【追悼企画】

※ if もしも、あの時ので死んでいたら……な暗い話


 葵が手を合わせて深く強く祈る。何に祈っているのか、それは隣にいる男鹿には分からないけれど、想像はできる。あの時の震災でとばっちりみたいに亡くなった、彼女の両親に向けてだ。
 探して見つけたわけじゃない。連絡が来たのだった。それは葵の祖父である一刀斎の存在を聞きつけた警察の尽力のお陰だった。ひっそりと東北の沿岸部で修行をしながら暮らす葵の親は、どうしてそんなところで暮らしていたのかすら娘に伝えることもなく、ただ、荒波にのまれて逝去してしまった。それが悲しくて、葵は堪え切れない涙を拭おうとした。黙祷。深い意味のあることだ。
 男鹿がぽつりと言った。
「俺、生前にやっぱり会いたかった」
 その視線の先に、葵の幼い姿と若かりし頃の両親が笑顔で映っている写真があった。今日は三月なのに雪が舞う天候。まるで、まだ心残りがあるんですと彼らが泣いているような。その写真立てにそっと触れた手を、男鹿は離した。
「しゃあねぇな。…今日は泣けよ」
 涙を堪え切れなくなった葵の頭を強引に抱き寄せて、男鹿は出かかった言葉を飲み込む。葵の身体は先ほどまでとは打って変わったように震えており、とても弱々しそうだった。こんなに苦しそうな葵を見ても、やはり男鹿は思うのだ。生前に会って話しておきたかった。そのわけは、死ぬと分かっていても、それでもあなたたちを忘れたくないから。そう、会わない人は忘れることすらない。けれど、会った人は記憶から薄れ、いずれ忘れてしまうこともあるだろう。それでも、忘れるまで憶えていたいから。そんな気持ちだった。言葉には、葵の涙も手伝って、とてもならなかったけれど。言葉にする代わりに、彼女の強くても華奢なその身体を、ぎゅううと強く抱き締めた。
 泣くな、なんて言わない。泣いてもいいから、明日も生きろ。


15.03.11

おつかれさまー
どうこういう話をしたためようかと考えていたら、あんまり長くも書けず(まぁ仕事…バイトだし)単発のヒョロい話になりました。若干、意味わからんかったらごめんなさい。
短いのですが、一応わたしも被災地に生きてる人で、同僚だった方をなくしたこともありましたので、黙祷のときに感じたことなどを文にしてみた感じです。わたしは幸せな人ですよ? 家族とか血族とかで亡くなった人もいないし、家も無事だし。けど、思うことはあるのです。
今まであまりふれないようにしてきた内容かも。でも、今年ふれようと思えたのは、何かの前触れか何かなのかもしれない。よく、わからないけど。
2015/03/11 23:12:19