※姫川夫妻 とうとう竜也くんが。。


本能ベクトル



 本当かどうか分からないが、ある噂を聞きつけた。今まで順風満帆な夫婦生活をしていたのかと思っていた。確かに子供はいなかったが、それを渋っていたのはそのせいなのか。瞬く間に石矢魔メンバーの間で立ち上った噂に耳を疑った。そこまで信用できる男だとも思っていなかったが、そこまで裏切り者だとも思っていなかった。実を言うととてもガッカリしていた。そんな自身にビックリしてもいた。それは聞いたみんながそうだった。過ごしたときというものはそこまで人を信用してしまうということなのかもしれない。今さらかもしれないが、そういうことを知っていくことが大人になるということなのだろう。青臭いけれど、それなら大人になどならなくてもいい。そんな気がしていた。
 で、そのある噂というものについて。内容に触れないわけにはいくまい。後輩である古市情報なので本当っぽいような気もしないでもない。というか、当人に聞いていないので何とも言えない部分は多いのだが、【姫川先輩が浮気したそうです。】これだけ聞くとただの本当の話のような気もする。そもそもそんなに愛情深い男という感じもしないし、嫁である久我山潮を大事にしているそぶりもなく、だからといって邪険に扱っている様子もなかった。ただ、見守っているという印象は受けていたが。それがもしかしたら姫川なりのせいいっぱいの愛情なのかもしれないなどと、周りは勝手に思っていたらしい。それで、話はそれで終わりというわけではない。その噂が尾ひれがついて例の嫁に伝わったとのこと。これから修羅場があるのだろうと予想しているが、あまり見たくないし、関わりたくない。というのも財閥とかそういうものが絡んでいて、単純に離婚で終わる話でもなさそうだからだ。このタイミングで姫川に会いたくないなぁと思っていたら、ばったり出くわした。なんというタイミングの悪さ。頭を抱えたくなるのは自分の間の悪さのせいだ。ところで、この語り部は誰だと思いますか? 俺のことよ、俺の。さあ、当ててみましょう。考えたら画面をスクロール。



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 この話の語り部は珍しく、相沢庄子、俺。タバコを吹かしながら陣野と待ち合わせで待っていた。なぜか来たのは姫川だった。噂はひと月くらい前に聞いていたので態度はおかしくなってしまったかもしれない。そういえば姫川と会うのは結婚式以来だったと思う。俺は二次会しか出てないけど、結婚何年目だっただろうか。3、4年は経っていたっけ。だが、結婚、という単語を出すと離婚に結びつく会話が怖くてできなかった。これだけ政治やらカネやらという問題に噛んでる人物だけに。思い出してみればそういう人物と知り合いなんだなぁ俺、とかちょっと現実逃避したりなんかしちゃったりして。
「久しぶりだな。え〜っと………」
「俺、相沢だけど」
「東条元気なのか?」
「今から、久々に会うとこ」
「お。俺も見とこ」
 俺としてはギクシャクした会話のうち、陣野が来た。こいつも東条さんも、いつも待ち合わせには遅れてくるので俺もそれに合わせて遅れてくるようにしている。それでも俺が一番早くなる。よくわからない。俺の遅れを計算に入れた上で遅れているとしか思えない。そんな器用なやつらじゃないのも知ってるけど。その流れで東条一派と姫川の4人で飲みにでもいかねぇ?って話になった。俺としては姫川は別に仲良しというわけでもないし、気になる噂のこともあったので、あまり関係ありたくないんだけど。そういうところの空気を一切読まないチームメンバー2人の顔を見て諦めた。
「カンパ〜〜イ!!!」
 カチン、カチンとグラスが当たる音が気持ちいい。ビールでとりあえず乾杯した。胸に染み渡る爽快感が堪らない。このために仕事したり遊んだりするんだよな、人間って。俺たちは近況を適当に話し合って、それでも変わらないななんておなじみの話を一通りした。そのとき、ふいに東条さんが姫川を見て言った。
「そういえば、お前浮気して嫁と別れ話でてるってマジ?」
 どうやら急に思い出したらしかった。これだけストレートに聞けちゃう東条さんっていう人はやっぱりスゲェけど、このときばかりは「ああはなりたくねぇな…」と本気で思った。空気が途端に冷えた。ああ、これが姫川の力だろう。俺はため息をつくしかなかった。どうしようもない。聞いてしまったものはもう、口に出した言葉って引っ込みがつかないから面倒なことになったり、こじれたりするものなんだ。さすがに隣にいる陣野も苦笑いの表情だ。ここで何の前触れもなく聞いてくれるなどとは誰もが思ってもみなかった。姫川は顔色一つ変えていない。
「別れ話はでてない」
 短くこれだけ答えた。う〜ん、つまりは浮気はまじってことですね。あの美人な嫁さんを泣かすこの男は結構に最低だ。だがその最低っぷりは昔から知っていたけど。東条さんは不思議そうに突っ込む。や、この話題って取り消し聞かないの? 俺も陣野もどうすればよいか分からなかった。だから聞き手に回るしかない。
「なんで浮気するんだ?」
「遊びたいときもあんだろ」
「俺はないなあ」
「お前は女房いねぇだろ」
「まあな。で、どんな女?」
 別に隠しているわけではないらしい。姫川がケータイをいじって写真を見せてくれた。割と普通の女みたいだ。まぁ美人ではあるけど、あっと驚くような女というわけではない。むしろ久我山のほうがきれいだし、姫川のリーゼント&グラサンを外したときのほうがきれいというレベル。もう少しいい女と浮気しろよせっかくならな。俺は心の中で何度もツッコミを入れたが、実際にいえるわけない。浮気については俺は否定しない。カネがあれば女は寄ってくるだろうし、どうしてかかっこよくなくても、カネだって姫川みたいな金持ちじゃなくったって、男は浮気なんて簡単にできるもんだ。これは永遠の謎だな。ちなみに俺はまだ独身だが浮気の経験は結構ある。なんとなく気が向いたから、とかヤレそうかな、と思うと手をだすことがある。そのときの流れとかノリってやつで、あとから罪悪感が生まれないわけでもないんだけど、流れに乗るっていうのも大事な要素だと俺は思うんだよな。別に相手のことがいやになったとかそういうものでもないんだけど。おおよそ姫川もそんな口じゃないかと思うんだ。この様子だと嫁にはバレていないだろう。要は、バレなければ浮気は罪に問われるもんじゃないんだ。東条さんとか古市とかの口止めさえしておけば問題はないんじゃないかと思う。
「体の相性の問題」
「…それは、結構やばいんじゃ?」
 俺は思わず口にだしてしまった。生涯のパートナーである嫁と体の相性がよくないっていうのはやばい。セックスレス夫婦だったのかお前ら。俺は正直ビックリした。東条さんはあんまり経験がないから眉を寄せて黙った。この人は何より一途だし、俺たちアダルトな話題にはたぶん着いてこられないだろう。陣野は大丈夫だけど。どこの家にも一つや二つ問題があるもんだ。もしかしたら姫川と久我山は別れることになるのかもしれないな、と俺は内心思った。ああいう大富豪同士なのであとあとめんどうがありそうだけど、一緒にいれないんなら仕方がないことなのかもしれない。平民にはよく分かりませんが。
「じゃあ、してないのか」
「たまには」
「う〜〜ん、若いのにやばい」
 女がいるとこういう話はできないので男同士でよかったのかもしれない。生々しく猥談するつもりは毛頭ないけど。俺はそういうの嫌いじゃないけど。
 どうも嫁さんとやりたいと思わないらしい。そもそも男だと信じていたのに急に女として結婚とかいう話にもなったし、いろいろとついていけない展開がいっぱいだったらしい。俺たちとしては望まれた結婚なんだと思い込んでいたのだけど。姫川という男はもしかしたら、俺が思っていた以上にナイーブな人間なのかもしれない。ビジネスパートナーとしては買っているので別れるつもりはないようだというのが意外だが、浮気のことがばれたらどうなるのか想像もつかない。久我山という人のこともよく分からないし。
「まじになったりはしてねえさ。ただ、俺も気長に発掘しますよって性格じゃあねぇし」
 久我山は処女婚だったので身体云々などというのは悪いような気がして、それをうまくやっていくのも面倒なのだという。要は、俺と違ってこの姫川という男はセックスには淡白なんだということはわかった。うーん、アル意味では羨ましくもある。それでも浮気してしまうんだから男っていうのは不思議なもんだ。やりたいときはやりたい、それだけのことなんだけど。東条さんはまったく理解できないらしくて首を傾げている。姫川は分かりやすく語る。東条さん相手でもお構いなし。
「お前みたいにオナってばっかとか、あり得ねえの。」
 女の身体に慣れちゃうと、そっちのがイイしね。悪気はないんだ。ポコチンのせいだとしか言いようがない、これが男の生理ってやつ。俺は姫川の気持ちは分かる。ちなみに陣野は微妙なツラしてるんで、気持ち的には分かるけど、そもそもが面倒くさがりだから浮気はしないってとこだろう。
「前戯が面倒」
「俺、ぶっちゃけお前はオナニストになったほうがいいと思う」
「うーん、やりかた忘れた。かっこ悪りぃし。何年前だろうな、したの」
 ここまで女に飢えてないのに、嫁を開発しないなんて本当にエロい気持ちがないんだろうなと思う。それで浮気しちゃうのはやっぱり分からん。フツウのひとっていないんだろうか?



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 どこからそんな話が出たのか、潮が竜也の浮気の話を持ち出してきた。さすがの竜也も、そのときばかりは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになったが何とか堪えた。しかも、何の前触れもないから余計に。
「竜也、外で女をつくったのか?」
「…?!! ごぶっ、」
「意外と動揺するな、図星か」
 呼吸が整うまで、しばらく噎せて話をするのがだいぶ遅れたが何とか竜也は口を開くことができた。その前に深いため息にも似た呼吸の方が印象的だったが。涼しい顔をしたままの潮はどこか不気味だ。竜也は面倒に思いながらも観念した。潮がどう出てくるのか読めないところがやりづらい。
「ニュアンスがちょっと違う。火遊びってやつだ」
「私では足りん、ということだな」
「……悪かったよ」
「私もするかな」
「え」
 この冷静なやりとりはとても不気味だ。意外な言葉と、温度差のない態度は相変わらずのままで、終始竜也だけが押され気味だった。そんなときの言葉にはいやに説得力があった。さすがの竜也も悪い気がしてきたので謝った。これは男の弱さというやつかもしれないなどと思っていたらこれだ。潮は外で男を作ろうとかちょっとした火遊びをしようとか、それこそ本気の恋愛をしようとか、そんなことを願えば叶うほどに金も美貌もある。もしかしたら火遊びが火遊びでなくなるかもしれない、うぶなだけに。そんなことを瞬時に思った。冷えた潮の視線とぶつかる。長い睫毛が揺れていた。そのことが潮の決意の表れのようにも見えた。すべてを見逃すまいと、どうしてだか竜也は潮の様子を見つめてしまう。
「まじでいってんの」
「竜也だけ、というのはズルい、と思ってな」
「やめとけ」
「お前はよくて私はダメなのか」
「ああ、そうだ」
「勝手な理論だ」
「いいから、やめとけよ」
 少しだけ竜也の声が荒げられた。二人の視線がぶつかる。ふ、と潮が嗤った。竜也がたじろいだ。勝ち誇ったような静かな笑みだった。そっと潮の手が竜也の頬を緩く撫でた。竜也は眉を寄せて一歩だけ後退りする。
「ふ…、竜也、お前でもヤキモチを妬くんだな。珍しいものを見れたんだから今回だけは許してやろうか」
「…妬くかバカ」
 いつものとおり最後にはうまく丸め込まれる。だいたい今のがヤキモチだというのか? 竜也は心の中にモヤモヤを溜めていた。急なことに狼狽しているのは竜也自身も分かっているところだ。落ち着こうと大きく息を吐き出した。やっぱり浮気はやめておこう、後が面倒だなどと考えながら。顔を上げた途端に、ずっと見下ろしていたらしい潮と目が合って、潮から噛みつくようなキスを受ける。これを誰かにやるなんて勿体無い。男はどこまでもバカだ。そして下半身に忠実、嫁よりソッチ、一回だけ。確かヤレそうだから一発…誘われたし、とかその程度で後腐れも一切なし。そもそも連絡先も聞いてない。一緒に撮った写メがあるだけ。笑顔でもなんでもない、普通に一緒に撮っただけというつまらない写真。あそこの具合がそこまでいいわけでもない。溺れる理由はなし。
「次は私も暴れるからな……泣いて、喚いて、かどうか分からないが。おとなしく済ませてなぞやらんぞ」
「…すいませんっした」
 今年も、嫁に言いくるめられるところから始まる。ふくよかな胸に顔を埋められたままで大人しくしているしかない。竜也は、そう悪くないような気がした。丸くなったもんだな…。


14.01.07

書きたかった何かと違うんですが、そもそもの失敗は相沢に語り部をさせたっていうことなんですよ…!なんかもう、すいませんっした!!(お前もかww
ここんとこずーーーとiテキスト(無料)でうってたもんで、久々に、しかもネタも固まってないのにパソでテキスト打ちし始めたのが、そもそも失敗の始まりだったのかも。
でもある程度うっておいて、出さんのもあれかなぁ…と思ったのでアップしておきますけどね。なんかすいませんみなさま…


姫川夫妻は、
周りからの反対一切なし
障害一切なし
デメリットなし
なので逆に愛情が足りないというか。些細なことでいてまうかー、みたいな脆さがあるってイメージです。
要はね、障害あるほうが燃えるわけですよ人ってば。恵まれすぎててシアワセが分からないっていう感じなんです。
だからこそ、ちょっとした障害で躓きやすい。分かりますよね、人生というか挫折の度合いと一緒だw
そういうとこを地味〜に掘り下げてるだけの話なんです実はこの姫川夫妻シリーズって。重箱の隅をつつく、なんて言いますけどまさにそんなノリ

本来なら潮はメチャクチャ怒るはずなのだけど、聡い人だし、ちょっと寝る前に泣いて落ち着いてから言いよったのかもしんない。そういう冷静なとこって、女の人にはあったりするんですよ。でもメイン視点が相沢とか姫川だったりするので伝わらない。そこが伝わったらホラー度合い増すんでしょうけどね〜

普通の人なんかはとっくに経験するべきものをしないで、経験しえないものをしてる二人だからこその話が書ければ、「ん?」みたいな面白さが生まれるかなぁと思うんですが……どうですか?
みんなどんな話を期待してんだ

しかしこのシリーズはなんというジャンルなんでしょうな…。恋愛ものでもないし、だからってファミリー系でもないでしょ。

title:joy
2014/01/07 14:37:31