清濁のハイブリドーマ




 ヒルダは思う。男鹿の力は日増しに上がっていると。理由はあまりに人間的でありすぎるがため、魔王の親に相応しいかどうかはまた別として、暗黒武闘なるものを見事に使いこなし、紋章術のノウハウをそれと合わせた男鹿にしかできない力。それが痛みや苦しみを我慢したり、仲間がどうのという怒りのパワーであったりするのはあまりに悪魔的ではないのだが、その成長には目を見張るものがある。早乙女もそう言っているし、斑鳩も驚いていた。もちろんヒルダも例外ではない。人間でも悪魔でも魔王でもない、それらの全てを併せ持った今までにないなにかが男鹿にはあった。それに引き換え、自分はただの侍女悪魔であり、姉妹のヨルダよりは能力は高いものの師団レベルになれば足止め程度にしかならない。男鹿を見ているとそれでは足りないと思うのに、どうしようもない。男鹿らと一緒にいれば魔王を狙う輩が当然現れるので、それとやり合う回数は増えている。だが、最終的には自分はあくまでも足を引っ張っているような気がしてならない。邦枝もかつてはそれを思っていたようだったが、今の邦枝は確かに力をつけていて、男鹿ほどまでとは言わないが、一緒に成長しているように見受けられる。下級悪魔のコマとかいうものを自分の力で従えているのだ。おおよそ人間が好んでやることとは思えない。むしろ、邦枝のような堅物の人間なら尚更。それを望んだのは勿論男鹿の存在によるところであるのは明白で、邦枝はもう当人も認めたらしく男鹿のようなドブ男に惚れ込んでいる。この辺り人間の思考というものは興味深くもあるが、たまに物申す筋の通った話しぶりにはヒルダもほお、と舌を巻く時があるので、全く分からないわけでもない。悪魔に筋も何もあったものではないが。
 他に気になっているのは、魔王ベルぜバブ4世こと坊っちゃまの成長についてである。男鹿の成長を受け、刻々と成長しているわけだが、それに対応している辺りでも男鹿の成長は著しいことが伺える。そして、坊っちゃまの言語以外の成長には目を見張るものがある。人間界に来てからというもの、本当に成長が早い。素晴らしいことだとヒルダは思う。願ってもない親を選んだのだと言えよう。無論、腑に落ちない部分もあるがそこは嫉妬の念も含まれているため、情けないので割愛する。
 上記を踏まえて考えると、男鹿、邦枝、坊っちゃまがそれぞれに急成長を続けており、まるで親子関係かのような認識すら覚えるもので、それについてはあまりよい感情はない。成長するのはありがたいことではあるのだが、悪魔的ではないことと、自分がそこから抜け落ちているかのような感があることは、ヒルダにとってはあまり気持ちの良いものではないのだった。口にするには何という感情と呼ぶべきか分からず、何も言えないのであるが。
 だが、今さら何をどうして魔力を上げろというのか。ヒルダは人知れず、もちろん悪魔も知らないところでぼんやりと薄く悩んだ。修行などと男鹿たちは言うが、そんなものはとっくの昔に終えている。そして侍女悪魔としての力の限界など分かり切っているのだ。生まれ落ちた時から決まっていると言っても過言ではない。成長などしたくてもきっと自分ではできないだろう。努力など馬鹿げている。胸の奥が寒いような、そんな感覚に陥る。悪魔というが、進化という意味では交配しかないものたちは、もしかしたら人間より劣っているのかもしれない。誰かのために力を高めていける、人間という不器用なはずなのに、なぜか器用な存在。それに憧れのような気持ちを持ってしまうことに対し、ヒルダ自身不思議で堪らなかった。
「そう、か。私も、成長したいのだな……」
 そんな下らない思いをたまたま口にした。しんと静まり返った部屋の中を満たす音が一つ、がたん。ん、とヒルダは音の方へと体ごと振り返った。ちょうど男鹿が帰宅したところだった。目が合う。
「ただいま」
 男鹿がいう。ヒルダに帰宅の挨拶をする。背中には坊っちゃまがいて、この家には三人がいる。邦枝はおらず、いつもの何ら代わり映えのしない日常の風景。それなのに今日は、眩しいようなそんな気分だ。気づいてしまったからだろうか。ヒルダの心の変化に、自分自身の気持ちの揺らぎに、その動きに。今までと何かが違うと感じる。それが何かは言葉にならないが、やはり違うのだ。
「おい貴様」
「……随分なご挨拶じゃねーか」
 急に、お帰りの前に貴様呼ばわりだ。当然男鹿とてそう感じるのは自然のことと言えよう。だが、実際のところ男鹿もヒルダも気にしているものでもない。売り言葉に買い言葉といった感じに近い。
 あんまりヒルダが静かに、そしてやさしく笑うので何があったのだろうと男鹿は訝しく思う。顔を覗き込む。うららかな陽の光の中、男鹿家の茶の間には悪魔なのに天使みたいに微笑むヒルダの姿があった。
「たつみ。私も、お前たちのように、共に成長したいものだ…」
 男鹿には言葉が出なかった。それは、ヒルダが寂しげに、だがやさしく微笑む意味が分からなかったからだ。


ハイブリドーマ…複数の細胞からなる融合細胞のこと。

13.11.26
男鹿ヒルっぽいテイストの話です。
おもしろも山もなくてすいまっせん!


あー初めてじゃん!!
新しい世界に足を踏み入れてうれしい!つうかべるぜ書きはじめてもう2年過ぎますけどそんなことを言っている…という。
遅ぇ!!

や、ヒルダはヒロインだなんて思ったことなくて。ヒーローだと思ってたのでw。
まぁ近頃はヒロインぶりは上がりましたよねwww


悪魔の話は嘘っぱち大将です
そもそも田村さんもほとんど設定練ってないでしょアレw

悪魔の話→生まれ落ちたときから魔力や強さは決まっている
努力しても強くならない
進化は交配のみ

まあこの辺りですね。最後のはエロい意味で、でしょうね……思いつきだけど。
や、自分のイメージとして、師団連中は元から強そうだし、努力しそうな悪魔がいないので決まってるのかな〜と
あと、魔力注入で強くなるケースもありますね。
そんなイメージなので、努力はあんまり関係ないのかなっと思ったのでした。

ヒルダは少年マンガ的なヒロイン=主人公と一緒にバトって成長していく
というのがべるスレにあってやたら納得したせいでこの話を書きました。

でも、悲しいかな成長はしたくてもできないんだよってちょっと切ない感じになりました。まあこの文章じゃあ切なくもなんともないけど。
ヒルダはキャラ的には面白いのですが、文にするとあまり感情の起伏がないので難しくて出しづらいんですよね…。そういう感じで出ないんです。もうちょっと絡ませていきたいなぁ。
あの記憶喪失のひるだちゃんw 可愛かったしエロかったからね!

タイトル=maybe
2013/11/26 12:54:13