机上の空論




仕事で死ぬのは当然だと。
そのためにこの仕事をやっているのだと。
決めたその人のために、命を賭すのだと。
むしろ、そのために生きてきたのだと。
ここまで動くことが、今までできたのだと。

決めたその人のために、命を捨てることが、自分の生きる意味。
ああ、男冥利に尽きるってもんだ。
きっとその時がきたら生きててよかったなぁ、って思うんだろうなぁ、なんて。
決めたその人のために、って言っても、里の連中が言うような、「愛」だの「恋」だのって、そんなこっぱずかしいものじゃない。
ただ…、護りたいって思ったから、護るだけ。
あんた、って決めたから、あんたを。
意味なんて……求めるだけムダ。世の中には意味なんてないことのほうが多いって。



忍としてやっていくのは、そうつらいことではなかった。
「忍」とはその名の通り、『耐え忍ぶ者』という意味合いが濃い。それは仕事うえで必要なこと。つまり、修業中に培われる忍耐力により、忍としての力量が問われることになるのだ。
 佐助は、特に忍として名を馳せたいわけではなかった。だが、元々その素質があったのだろう。修行を積めば積むほどその才能は開花されていった。苦もなく。
 だが、命を賭けて護りたいもの、…そんなもの、まだ、ない。
いくら向いている、って言ったって、その気がなきゃ実力は発揮できない。


あんたになら、命預けたって構わない。
あんたの方が、影でしか生きられない忍なんてモノなんかより価値がある。
俺より、もっともっと、しあわせになってくれ。


そう思える人に、会いたい。
 なにかを失っている、からっぽな心に、ふ、とそんな思いがよぎる。
 よくよく考えてみれば、自分がなにかを失っている……そんなふうに思うこと、それこそが初めてのことだった。

俺は、なにかを失っているのだろうか?

 自問自答は、答えの出ない螺旋階段。なにかに行き詰まるたびに、何度もぶつかる壁のようなもの。
 その事実によって、ふと気付く。こんな「人間らしい」問いかけはいつぶりだろうか、と。それに伴い、やはり自分はなにかを失った者である、ということにまで気づかされる。
 理由は簡単。人間らしい自問自答にドギマギしてしまう自分自身を感じてしまえば、今までは人間らしくなかったのだと理解せざるをえない。



「失うものなんて、なんもないはずだけど」
おどけたように、誰も聞いていないだろう独りで、
「護るものは、」
自分の身ひとつだけだ、と声に出さずに、
「―――――」

 続きは、言葉にならなかった。
 これも、理由は簡単。数年前のことを思い出していた。失うものは、当時はあったのだ、と。
 失いたくないから、自分から必死でしがみついていたけれど、きっと向こうは自分のことを「役立たず」ぐらいにしか感じていないのだろう。
 だって………





「さ〜ぁて、…と」
 思い出したように立ち上がる。
 今日は暗殺命令の日。感傷に浸ってるヒマはない。
 佐助の吊りあがった眉は『仕事モード』を表している。口調はいつものように軽いものだが、どこだったか地方の犯から来たお偉い様を一発サクッっと仕留めなくてはならない。

 恨みはないけれど、これも仕事なんでね。



 失う者の痛みを知っている者は、そんなことをおくびにも出さず涼しい顔で『仕事』をこなしていく。
 だが、失う者がいる苦しみを現状として感じられない現状がある。過去は過去、絵空事でしかない。アテにならない記憶だけに今、自分は思っている。考えている。
 現実。ごとり、となにがし様が無言のうちに倒れる音がした。





前に書いていた数行のあとに付け足して書いてみました。さすがシリーズ!その2
まったく恋愛要素とか何んとかがない!というか、佐助がそれを拒絶してる話でしたし。
ほんとうは真田幸村との出会いを書きたかったのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。当時の自分の気持ちを反映はできなかったけれど、時間は記憶を溶かしていくからしかたないってことで!
このシリーズは、おれが気が向いたままに過去に行ったり未来に飛んだりしますから、順番どおりに読んでも時系列ではないので悪しからず。…ってここで書くか、おれ。−2008.12.28

2008/12/28 10:07:14