深海にて9


 男鹿のたどたどしい言葉を聞いて、古市は友達らしく口八丁でエールを送りまくった。どう聞いても男鹿の話は惚気にしか聞こえなかったので、キレてぶち暴れてやりたいと切に、切に願ったがどうせ古市では勝てないのだ。最初から諦めて大人しく、男鹿と邦枝との恋路を応援するしか自分に道がないことなどとっくに悟っている。
「で、だ。ヤッちゃえば分かるんじゃないか?」
「マジで言ってんの古市」
「多分……、お前の気持ちはさ、やりてーっつーのと、好きっていうのの間で揺れ動いてて身動き取れないんじゃないかな。男としては、『ようやく来たか』って感じ」
「オメー、ドーテーなのによく言うよな。…偉そうに」
「とりあえずゴム買って来い」
 自分の欲望に忠実なのは、ある意味ではとても羨ましいことだった。男鹿は異性のことで悩んだ経験がなかったから古市のアッサリしたアドバイスに違和感を覚えたが、もしかしたら実際はそんなものなのかもしれない。男鹿はもちろん邦枝のことは嫌いではないし、むしろ好きな方だとは思っていた。それも好意を口にされたからそう感じただけで、そんなふうに考えたこともなかったのだが、やっぱり触れ合うのはとても楽しくて、うんと気持ちよかった。そうしていられるのならずぅっとそうしていたいと思うくらいに。それはラブということなのかどうかは分からなかったが、少なくとも嫌いなヤツとは一緒にいられるはずがないので好きなのだと感じる。もっともっと邦枝を感じていたいと思って、一人でするのは別におかしくはないだろう。そう思わせる女子は今までいなかったし、確かに男鹿は邦枝を想ってはいるのだった。
「俺はフツーだと思うよ。好きなら、ヤりたいって。絶対」
 だが、男鹿にはまだ古市にいっていないことがある。それは、触れただけであれだけの快感なのだ。いくところまでいってしまったら、どんなふうになるのかと思えば思うほど怖いほどなのである。しかしそれを口に出すのはさすがにできないでいる。ノロケというか、それではただのワイ談だ。道徳なのか倫理なのか分からないが、男鹿の人としての何かがそれを押しとどめるのだった。



「って………ちょ、なんだこれぇえええ??!!」
 男鹿が部屋に戻って驚いたことが一つある。部屋の小さなテーブルには、まるでさっきの古市との会話を盗み聞きでもされていたかのように、避妊具が置いてあるではないか! 驚くに決まっている。そこでしれっと茶を啜るゴスロリ巨乳女の存在。涼しい顔のままとは何たることか。男鹿は目の前が真っ暗になった。
「お帰り」
「違うだろ!」
「それは貴様だ。ただいまと言うべきではないか」
「そーじゃねえわ!!」
「ではなんだ?」
 頭が痛くなってきた。ため息をつきながら座った。箱コンドームですか。その箱をえんがちょよろしく摘まむように二本指で持ち上げてヒルダを睨みつける。
「何だこりゃ」
「長介か」
「まじで言ってんだ…」
「見れば分かるだろう? 避妊しろ」
「あのなあ…」
「買ってきてやったのだ。大いに乳繰り合うがいい」
 やりとりがギャグみたいになってきた。そして最近のヒルダはといえばお笑いにも精通している。スカパーのせいだ。それすらも忌々しいほどだ。ムカついたので男鹿はわざといった。
「誘ってんのか?」
「……誰が誰を」
「お前だろ」
 いわれている意味が分からなく、ヒルダはしばし沈黙した。ぱちくり。ああ、牽制か。はたと気付いて笑う。似合わないことをするものだ、と。それは違うとだけ返す。苦い顔をした男鹿がどこかおかしかった。嫌でもないくせに。顔で文句を言って心で喜んでいる。近々使ってくれることを願うばかりだ。
 男鹿は内心頭を抱えていた。こんなもの用意され、応援され、確かに付き合ってもいるのだし、まあ、そういう気持ちもわかるし、日増しに強くなっている気もする。だが、どこでどうしろというのか。考えれば考えるほど頭が痛いのだった。テーブルにコンドームの箱が置いてあるなど親に見られたら堪らない。とりあえず自分の机の引き出しにしまうことにした。ヒルダがニヤリと笑った。してやったり。腹が立った。だが何もいえないし、できないのだった。



 遅刻ギリギリで男鹿と古市が登校してきた。そういう面では葵は真面目だ。元が生真面目なのだからしかたない。葵は男鹿のところに寄って行った。昨日いろいろとあったので気恥ずかしい。男鹿はどこまでも不器用で、色恋に慣れていない。返すのは言葉ですらなくて「おう」という軽くてぶっきらぼうな声だけだ。すぐに顔を背けた。そういう意味では葵は少しだけお姉さんだ。後ろで古市が男鹿に「バカ」と声をかけているのも聞こえたし。
 朝のホームルームが終わって男鹿が珍しくケータイの画面を見て固まっている。その表情は気になったが、とりあえず帰りに聞けばよいかと思い、すぐに葵からは聞きにいかなかった。別に口にしなくても二人で帰るのはデフォルトになっているようで、頼まずともどっちともなく合流するようになっていた。周りもそのペースに合わせてくれているような気もする。よく考えてみれば周りから応援されているのだ。喜ぶべきことだと思わなければ。葵がそんなことを考えていると、古市が浮かない顔の男鹿に近寄っていく。男鹿がほとんど口を開けずに話をしている。ケータイの画面を古市に見せて。男の子の友情っていいな、そんなことを思いながら葵は男鹿から名残惜しい気持ちで視線を外し、レッドテイルのみんなとの会話に戻った。

「こんなメールが来たんだよ……なあお前、ヒルダに何か言ったんだろ」
 古市が覗き込んだメール画面にはこうあった。
『From : ヒルダ
今日はきさまの家族は帰らない。温泉チケットを渡しておいたらとても喜んでいた。安心して邦枝を呼ぶがいい。わたしも今日はでかける。坊っちゃまのことは頼む
-----END-----』
 古市も口をあんぐりと開けている。これはやるしかないだろう、目がそう物語っていた。親指を握った人差し指と中指の間に挟めた、Hな意味を示すポーズを取って微笑した。その意味ぐらいはさすがの男鹿も瞬時に理解できた。気づいてしまうと恥ずかしくて堪らない。男鹿は机に突っ伏した。ベル坊は髪を引っ張って顔をあげさせようとするが、無視した。俺は疲れてるんだよ、と赤い顔を必死に隠した。古市が肩を震わせて笑っているのが伝わってくる。ちくしょう。たぶん耳赤いので丸分かりなのだろう。絶対に顔をあげないことに決めた。そのうち男鹿は本気で寝てしまった。気づいて顔をあげたら自分の腕が涎でベトベトになっていた。その腕にしがみつくようにベル坊が寝こけている。これでは完璧に親子である。背中におぶって顔をあげると、葵が見下ろしていた。お陰で目が合った。急に、まさかの葵である。
「もう二時間目、終わったわよ」
「ん、ああ…」
 わざとらしく時計を見ると、確かに10時半くらいになっている。勉強など興味ないのでどうでもいい。だから寝ていたのだし。時計を見ていても話が始まらない。こうしていても気まずくなるだけだ、切り出すしかない。
「邦枝」
「えっ?!」
「何だよ、デカイ声出して。何も言ってねえだろ」
「だ、だって………」
 名前を呼ばれるなどとは思わなかったのだ。葵は思わず大きな声を出してしまった。昨日のことを気にしているのはお互い様なのだ。あまり気にしないよう務めたつもりだったのだが。葵は自分から言い出したことなのだからと歩み寄ることにした。と思ったら、男鹿がケータイの画面を差し出してきた。特に言葉がないのでよくわからない。画面の先にはヒルダからの例のメールがあった。思わずまた声が洩れた。これはさっきとは違う驚きだ。ヒルダももしかしなくても、男鹿と葵とのことを応援してくれているのだと初めて知った。素直に嬉しくもあったし、それでも気恥ずかしくもあった。
「ね…これって……、今日、って…きょう?」
 心臓がバクバクとうるさかった。それは男鹿も葵も同じことで、黙ったまま男鹿が頷いた。確かにメールの日付は今日で、今朝のついさっきにきたメールのようだった。そして、そのヒルダは今日学校には来ていない。思わずヒルダの姿を探してしまったが、見てしまってもまともに声などかけられやしないだろうに。男鹿に返答をする前にチャイムが鳴る。それをよしとして二人は黙ったまま体の向きを変えた。どうせ帰りは一緒なのだし返答する時間ならいくらでもある。もう葵の答えなど決まっている。それを頭から追い出すために教科書を開いた。頭から男鹿と今日の帰りのことと、さっきのメールと、すべてがグルグルと回るみたいに重なって消えることはない。先生の言葉もまったく葵の耳に届かなかった。男鹿も似たような状態で、その日をただ耐え忍ぶように過ごしたのだった。



 今日の六時間はいつもに比べてとても長かった。しかも、目を合わせようともしない葵の様子に周りの仲間らは目敏く見つけ、なんだかんだと男鹿がどうとか話しかけてはくるし、男鹿の方はといえば内情を承知している古市が男鹿を休み時間のたびにからかうものだから、どちらも気持ちが疲弊してしまった。一日中ドキドキするだなんてことはそうそうない。
 掃除を終えた葵が教室に戻ったところ、男鹿の姿はなかった。カバンはいつも持っていない。手ぶらで学校に来ているから先に外に行ったのかもしれない。カレンダーを見た。今日は金曜日、明日は学校が休みの日。教室の中から校庭を見ると、子供を背負う男鹿の姿が見えた。校門に寄りかかってボンヤリとしているようだ。どこにいても見つけてしまう。探してしまう。葵は眩しい夕陽に目を細めた。なぜだろう、この物悲しいほどの夕陽にほだされたのか、葵は男鹿の名前を呼びたくて仕方なかった。どうしてこんな気持ちになるのか、自分自身でもよく分からなかった。ただ、早く彼の側に行きたいと願った。抑える必要なんてない。カバンを引っ掴んで教室から滑りだすように走っていく。校門で男鹿が待っていてくれることが、とても嬉しいと思った。

「お待たせ。ごめんね、掃除長引いちゃって」
「おう」
 男鹿は何もいわない。否定もしない。男鹿はケンカ以外にほとんど何も興味ないみたいなので葵はいつも不安だった。こうして付き合うようになってからも、男鹿はあまり変わらない。最近になって葵に触れたいということを態度で示してくれるけれど、それも嬉しくもあるが不安でもあった。だが、今日の男鹿の様子は自分とそう大差ない気持ちなのだろうと分かったから、分かれたから嬉しくて仕方なかった。ただ、うまく表すことができないのだ。男鹿も、葵も。どちらもそう変わらない。どちらも不器用なのだ、とても。恋とか好きとか、そういうことに慣れていなくて、ただ分からずに思っているだけの段階なのだ、まだ。
「コロッケ、買ってくけど」
 何日かに一度、放課後のコロッケの買い食い。これも定番になっていた。もう顔なじみの店のオバちゃんが慣れた手つきでコロッケを用意している。この人も二人が付き合っているのはとうに知っていた。いつもより心なしか量が多いように見えた。店を出てから葵は聞いた。コロッケの量がやはりいつもと違っていたからだ。
「や。今日、うちの家族いねえし……そのぶん」
 店のせいで、コロッケのせいで、学校の掃除のせいで、ベル坊の弱いイビキのせいで。何のせいでもいい、今日の話を思い出した。やっぱりこういう時は男の側からいうべきだ。男鹿は男だった。名前だけじゃなく。
「どうする? 夜」
 再び心臓が高鳴り始める。答えはとうに決まっているのに、すぐに答えるのは躊躇われた。男鹿は葵のことを側面から真っ直ぐに見つめていた。顔に熱が集まってくる。相手の顔を見返すことができない。恥ずかしいという思いが波のように襲ってくるのと、嬉しい気持ちとでぐちゃぐちゃになった。男鹿の顔を見ないままで葵は言葉を吐き出す。自分の顔はもう赤いだろう。気持ちなど、きっと見透かされている。分かっていても聞かずにはいられない。
「そのために、コロッケいっぱい買ったの?」
「…ん、それもある」
 男鹿はガサつくコロッケの入ったビニール袋に目をやる。男鹿も一度目をそらしてしまうと合わせづらいらしかった。わざとらしい咳払いが響く。どちらにしても歯がゆい瞬間だ。ハッキリしたことを聞きたくて、再び葵が聞いた。男鹿の気持ちは分かったつもりだったが、やはり言葉にして欲しいといつもいつも願ってしまうのだ。それをいえないのは嫌われたくないから。いつもそうやって引いてしまって、本当の気持ちを聞き逃してきた。今日はそれをできるチャンスなのだ。
「ねえ男鹿。男鹿は、どうしてほしいの、私に」
「…こいよ」
 アッサリだった。男鹿も、葵と同じくして緊張しながら決めていたのだ。今日の夜のことなど、互いにもう心に決まっていたのだ。ただ、口に出すのを躊躇っていただけのことで。
「着替えどうする? 着替えなら姉貴のやつ貸すけど」
「え、えええええっ?! だって、だって……美咲さんのっ! そそそそそそれはっ、そんなっ…ダメ、ダメダメだめよっっ! 私、わたし私は服取り戻る、戻りますっ」
「………そこで引くのかよ。俺からすりゃ、ただの姉貴だっつーの」
 たまに感じる、レッドテイルという結束の強さだ。一代目総長が男鹿の姉の美咲だということで崇められている。特に大森寧々や葵は崇拝していると言っても過言ではない。何をそんなに崇拝することがあるのか、確かに子供の時から男鹿もまったくかなわなかったし、男たるもの女を殴るのは言語道断という道を教え込んだのは美咲だ。お陰で女に手を上げることなどできない性質になってしまった。女などケンカの相手に選ぶ必要もないが、心根の腐った連中らを見るとそうでもなくて女を盾にするクズだって当たり前にあること。不良の世界はなかなか筋が通ってなどいないものなのだ。入ってみると嫌でもわかる。そんな中でレッドテイルや神崎組なんかは古臭い慣習を持った、だが、情には厚い団体なのである。それらは前からしっかりと受け継がれている。そんな初代の美咲の着替えを借りるなど恐れ多いと、何かにひれ伏して着替えを取りに戻ると言い張る葵に着いて、ノコノコ男鹿と背中のベル坊と、葵の三人で邦枝家に向かった。境内近くの枯葉を掃き掃除している見慣れた姿がそこにあった。そうだ、忘れていたわけではない。ここに強敵がいるではないか。男鹿は眉を寄せて厳しい表情でその人を見つめた。
「小僧。…葵」
「じーさん」
 止められるかもしれない。そもそも、そんなに付き合うことには賛成していなさそうであるし、しかもバッタリ会ってしまった。これでは嘘もいえないではないか。正直にいうしかないではないか。葵は本当に忘れていたらしい。浮かれすぎだ。顔色が悪くなっている。葵の前に、つと立ち塞がるように男鹿が出た。一刀斎が片眉を上げて男鹿を睨みつけるように見た。ピリピリとした雰囲気に葵は言葉が出なかった。
「じーさん。今日一日、邦枝のこと、借りっから」
 あまりにストレートな言葉だった。一刀斎も瞬時に言葉が出てこず、目を見開いたままだ。だから畳み掛ける。
「あんたがダメだっつっても、借りてく。ちゃんと返すから安心してくれりゃあいい。…頼む」
 強気に話していたと思ったら、深々と頭を下げた。下手に出たつもりだったようだ。それがまた意外でさらに一刀斎は言葉を失ったままだった。言葉はないままに困ったような不機嫌なような顔をして一刀斎は葵を見る。さらに男鹿はサッと顔を上げてから声をかけた。ない頭をフルに使った結果だ。男鹿はこうなるであろうことを、読んでいたのだ。むしろ、そればっかり気になっていたのだ。葵と違い、ただ浮かれるだけでなく冷静に考えたその上で。
「邦枝、必要なもん持ってこいよ。俺からじーさんに話しとく」
「分かったわ」
「葵っ」
 完璧に今のはファインプレーだった。うまく一刀斎をいなしてドタバタと葵は着替えなどを取りに部屋に逃げ帰る。葵に余計な口は聞かせない。厳しい一刀斎に口でも腕でも勝てた試しがないのだ。勝てぬ勝負をするには、今はあまりに利がなさすぎた。男鹿は一刀斎と二人きりになった。かなり嫌なシチュエーションだ。しかも、言いづらい話をしなければならない。もう一度頭を下げた。
「じーさん、まじで今日はお願いします…」
 一刀斎の眼光が鋭くなったので、男鹿の語尾はそれに合わせて弱くなった。目がつり上がっている。さすがにこの表情は初めて見た。親代わりとしてずっと葵を育ててきたのだ。態度としては当然だといえよう。しかも間が悪く家に入る前にバッタリ会うし。
「何を、じゃ?」
「俺ん家に、アイツを、泊める」
「わしの大事な、孫を、あ? 何じゃと?」
「じーさん、まじ頼む。俺たち付き合って結構経つんだよ。泊まるのくらい普通だって」
「な、何じゃと?! おい、貴様」
「アイツだって喜んでんだよ」
「いい加減なことばかりいうな貴様…」
 なぜか気づくと一刀斎に胸ぐらを掴まれていた。これはけっこうやばいことなんじゃないか、男鹿は焦っていた。うまく言いくるめるなんて、やっぱり最初から難しいことなのだ。しかも相手はこんな頑固ジジイだ。こんな日がいつかくるだろうことなど分かっているだろうに。反吐が出るほど面倒だと思った。思いきり強めの力で一刀斎の腕を振り払う。弱気に出る方がバカなのかもしれない。結婚どうのとかいう話というわけでもないのだ。昔の人のしきたりというか、すべてが面倒だ。もう男鹿にはできることなんて何もなかった。思ったことを口に出すしかない、そう感じた。
「いい加減なんかじゃねえ。マジメな気持ちで付き合ってんだ。じーさんが邪魔するなにもんでもねぇだろ。俺たちのことは俺たちで決める、ガキじゃあねぇんだ。……安心しろよ、邦枝のこと、大事にすっから」
 納得はしない様子だったが、もはや逃げるように二人で走り出して男鹿の家へ向かった。一刀斎は難しい顔をして追ってこなかった。もう孫は十代後半の歳になるのだ。親の手から離れたいと思うものなのかもしれない。親代わりとしてずっと生きてきたのだ。寂しい気持ちがしないはずもない。だが、あれだけ真剣な様子の孫とその男を見て、むげに止めるだけが祖父ができることなのか分からなかった。付き合っているのは知っていたのだし。だが、どうすべきなのかは分からなかった。近々、もっとゆっくりとまずは葵と話すべきなのかもしれないと思った。



 二人でコロッケを食べた。二人でベル坊と遊んだ。三人でテレビを見た。学校の話もした。ソファの上で手を握った。男鹿はゲームをし始めた。その間に邦枝が風呂に入ってきた。男鹿はベル坊と一緒に風呂に入りに行った。ゲームはつけっぱなしだ。男鹿の家には三人しかいない。まるで本当の親子の姿みたいだ。そんなことを思っては、葵は一人で照れる。
 男鹿が風呂から戻ってきてから小一時間、三人で遊んでベル坊を寝かしつける。いざ二人きりになると緊張するものだ。男鹿もいつもみたいに迫ってこないのが不思議だった。でも、なぜかは分かる。こんなふうにトントン拍子にいくことがなかったから、男鹿は警戒しているのだ。怖いのだ。その気持ちは葵にはよくわかった。信じられないのだ。今の状況がまるでドッキリみたいに思えてしまって。
「あのね…男鹿。今日の、あれ、…聞こえちゃった。うれしかった」
「何を?」
「おじいちゃんに」
 一刀斎との会話がどうやら聞かれていたらしい。慌てた様子で葵と逃げ去ったのでそんなにおかしな様子だとは思わなかったので、聞かれたなどと思わなかった。男鹿は何をいったかと思い出そうとした。うまく思い出せなかった。首を傾げたところで答えをいわれる。
「大事にする、って」
「……あ、ああ、そっか。んなこと、いったっけな…。なんか、じーさん相手で、必死で」
 それは本気だ。本気の思いはきっと届く。目の前の葵にも、それを心配する一刀斎にも。だから、
「邦枝…、大事にすっから」
 唇が触れ合う。やさしく唇で触れてくる。食む。風呂の匂いがする。髪が濡れてうなじや肩に張り付く髪が実に色っぽい。風呂のせいで上気した頬も、今は男鹿のためだけに存在しているのだと思えば、これを幸せと呼ばずして何と呼ぶというのだろう。これを大事にしないやつなどいるはずがないだろう。男鹿はそのままベッドの上に葵のことをやさしく押し倒した。


14.01.02

あけましておめでとうございます〜〜

なんと、「深海にて」からのスタートとなりました!

結構前から書いていたんですが、なかなか書けなくて今まで掛かった上に尻切れです。わざとじゃないです。文字数の問題がありますからね、、

男鹿は割とこの「深海にて」では人間くさいし、男だなあと思いますね
原作だとここまで人っぽさがないのでビミョーじゃないですか?
(今のところウケはいいっすけど…
まあ例の言葉もいわせようと思ってます。男鹿は少年から青年になった感じがしますよ。勝手に

このシリーズだと、一刀斎のみですよ。今のところ立ちはだかる敵みたいなのって
まあ、それだけで終わらせるつもりもないんだけどね……(意味深。


次、お泊まり編ですかー。
たぶん男鹿×葵の方々が待ちに待ってた感じになるかと思います
神崎×寧々とか神崎×パーみたいなちんたらしないよん。念のため
ではお待ちを。
2014/01/02 17:50:30