※ひめかわ夫妻


いいの、この世界はわたしたちだけのもの



「クリスマスって何でできたんだっけ」
「ああ、宗教関係だろ。日本の場合はそれにあやかって恋人云々って、うまく儲けましょうってな商売人がいたんだろうよ」
「牧師が死んだ日は?」
「それはバレンタインだろ。あ、思い出した、イエスキリストだわ。殺されたとか蘇ったとか」
「んーあーーそうか。」
 とりあえず年内最後のイベントごとなので食事だけは一緒にすることにした。ホテルには泊まらずに自室に帰る予定で。今年の冬も寒いが、たまたま二人ともが東京にいたのがクリスマスだったのだ。ホテルくらい予約すればいいのにと潮はいったが、よく考えてみれば家にいるほうが珍しいのだ。真新しい気分になれるに違いない。
 食事と何杯か飲んでから外に出た。吐く息が白くてマフラーを巻かないと寒い。めんどくせぇとグチる竜也に、進んでマフラーを巻いてやると嬉しさと恥じらいを滲ませた笑顔で小さくおう、とだけ答えた。素直な行動がとても苦手なところは子どものようだと潮はいつも思う。そういうところも含めて姫川竜也なのだ。竜也がタクシーを拾うのに視線を彷徨わせていたが、ふと上空へ顔を上げて動きを止めた。見上げた喉元に喉仏が浮かぶ。潮もその方向を見る。都心は明るすぎて星があまり見えない。今年なんてオリンピック開幕の準備といって、都知事がバスの24時間運行などを始めたものだから余計に眠らない街と化したろう。見上げた空には、それでも薄っすらと星が光る。知らなかった、と潮は呟く。都心でも星は、見えるのか。
「星って何万光年も前に死んでたりするんだってな。つうことは、光ってるアレも、とっくの昔に死んでるかもしれないんだろ? それで今俺たちがようやく見れてる。全っ然わけわかんねぇ」
「分からないが美しいと思えればそれでいいんじゃないか」
「美しいと思うか?」
「ああして輝く星は、いつも美しいと思うが」
「ハハ。なら、買ってやろうか? 星ごと」
 まぬけな会話だ。届かない星を買うことなどできはしないことも、金の話などに心など動かさないことも知っていて尚。だが、潮はそんな竜也のことを揶揄したりしない。真っ直ぐに見つめ返す。その視線の先に竜也がいるからだ。他の理由は必要ない。
「そうだな。星を買って、宇宙船を買って、そこに家を建ててもいい。子どもも連れて一緒にいこうか。私たちの星だ」
 潮が自分の腹を撫でた。竜也がたじろぐ。まさか。いや、嫌だというわけではないのだが、結婚もしているのだし、周りも早く子どもがどうたらというけれど、それでもやはり男は身構えてしまうもので。まじで?と絞り出した声は僅かに震えていて、己の動揺をあまりに分かりやすく物語っていたのが、とても情けないと思った。潮は照れ臭そうにはにかむ。竜也はどうすればよいか分からず、ただそこで佇んだまま声を出した。
「そ、そうか…。そうなのか…!」
 それでも嬉しいという気持ちが沸き起こらなかった。そんなことをバカ正直に口にしてしまっては、潮は間違いなく憤慨するであろう。そんなことを考えながら、ぽろりと出してしまった言葉。出してしまってから、はっとして息を飲む。
「おかしいよな…。俺、身に覚えがねえんだけど」



「…なんだ、ばれたか」



 案外、女というものは冷静なのだ。
 タクシーの中で竜也は文句を垂れた。潮はつまらなさそうにしていた。竜也の気持ちを測ったのだ。だが、竜也はやはり子どものこととなるといい顔はしなかった。これでは難しいのではないか。理由を聞きたいといった。
「俺の遺伝情報がガキにいくわけだろ、嫌なんだよ。俺の遺伝子なんか広げなくていい」
 これだけ恵まれていて、世界から必要とされている男がこんな悲しいことをいうのはなぜなのだろうか。人の気持ちなどどうにも動かせないことを今更ながら潮は悔やむ。
「こんな、リーゼントの似合わねえツラの遺伝子なんかいらねぇ」
 結構な理由だ。悔やんで損した。当人はかなり気にしているらしいが、整形しないのは有名になりすぎたせいか。
「私ならお前の顔を、あんな星よりも大事にするがな」
「頭沸いてんぞ」
 とりあえず、心配の種はないので子作りについて口説こうか。夜はまだ長いのだ。潮は再び頭を巡らせ始めたのだった。


13.12.29

30分くらいでチャラチャラ〜っと書いた文
思いついたときに書けなかったので、元ネタとは変わってると思われます。でも元ネタを忘れたのだからしかたない…(そして思い出せず。
もう少し和気あいあいとした話だったはずなのに、久我山のせいでぶち壊しに…!
でも、なんとなくちょっとロマンチックな姫川にほわっとしましたよ。私的に


タイトルはそろそろ探すのが面倒になってきました。どうしようかなぁ…
タイトル:つぶやくリッタのくちびるを、<
2013/12/29 21:18:01