※ そのまんま続きでH



深海にて10


想いを伝うのは、言葉だけじゃないよ
想いを伝うのは、行動もすべて
信じることがすべて。
口に出されたことは本当で、目で訴えたことも本当。
想いを伝うのは、人ができることのすべてを信じて、受け止めること。認めること。



*****



 珍しいと思った。こんなに真剣な表情をした男鹿の様子など初めて見たかもしれない。真っすぐに見つめてくる目は射るような視線だ。痛みすら与えてくるような眼。男鹿が目を細める。キスの合図だ。それに応えるために葵も目を閉じた。間髪入れずに唇に温かさがおりてくる。唇に唇が触れる感覚はとてもやわらかで、いつもながらこれで触れているのかと驚くほどだ。だが、それはやがて間違いだったのだと知る。一度は離れて、もう一度フワリと触れる。あ、と思うところに離れてまた、触れる。もっと、もっととねだりたい気持ちを抑えて葵は薄く目を開ける。細めた視線はその場で絡み合う。この時を男鹿は愉しんでいる。べぇっと舌を出して、ケンカ前みたいな笑みを口元に浮かべた男鹿は再び葵の口に触れた。今度は深く。身体を預けるようにベッドにのしかかりながら。もっとと思うことはすぐに奥を明け渡すように、口は薄く開いていた。ちゅぷ、と鼓膜に響く音は普通なら聞こえないはずだった。そこまで激しくディープキスなどしていない。触れ合っているからだ。葵の口の中に差し込んだ舌を欲しがっているのは、間違いなく葵の小さく薄い舌だ。ちろり、と舌と舌が触れ合うと、慌てたように葵の舌は離れていく。これが照れ隠しなのは分かっているので男鹿はずずいと深みを探る。逃げる舌を捕まえるのは容易。舌の中で暴れる舌は卑猥な音を鼓膜に届けるものなのだ。鼻だけで息をするのは苦しいが、触れ合うそこは喜んでいる。男鹿に、葵に触れ合って喜んでいる。キスだけでこんなに身は喜ぶのだ。唇を離すと、それは離れたくないという葵の意思も、男鹿の意思も反映したかのように互いを分かつことを拒むように透明の糸を引いた。薄く開けた目がその光景を映していた。顔を離せば離すほど、糸は細く長くなり、そして、途切れた。

 これまで何度も抱き合ってきたけれど、これまでよりももっともっと、とても男鹿はねちっこい。離れた唇をすぐにくっつけながら男鹿は、葵を抱き締めながら服を脱がしつつ、そして耳元にキスをした。それとほぼ同時にそこで呼んだ。
「邦枝……、葵…」
 耳の中までをもねぶる舌。とてもいやらしい。は、は、と息が乱れていることはわかっていた。また聞いた。確かに男鹿は初めて、葵の名前を呼んだ。上半身は気付けば何もまとっていない。涼しくともふくよかな女の身体は男という立場にしてみればとても愛おしいものだ。この思いを伝えるのは、行為だけではきっと女には足りないのだろう。男鹿は邦枝の、既に尖った二つを乗せた柔らかな膨らみに顔を埋めながら考えていた。どうしていえないことがあるのだろう。今までの自分がとてもバカバカしいとすら思える。これだけ高まった思いの中では。指でそこをいじくり回しながら吸いつく。ちゅ、と音が響くと葵は自分が侵食されているような気持ちになって耳を塞ぎたいと思う。だが、それをさせてくれるはずもなく、男鹿は脇腹を撫ぜながら胸を責めた。柔らかな中に硬く尖りがある。感じているのだと分かる。それを舌で転がす。葵は声を抑えようとしているが既に洩れ始めている。男鹿は葵を隠すショーツに手をかけた。その中が熱く熟れているのはよく分かる。既に葵の身体は全体的に桃色に染まっているのだ。
「や…っあ、は、あ、だ、だめ…そんな…っ、は」
 葵は身を捩った。最後の砦だと思っている。これを剥がされたらもう己を隠すものは何もない。気持ちとしてはすべてを曝け出したい思いと、恥ずかしさがないまぜになってそこにある。その思いが拒否の姿勢をつくる。だが男鹿は獣の目をしたままだ。まだ暴いたことのない葵のすべて。葵は逃げ切れなかった。否、逃げ切らなかった。こんなときに本気の拒否なんてできる人がいるのだろうか。だって、ずっと思っていたし願っていたのだ。相手は彼がいい。彼じゃなきゃもちろん嫌だけれど、その相手が求めてくれることは何よりの幸せだ。そう感じれば感じるほど、思考もどろどろに溶け出していくみたいに、甘やかな世界に身を浸すばかりになって。あとはどちらのものとも言えない荒く乱れた呼吸と、部屋を満たす熱気と、ほんの小さな水音と吐息みたいに吐き出される互いの名前。すべてが部屋の中を満たしてこの空間を染めていく。他の何もいらないとすら思った。
 温かなものが恥ずかしいところを行ったり来たりするのを肌で感じるが、さすがに目にするのは恥ずかしすぎて頭がおかしくなってしまうのではないかと思ったので自分の目元を覆って、はふ、はふ、と無闇に荒くなっていく呼吸を何とか整えようと男鹿の匂いのする枕を抱いて耐えようとした。視界を覆うと感覚が研ぎ澄まされて、逆に思考もどうでもよくなっていく。流されたくない、恥ずかしいと思いながら流れていく。頭も身体も熱で熟れてぐちゃぐちゃになっているのに感覚器だけが刃物みたいに研ぎ澄まされている。おかしな感覚だった。まともなことなど一つも考えられないと思った。
「葵、…いいか? 入れて」
 初めてだが怖さはない。否、別の怖さがあったから男鹿も葵も、ここまで踏み出せずにいたのだ。気づいたら男鹿も服を着ていない。強引に身体を抱き起こされ唇を吸う。抱き寄せたまま男鹿は葵の長い髪を撫でる。汗で髪が顔や肩にも張り付いている。身体を激しく動かすようなことは多いけれど、こんなに蕩けた表情を見られる特権があるのは自分だけだと思うと、男鹿の中にムクムクと支配感が生まれ、同時に達成感に胸が満たされていく。葵がごく小さく顎を下げた。いいよ、そういう合図だ。机の中をいじくって昨日もらったばかりのコンドームの箱からそれを取り出して着ける。初めてのことなだけに結構焦る。その気まずい瞬間的な静けさの中、葵はそんな男鹿の姿が愛おしくて堪らなかった。ことが終わればすぐに、男鹿はなけなしの理性を捨ててベッドの上に再び葵の身体を縫い付けるように押し倒した。

 初めてだけあって、正直入りづらい。どこに入れればいいか迷うほどガキでもないが、さっき指で広げて濡れたそこはまだ十分な潤いを保っていたが、やはり指と質量が違う。ペニスの先端をねじ込もうとすると葵は顔を顰めた。きっと痛みがあるのだろう、男には分からないような痛みが。まだ先端の入りきらない熟れたそこに目をやると、もしかしたら裂けたのかもしれない。血が出てきた。普通にビックリする。抜いた方が身のためだろうかと、まずテッシュ片手にペニスを抜く。男鹿の頭が冴えてきた。というよりか、冷めてきた。血が出る、というのは聞いていたが、実際に目にすると本気でビビる。そんなつもりがないだけに、かなりビックリする。怪我をさせるつもりがないのに怪我をしてるというやつ。場所が場所だし、取り返しのつかないことでもしでかしたような気持ちに陥るのだ。
「あっ……ん、男鹿っ…」
「血がでてる…痛くねえか」
「だ、いじょうぶ」
 葵の目が潤んでいて、今にも涙が零れ落ちそうになっているのは痛みだけのせいじゃないのは分かる。だが、無理をさせるのもよくはない。男鹿は久々に無い頭を絞った。ティッシュを当ててやると葵は身体を起こして男鹿に寄りかかった。そうすると葵から香るシャンプーと匂いと混じって、汗の匂いや本人の淡い体臭などが男鹿の鼻先をくすぐる。香りもすべて欲情の材料となり得るのだ。一度は冷めた頭がまた熱を上げて男鹿の男の意欲を上げる。ただしそれでいいのかどうか、男鹿はティッシュごしに葵のそこをまさぐった。葵の呼吸がすぐに荒くなる。一度その気になってしまうと抑えるのは難しいかもしれない。血の滲むティッシュをゴミ箱に向けて投げた。たぶん暗いのでうまく入っていないが後でいいだろう。葵は男鹿に寄りかかったまま身を任せている。これはどっちだ? 男鹿は葵の気持ちが分からず内心焦っていた。男として最低限気遣うべきところで、その気遣い方を間違えると最低の初体験となってしまうから、お互いに。
「大丈夫よ……男鹿。あ、の…その…、また…」
 いうのは顔から火が出るほど恥ずかしいが、いわなければ伝わらないこともある。そのせいで尻すぼみの声になってしまったが、男鹿はすぐ察してまたギラつく目を葵に向けた。血の割りに痛みはそれほどでもないし、思っていたよりは血も少なめだ。確かに割られるようなピリピリとした痛みがあそこにあるけれど、それはきっと幸せな痛みに違いない。葵はそう感じたのだった。再び男鹿の舌が葵の身体そこらに這い回って、すっかり火照ったところで一度、互いの身体をゆっくりと離す。冷めた表情なのに目だけが燃えている男鹿が静かに見下ろしている。らんらんと輝く目が必死に葵がほしいと物語っている。それを見上げる葵の目も必死に男鹿を求めて縋るように見つめていた。
 さっきよりも、もっとゆっくりと探るみたいに葵の中に男鹿はそそり立ったものを埋めていった。葵の粘膜に触れるたびに脳髄が焼けるみたいな激しい快感に身を焼かれる。男でこんなふうに声を押し殺すほどの気持ちよさなのだ。女の身ではどれほどのものなのだろうか。いつも触れ合うたびに恐ろしく思っていたのはこのせいだ。こんなに気持ちの良いことがこの世界にあるんだなんて、今までまったく知らなかったから。これに溺れ切って脳髄が焼き切れるまで抱き合っていないといけなくなってしまうかもしれない。そのくらい、奥に埋める行為だけで、もう。
「全部、入った…」
「うっ、うん…。あ、あ、す、すご…い…」
 葵の中でこれ以上ないくらい男鹿のペニスが大きくなっていく様が手に取るように分かる。葵はその質量に手放しに耐えられない。堪らず男鹿の背中に腕を回してしがみつく。筋肉質で硬い背中はいつも以上に頼もしく感じられるのが不思議だった。男鹿は腰を動かすわけじゃなく、奥に長くいたいから耐えている。動かなくてもこれだけ気持ちいいのならセックスとはどれだけのものなのか。やはり知ってしまうのは怖い。これ以上痛いほどの快感は。その狭間で葛藤する。知りたいけれど知りたくない。だが、こんな誘惑に勝てる人間も、もちろん悪魔だって魔王だってきっとどこにもいはしない。葵の啜り泣きみたいな喘ぎの中、少しだけ腰を動かすと男鹿はすぐにそのまま中で爆ぜた。そのまま息が整うまで二人ともつながったまま寄り添っていた。汗に濡れた男鹿の額を葵は撫ぜた。余裕のない表情は珍しい。そんな姿を晒してくれることがとても愛おしいと思った。静かに、男鹿の髪を掻き分けてそこに口付けた。男鹿が視線を上げるとすぐに目が合う。
「すっげぇ…。なんつうか……、ヤバイなこれ…っ、また……っ、は」
 葵の中で男鹿が蠢いている。これは男鹿の態度から見て、男鹿の意思とは無関係らしい。抜かずにいたというだけのことだ。中でビクビクと大きさを増しているのが葵の体内で分かる。葵もまた中が擦られてひ、と高い声が出てしまう。そのまま抜かずにもう1ラウンド追加になった。ゴムが気にはなったが、こうなってしまっては止める方が難しい。初めてではなく今度は2度目でかつ、入れる痛みもないとくればあとは気持ち良さを追うだけだった。最初よりもだいぶ余裕はあったが、それでも葵の中はあまりに気持ち良くてすぐに達してしまいそうになる。ぎゅうとペニスが締められるのを何度か感じた。だが、葵がイってるのかどうかは分からない。既に蕩け切った様子でクタクタになって、それでも男鹿に縋りながら泣き声を抑えこんでいる。あまり激しく動く必要がないくらい気持ち良くて、そのまままた出してしまってから、やはり少しの間動けないでいたがそのままでいるわけにもいかずペニスを引き抜く。名残惜しいが精液でタプタプになったコンドームを縛ってゴミ箱に捨てた。零れて指につくそれが汚いので男鹿は顔を顰めた。葵はくったりと横たわったままそんな男鹿の様子を見ていた。はあ、と大きく息を吐いてから男鹿は葵のすぐ隣に潜り込んできた。まだ身体は熱をもっているが布団を被った。二人でじゃれ合うみたいにくっついた。体力はなくなっていたのでじゃれ合いも何だかただのふれあいみたいな微笑ましいものになった。
「なんか、今まで、遠回りっていうか、な。なんかな」
「うん。私、今、すっごい幸せ」
「そーだな。邦枝、大事にする…し、今までの、誰より好きだ」
「おが……」
 今までずっと聞きたいと思っていた言葉が男鹿の口から、しかも思いがけないときに零れ落ちた。男鹿は分かっていて、それでも照れから出せなかったこの言葉。嬉しくて、葵の瞳からは涙が溢れそうになる。それを抱きとめようとしたが男鹿の身体に容赦無く、魔王の雷が落ちた。うぎゃーーー! そんなに激しいわけではないが、たまに訪れるベル坊の夜泣きだ。葵への肉体的ダメージがなかったことはよしとしよう。気だるい身体を引きずりながら男鹿はヨタヨタと布団から出て行った。裸の後ろ姿はどこか先ほどよりも男らしく映る。女の子として生まれ落ちて、本当に良かったと葵は布団の中で一人思った。抱かれる幸せと、抱き合える幸せ。まだあそこから鈍い痛みがあったが、それでも幸せだった。隣の部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえたが葵の身体はクタクタで、今夜は男鹿のフォローは無理だった。布団の中でさっきまでの行為と、好きだといってくれた言葉のひとつひとつを頭の中で反芻しながら目を閉じたのだった。



「おはよ」
 降り注ぐ朝の陽の光に目を細め、一通りぼんやりして目を覚ましてから葵は隣で眠る男鹿に声をかけた。どこか浮かれた響きが滲んでいる。葵は自分で恥ずかしくなったが、きっとこんな些細なことなど男鹿はまったく気付かないだろう。寝起きの男鹿はすっかり寝ぼけ眼で葵を見ていた。まだ脳みそがまるっきり起きていない。目を開けたままぐうぐう寝ているような状態だ。もう一度声を掛けて、勢いでそのぼんやり男鹿にキスをした。ちゅっと触れるだけの可愛いやつ。さすがに驚いたらしく男鹿は今起きましたみたいな顔をして、「お、はよぅ」とらしくもない、もにゃもにゃとした声を出した。そんな男鹿を、葵は心から可愛いと思う。愛おしいというのはこういうことをいうのだと感じる。男鹿は、男鹿のままなのになぜだか葵の気持ちだけがスッキリとしていた。聞きたかった言葉を聞けたからかもしれない。望んでいたことが本当になったからかもしれない。まるで、夢の中にいるみたいで、こんな夢ならば覚めなければいいと思いながら葵は男鹿の布団を剥いだ。なぜなら、もう何時間かで男鹿の家族がこの家に帰宅するのだ。それを思い出させねばなるまい。それを男鹿に思い出させるため、早めに男鹿の目を覚まさせる必要があった。本当は、もっとラブラブな雰囲気でいたかったけれどそんなことばかりはいっていられない。今の自分だけじゃなくて、これからの自分たちに向けて。男鹿の両の頬をパチンと弱い力でやっただけで目はパチクリと開いた。
「ちゃんと起きなさい。ベルちゃんも、お父さんもお母さんもお姉さんも……男鹿にしっかりしてほしいって思ってるわよ」
 言葉にしなくともきっと届いてくれないかなあ。あなたはあなたのために、しっかりしてて。そして、私の前だけではだらけてもいいけれど。そんなあなたを私は、支えたいだとか、そんな大それているかもしれないけれど、そんなことを思ってしまうから。大好き。


14.01.07

男鹿と葵ちゃんの初エッチの話

どうなの?
とか思うかもしれないけど、これは尻切れにしてます。わざと。まあ尻切れでもないかもしんないけど。続きます。言い切った!

こんな初エッチなら幸せでしょ。むしろ結婚じゃね?レベルだw
さて、ここからが展開が動くって思ってます。今まではただの男鹿と葵ちゃんのラブラブになるまでの話っていう立ち位置。
それだけじゃないのがこの深海にてシリーズなんだと思ってる。番外とかバカバカいれて。や、書きかけのやつがあるし。やりたいようなやるつもりで書いてたし。


そんな感じでございます。おやすみなさいませ。

2014/01/07 23:37:26