(ブログにも書きましたが…)テンションで思いついたものだったので、中身も十二分にアホになっております。
近々、アナルちゃんと開発するよ編を書きますのでよろしゅう(でも……約束じゃなくて、多分ww)。あと、こんなプレイ見たい!とかあれば教えてほしいです。思いつかないというか、頭おかしいので自分。



啼く、の意味は獣などが声を上げるということで、本来ならば「泣く」が正しいのですがわざと啼くを使うことにしました。そうしないと涙を流して嗚咽を上げる=泣くが成り立たないというか、そういう意味でいままで啼くとか鳴くを使ってましたけど、、間違いでしたごめんなさい。
2015/10/13 21:55:21