※ タイトルがピンとこなくて、募集しています。が、こないのでつけません。気が向いたらつけるかも。
  しかも、まっったく続きなんて書いてません


 悪魔の学園だとか、石矢魔悪魔戦争(ナスとか鷹とか藤とかの事件)だとか、色々なことがあったけれど、それより、それより大事なことに気づいたのは、友人が魔界という、人とかけ離れたどこかへ行こうかという日の夜のこと。古市は男鹿が魔界に行くだろうことについては、こうして不慣れながらもうまく悪魔と利点だらけで契約しながら戦って、その間も感じていた。だが、分かっていて認めたくないことがあったことは、その時になってみないと分からないもののようだ。古市は言葉を失う。そこには、アランドロンとラミアが頭を下げて「今までありがとうございました」的な何とも日本的なあいさつをしに来ていた。古市の両親も妹も、それを見て困ったように頷いて、そして納得したようだった。魔界の意味も理解していない彼らが何をいっても意味なんてないというのに。
 その時に思ったこと。古市は全身をわずかに震わせながら感じたこと。あ、待って。このまま、……離れるのなんて、いやだ。そう、ガキみたいなことだけれど。頭を下げたラミアを見て、古市はなんともいえないモヤモヤとした気持ちになった。家族が何をどう思っているか、知らないけれど。タイムリミットは今日だけ。しかも、古市は今から学校に行くのだ。朝から頭を下げたり礼をいったりする。そんなことが日本の当たり前の風景なのだと、魔界の彼らは勝手に勘違いしているからこんなことになってしまったのだけれど。聞いてみたら魔界は、魔界らしく夜の方がつながりやすいので夜の9時くらいまでは人間界でゆったりしている、ということだった。それなら学校にいっても問題はないのだけれど。それでも。古市はあんな授業にもならない授業を受けるより、もっと大事なことがあるのではないかと思った。離れる前に、もう少しラミアに楽しい思いをさせてやりたくて。迷わずに古市は無欠の道を選んだ。母のパート、父の会社、妹の学校、すべての行程を経て。そして、古市貴之だけがその行程を、当たり前の日常について無視をした。学校へと行くふりだけを装いながら。
「あれ? 古市」
 学校に行ったのを装いながら何食わぬ顔で戻ってきたのを見て驚いたのはラミアだった。その姿をみて、古市は呆れた。男鹿の家もそうだが、自分の家も相当なものである。得体の知れないおっさんと子供を居候させて、みんな出て行ってしまうのだから。だが、こんなラミアの気の抜けた表情を見てしまえば、そりゃーそうだよなぁ、と納得もできるのだった。こんな子が古市家で何かやら悪さをするなどとは考えづらい。
「どうしたの? 学校は?」
「今日はサボる。男鹿は確実に行かなきゃなんないだろーけど。いつ帰ってこれるか分かんないからな」
 男鹿が。ということは、ラミアだって条件は同じだろう。そう、魔界に行くことは、いつ帰ってこられるのか分からないということだ。それは、古市の心にぽっかりと穴を開ける。その言葉に、ラミアも眉を寄せて、どこか今までに見たことのないようなせつない表情を見せる。ラミアはいわないけれど、彼女もまた寂しいのだ。それを古市は確信した。
「しばらく、俺らだって遊べなくなるじゃん。今日はゆっくり遊ぼう?」
 子供をあやすように古市はいった。ラミアはおとなしく頷いた。さすがに制服でサボって遊ぶわけにもいかないので、古市は部屋に戻って着替えてきた。とはいってもサボって大っぴらに遊ぶわけにも行かないのだった。こうしなきゃ!とは思ったものの自分の浅はかな考えに打ち砕かれた。アホである。ラミアは着替えてきた古市のことを見上げて小首を傾げる。こういう子供っぽい時のラミアはとてもかわいい。いつもこうであれば、いい妹のように扱ってやれるのに。と思ったけれど、現実にほのかという妹がいるのだしあまり萌えないのだった。ウワァ。
「どこいくの?」
「補導されないとこってどこかなって思ってる。誘ったはいいけどぴんとこなくて」
 素直にいうと古市は照れ笑いを浮かべた。こういう時に特別なことをしてくれようとする。そんな心が古市にはある。そこは古市貴之という男のいいところだと周りは認めている。人間界に来てからしばらく経つ。石矢魔の町はもうほとんど巡ったと思う。行きたいと思うところも特になかった。遊園地に行きたいというほどラミアは幼くもない。古市もそれを理解しているから、最初の頃みたいに子供扱いをだんだんしなくなっていったのだ。分かってくれる古市というヤツに、甘えていたのかもしれない、とはたと気付く。
「ゲーセンとか、行ってみる?」
「それこそ補導されるんじゃない」
「あーそうだなぁ。やっぱマックとかかなぁ」
 古市がラミアの返しに苦笑いを浮かべる。ラミアは立ち上がりかけたそこ腰をすっと落としてリビングのソファーに腰掛けた。どこにも行かなくったっていい。いつもみたいに、いつもどおりで、たまたま古市が休みなだけで、それで十分な気がした。古市が何かをしてくれようとしたことが嬉しくて、すこしだけ寂しい。別れが近いことが分かるから。
「ここでいいわよ。別に、とくべつなんかしなくったって」
「そーかぁ。うーん、ごめんなぁ」
「謝んなくていいわよ」
 古市はそれでも座ろうとせずに、ポッケに手をやって財布を確認している。高校生ぐらいの歳の子供が二人でサボっている光景ならば補導されることもほとんどないのだろうけれど、ラミアはそれよりも幼く見えるから悪いのだ。ならば、と古市が考えたのはケーキでも買ってきてやろうかな、ということだった。家でもどこでもいい。笑顔で送ってやるまで、楽しい時が過ごせればそれで。
「食いもの買ってくる。待ってろよ」
「はあ? なんなのよバカ市」
 一言も二言も多いのは女子の特権だ。そう心の中で言いきかせて古市は一人、家から出て行った。ラミアは途端に面白くなくなった。何なのだ、一緒に出かけようといってみたり、一人で行くといってみたり。そんなのだから女など寄りつかないのだ。あと、キモいし。悪いヤツでないのは分かるのだが。
 こうしてラミアが残されるのなら、学校に行っているのと変わらないではないか。特別なことなんてしなくていいといった手前、それ以上ラミアはなにも言えなかった。ただ、言葉にならない面白くなさがそこにはあった。ぶつける先もないからもやっとそこに。

 古市は少し遠出をすることにした。ほんとうは一緒に行けばよかったのだろうが、ああして座ってしまったラミアの姿を見たら、きっと煮え切らない自分の態度が気に食わなかったのだろうなと感じたのだ。それなら、家でいいのだし隣町の美味しいケーキでも買っていってやろう。そう、なんだかんだあったけれど、今日が最後。これから先、いつ会えるか、いや、男鹿みたいに戻ってくるとも限らない。元々彼らは悪魔なのだから。そう、人間界にくるにはそれなりの理由がなきゃ、きっといけないんだ。今回はべるぜバブ4世を育てるためのなんちゃらかんちゃら〜というのがあったけれど、ベル坊が戻ってしまったらそれはもうない。だから、せめて。隣町に向かうバスの中で古市はそんなことを思う。
  そうだ、楽しかったんだ。たいへんだけれど、でも、それ以上に。だから、俺はたぶん、誰よりも寂しいんだ。別れを惜しんで、悲しいんだ、きっと。そんなの女々しいと笑われるだろうか。悪魔なみんなの顔──男鹿やヒルダも当然含まれていて、どうしてかそこには、魔界へ行くわけでもないのに男鹿の姉の美咲の顔まで含まれていたことが恐ろしい。──が浮かんでは消えてゆく。一番近くにいたのは、まるで新しい妹みたいなラミアの姿。気づけば古市の中で大きな存在になっていて、近くにいるのが当たり前だと思い込んでいた。だから、別れが惜しくて悲しいのだ。ラミアはどんな気持ちで今日という日を迎えたのだろうか。そんなことを思いながらバスの中揺られていく。隣町の美味しいケーキ屋さん。シュークリームも絶品。早く帰って美味しいおやつにありつこう。



「ただいまー」
 気づけば既に昼を回っていて、腹も減っていた。おやつだけじゃ足りないから奮発して弁当も買ってきた。それはスーパーの安いやつだけれど。古市は家の中の人の気配が消えていることに気づいて慌てた。買ってきたものを冷蔵庫に投げ入れてラミアの姿を探した。キッチン、リビング、洗面所、物置、二階。自分の部屋、ほのかの部屋をノック。誰もいない。どうして。急に、そんな。どたどたと走る自分の足から出る不快な足音と、ハアハアと荒い呼吸。さっきまではいたのに、どうして。今日発つ。確かにアランドロンと一緒にラミアもそう挨拶をしたけれど、でも、話が違うじゃないか。混乱した。取り乱した。どうしようかと考えた。嫌な汗がタラタラと背中を伝う。それが何より不快で、気持ち悪い。黙ってなんていられない。探さなきゃならない。一緒に弁当を食べて、そのあとケーキを食べて、それから…。古市は自分の部屋の窓を開け狭い窓枠から身を乗り出した。「──あ!」と叫んだのは庭なんかにラミアのピンクの髪が揺れていたから。なんでさっき家に入る前に見なかったんだろうなどと思いながら古市は、恥も外聞も、むしろ常識とか体とか、そんなことすらぶっ飛んで、何メートルとか上とかしたとかどうでもよくて。自分が普通の人間だということも忘れて、その小さくてか弱そうな少女に手を伸ばした。
 結果。その身体はふわりと浮かぶはずもなく、魔力をまとうティッシュの助けもなく、古市の身体は空に、瞬間舞った。あとは重力に逆らうことなんて羽根も持たない弱い人間はできるはずもなくて、浮力なんて絵空事と言わんばかりに二階から庭へと落ちた。そんなことになっているだなんて、ラミアは当然思っておらず、
「キャアアアァァァァァァアァァ」




 幸いにも、古市の怪我は軽い打撲程度で済んだ。彼自身はケンカなどしないが、悪魔のティッシュのお陰か前より頑丈になっているようだ。それは魔力への耐性について同様なのだが、そんなことは古市に分かるはずもないし、どうでもいいことだ。少しの間、身体が痛くて動けなかったが、ラミアがギャーギャーいいながら手当てをしてくれたお陰で、痛みに顔を歪めながらも身体を起こすことができた。
「なんなのよぉ〜もぉおおおお!」
 ラミアはなぜか勝手に落ちてきた迷惑野郎のために心配の涙すら浮かべていて、てんにょってこんなかな、などと不謹慎にもニヤけたくなったのは内緒だ。
「それは俺のセリフだろ! 帰って来たらどこにもいねえしいいいい! すっげー心配したんだからな!!」
 早とちり二人。バカの漫才じゃないか。笑えないくらい頭にきているのに、笑えてしまうのはどうしてだろうか。少し姿が見えないだけでこんなに動揺してしまって、バカだ。分かっている。古市は自分に、自分自身の気持ちに呆れた。しかたない。ここまできたら認めるしかない。
「ラミア、泣くな」
 えぐえぐいいながらラミアはそれでもティッシュで目を拭って鼻をかんで。古市はいつになく真剣にいった。
「とりあえず、飯食おう」
 あれ、これってよく考えたら、ほとんど男鹿と変わらないんじゃねぇの。と思ったけれど、腹が鳴るよりは食べたほうが傷にも良さそうだし。買ってきた弁当、冷蔵庫に放ったといってヨロヨロと立ち上がる。思ったよりもラミアの回復魔力の効き目は早いようで、痛みが引いていた。あちらこちら擦り傷やらはあるが、元から男鹿のせいで殴られ慣れているため、見た目より古市は頑丈なのだ。動きはいつもよりかなり遅いけれど。
「これ」
「別に美味しくなさそうだし…もぉ〜、なんなのよぉわっけわかんない」
 ラミアは怒っていてそればかりいう。なかなか面倒臭そうだがいつものこと。飯を食えば大体のことは落ち着くものだ。はあぁ、と大きく溜息を吐きだして呼吸を整えてから食べ始めた。スーパーで買った弁当は不味くはないけれど、特段美味しいというわけでもなかったが、ラミアはそれ以上文句もいわなかった。食べ終わると冷たく、「切れてるわよ」とティッシュを水で濡らして古市の頬へ当ててくれた。ヒリヒリしたけれど、心がほんわかした。
「弁当はふつーだけどさ、3時のおやつは神がかってっから」
「ばか」
 今日のご機嫌ナナメはなかなか直りそうにない。たぶんケーキで直るだろうけれど。直る前にいっておきたいことがある。
「心配すんなって。飯食えるし、うまいし、身体なんてなんてことないって」
 身体の痛みはうすれてきている。別のことを考えているからだろうか。自分の身体がどうこうだなんて考えてもいなかったのだけれど。痛みなんて感じない。弁当の空箱を棄ててガサゴソとやってからニカッと笑う。その時に目が合ったラミアの顔は不機嫌そうに古市のことを歪んだ顔で睨みつけていた。そんな怖い表情のラミアのことなど気にしない。そのまま手を伸ばしてラミアの身体に手を回し、古市に寄るように抱き寄せた。相手が嫌がるとか、逃げようとするだとか、そういうことを考えることももうやめた。だって、もう会えなくなるかもしれないというのに。それなら、やりたいと思ったことを今やるべきだろう。そう思ったのだ。
「ラミア」
「え、や、…ち、ちょっと」
 抱きすくめられたような形になってしまい、ラミアはその古市の体温と、落ち着いた声に驚く。どうしてこんなことに。息を何回飲んでも、今の状況は変わらない。だから、現実なんだ、これは。身をよじったけれど、古市はガッチリと捕まえて離してくれそうもない。急にどうして、こんな。ラミアは混乱した。
「急にこんなこといって……ごめん」
 古市はようやくラミアから身体を離して、でも手はそのままラミアに回したままで離そうとはしない、という超至近距離のままで。目と目が合う。それは無意味にどきりとさせる魔力みたいな何かを持っている。古市の目は、ご飯を食べる前に見たあの時よりも、さらに色濃くラミアの目には映った。
「ラミア。俺、お前のこと、好きだ」
 まっすぐで、どこまでも突き刺さるような言葉。すぐに胸に染み入る簡単で熱の詰まった言葉。ラミアの顔には熱が集まって。声も出ない。古市はそんなことをいってから目をそらさない。ずるい、とラミアは思う。こちらは何もいえないというのに。
「ラミア。好きだ」
 もう一度いう。ずるい。そう思った。泣けてくる。それが、ラミアにとってはとても嬉しくて泣けてくる。どうして今このタイミングでいうのか。ずるい。そう思うのだ。
「好きだから、本当は一緒にいたい」
 ラミアが逃げようとしないので、古市はそのまま抱き締めた。ラミアはやはり逃げようとはしない。嫌いじゃないから。そういうことなのだと、古市はわかっている。
 今日、気づいた。ようやく認めるつもりにはなったのはついさっきだ。いなくなったと思ったら、気が狂うかと思った。いずれいなくなる、否、今晩いなくなるとは分かっているけれど、それでも。今晩になっていないのに、勝手にいなくなるだなんて許せないのだ。好きだから。理由になるのかどうかは分からないけれど。
「男鹿のこと、色々、頼むな?」
 好きでも、離れるしかない。それを分かって、残せる言葉は他になかった。古市のまだ16年という短い人生経験では。好きであっても、離れるしかないとわかっているけれど。でも。いわずにいられないくらい、好きだと思ってしまったから。ラミアが何も言ってくれないので、もう一度ぎゅうと抱き締めた。ラミアが身をよじるまで。



15.04.21

古市とラミアの話
告るのは男から!っていうのは年上だからかなぁと思ったのだけど。そういうことなのかどうかはわからんまんま終わりました…私的に。

この話はシリーズ化する予定です。えっちなこともさせたいなぁとか思ったりね! まあろくでもないのだけれど。古市の気持ちの揺れ動きとかは分かっていただけましたでしょうか?
分からんよなぁ……あっしの文章じゃねぇ…。まぁわかる人は何か声とかくださいませ。お願いいたします。

2015/04/21 20:54:19