周る小さな仔




 包囲網は完成していた。袁術軍は追い詰められている。
 孫策は、自分を飼いならし、そして働きバチのように使い捨てようとしている袁術の薄汚れた野望を見抜き謀反を起こし、独立しようとしている最中。
 もうすでに袁術はここにはいないことは分かっている。奴はとっくに逃げてしまっている。
 では、どうして城を包囲しているのかといえば、実はこの城、袁術が持っていた城の中でいちばん大きな城だったのだ。それを奪い取り我が軍のものにすべく、孫策軍は侵攻の足を休めることがなかったわけである。

 孫策が孫策であるが所以はやはり、その人物登用の広さ、器の大きさを感じさせるそれこそ、である。
 ハッキリいってドンパチやるのが得意でもあるが、その中にも彼は「仲間」を見出し増やしていく。
 孫策は知っている。追い詰めれば逃げていくが、逃げ道を一箇所つくっておけば、そこに群がるのだということを。彼は孫子の教えなど知らないが、それは経験で覚えたことだ。
 彼のつくってやるその逃げ道こそが、自分の元に来いよ、という差し延べる手なのである。
 いくら袁術が腐った奴だからといって、袁術軍の面々がみんな腐れているというわけではない。地元だからと仕えている者だっているはず。じゃあ、と彼はその者たちに来いよ、と手を差し延べるわけだ。
 もちろん、今回とて例外ではない。


「ではわたしも行くぞ、孫策」
 親友の周瑜が孫策に向かって手を振る。どちらも別の方向に走り出す。
 もはやもぬけの殻に近い状態の城の中。だからこそ単独行動は許される。周瑜ほどの高い地位にいる者ならば、普通は許されないことだ。
 孫策の場合は、生まれ持った自由奔放な性質から、勝手な単独行動は目立つが、見ている者としてはハラハラして見ていられない。
 いくらがらんどうのようになった城だといっても、隠れた敵兵がいる可能性はある。周瑜は利き手にきっちりと獲物を持っている。どんな時でも抜かりなく。これが軍人としての鉄則。

 足音を殺して歩く。警戒は怠らない。
 ひたり、ひたり…。
 奥の部屋に向かっていくと、部屋からうすぼんやりとした光が漏れているのが目につく。
 隠れていた敵かもしれない。逃げ遅れた敵かもしれない。
 足音を慎重に慎重に、殺しながら扉に近づく。やはりこの扉の置くから、灯りが漏れている。厚い扉は押し戸だが、隙間はちょっと大きめ。この間から耳を澄ましながら中の様子を窺う。


「………」
 気のせいだろうか。押し殺したような、女の声が聞こえる。
「…っふ、……」
 泣いているような。なにかを我慢しているような。押し殺しているだけに、よく分からない。

 だが、所詮は女。周瑜の敵ではない。
 周瑜はさらに様子を探るため、扉を静かに開く。
 確かに人の気配。そして、ほのかな灯り。布団の衣擦れの音と、部屋にいる者の呼吸音。先ほどよりも、よく聞こえる。
「……ゃぁんっ…、っはぁ、はっ…」
 寝台が不規則に軋むと、抑え切れない声がそこから洩れてくる。
 布団がもぞもぞとそこで動く。それに合わせ呼吸が荒くなる。呼吸というより、時に声が洩れているではないか。
 そして、どうやら一人の呼吸音しか聞こえてこない。


 …自慰か。

 周瑜は密かに眉間に皺を寄せ、しばらく女の自慰の様を聞いていた。
 それを聞いてしまえば、嫌でも頭の中では想像してしまうもの。
 どんな女だろうか。もちろん想像上じゃ自分の好みの美女で。そう、まだ彼の耳に届く声は、幼さの残る愛らしい女の声のように聞こえたから。
 知らず知らずのうちに下半身に血流が集まっていく。これを鎮めるためにも、気をやっている、きっと不細工な女の顔を少しでも見てやろうと近づいていく。

 少しずつ近寄っていくと分かる、女の動きは間違いなく淫らなそれ。
 どうやら布を足の間に挟み込んで、自分の高揚に合わせて腰をくねくねと動かしている。布団に包まっているだけに分からないが、きっと滑稽な動き。まさに性交している動きそのもの。
 何度も何度も続くその動きに、既にその快楽の虜になっている様が見て取れた。寝巻きの中はきっと汗と愛液に塗れていることだろう。
 誰に囲われていたかしらないが、淫乱な年増に違いない。


 少しだけ覗いたその顔は、若く、美しい姫君のその姿。


 恍惚感に浸りきり、半分目をとろんと熱っぽく開いているが、どこを見ているのかは分からない。
 暗い部屋の中では彼女の上唇と下唇の中に引いている銀の糸と、額に浮かぶ快楽のために滲み出た汗だけが、ほんのりした灯りに映えて浮かんで見えた。
 暗く熱っぽいその部屋は、まるで媚薬のように甘い。


 周瑜は音もなく慌てて扉から飛び出し、興奮を鎮めようとした。
 しばらくすると女は満足したのか、呼吸は平生に戻っていった。

 本当は、その布団を剥ぎ取って自分のものにしてしまいたかった。衣服を剥いで、いやらしく濡れた女の中心に触れてみたかった。自分の指を、それで濡らしてみたかった。ああきっと、ヒクヒクと蠢いているだろうに。
 そうしてもっと……濡らしてやりたかった。

 まだ収まりきらない猛りはあるものの、この暗がりではよく見えないであろう。
 周瑜はゆっくりと立ち上がりもう一度、今度は女に気付くように扉を開け、近づいていく。
 急に開いた扉に身構えながら、思わず硬くなりながら声を荒げた。
 実を言うと、彼女は先ほどのように自らを慰めることの意味などよく分かっていなかったが、それが人に見られるのは恥ずかしいことだということだけはしっていた。まぁどこに布団を押し付けているのか、それを考えれば誰もが分かることではあるが。それが見られたのではないかと思って、心中穏やかではない。
「……っ誰?!」
 コツ、コツ、と物静かに誰かが歩く音。
「私は孫策軍の者。…悪いが、君の信じていた袁術は敗れたのだ」

 彼女の前に、密かに胸に抱いていた、夢見た理想の王子さまの姿が、そこにあった。
 子供みたいだけれど、ずっと昔から夢見てきた。王子さまが現れるんだって。だって、そうでなきゃ、あの気弱なお姉ちゃんと、戦うばっかりの怖い袁術さまと、それにペコペコしているお父ちゃんの間に挟まれて、心の中だけくらい、夢見なきゃやってられなかった。
 その王子さまのような彼が、目の前で微笑んでいる。何度も瞬いて、己が目を疑った。


「私の名は、周瑜という。…では君は?」
「あたし……あたし、小喬っていうの…」







 もちろん、周瑜がその時に見た情景は、誰にも内緒だ。妻すら…
 邪な愛かもしれないが、周瑜はすぐに小喬を側室として娶ろうと、決めていたのだった。





* * * *


わーい、時間かかったけど書き終わりましたー。最低な話バンザイだよ(爆笑)
ロリショタが苦手で苦手で、ほんとうは小喬がオナってる姿は長くネチっこく、リアルな描写にしようと思っていたのだけど、気持ち悪くて想像すら厳しくて、もうダメでした…
つーかなんで興味ないカプとかキャラとかシチュとかを書きたがるんだろうね。自分を虐めてるわ俺(爆)
しかもヤりたくてしゃ〜ない男臭い周瑜だし、オナ小喬だし、マジ最低!もうちょっと小喬語りがほしかった。ストレスオナりだという話も考えてたのに。ちょっとソレを匂わせた程度じゃんか。読みたい人、いるかな?(いねえ)

ちなみに、史実では小喬は側室だそうです。それが笑えたので書いたってのもありますね。


2006/12/02 08:24:31