いい夫婦の日1122
カズアズ
ぐだぐだLOVE



 結婚してからまだ3年目だ。高校の時から付き合っていて、小学校の時から一緒だった。離れるなんて考えられなくて、気づいたら好きだと告げていた。そんな甘酸っぱい思い出がむず痒い。けれどとても幸せだ。彼はそんなことを思いながら静かに笑った。
「ね〜ぇカズくん? なに笑ってるの?」
 和也はそんな梓の間延びしたやさしい声色に目を向けた。いつものように梓は笑っている。

 昨日、梓から急にデートのおさそいがあった。デート?夫婦なのに?と思ったが、そういうところが可愛らしい。理由を聞いてみたら、なんとも微笑ましいものだった。
「ねえカズくん、知ってる〜? 明日ね、いい夫婦の日なんだって。11月22日」
「聞いたことある」
「シフト、休みでしょ? どっかいこ」
 それで、今日は二人で久しぶりのデートへと洒落込んでいるわけである。

 不思議そうに顔を覗き込んできた梓と目が合う。こういうことは珍しいので少し照れくさくて、二人で堪らず笑った。答えなどいわなくてもこれで分かっただろう。むず痒いような幸せな気持ちは、とても照れくさいものなのだということを。お陰で、つないでいた手も離してしまった。
「なんかいいよな、こういうの」
 思いは一部しか言葉にならなかったけど、伝わっただろうと思う。秋晴れの青空の中で、安いランチの後で、さもない近所の公園を歩く。そんなことがたのしい。

 思い出してみれば、高校の時にこんなデートをしていた。むしろ、あの時は好きだという思いはあったものの、まだ付き合うとかそういう段階でもなかった。あの時、和也はまだ髪を金髪にする前だった。聖石矢魔の一真面な生徒として和也と梓は目立たずに存在していた。ひっそりと。二人とも目立たない生徒ではあったが、それ以上に和也は目立たなかった。だから梓は周りの友達連中から「なにアイツ〜、知ってんの?」などといわれてるのは聞こえていたけれど、聞いてないふりをした。だが、態度に出ていたのだろう。時に梓は「ごめんね」と前触れもなく謝ってきた。意味が分からずポカンとしていたら「悪気ないの。ただ、カズくんのこと知らないだけ。やな思いさせて、ごめんね」と言い直した。それを聞いてから本当に抱き締めたくて仕方なくなった。そんな切ない話をしていたのは、晴れた空の下で、枯葉が足下でカサカサ鳴っていた。秋の寂しさといおとしさと切なさが一緒にやってきたみたいだった。だが、その時の散歩はたのしくはなかった。ただ、好きだと思うばかりで、それを伝えられない自分が、とても情けなくていいたくて、やるせなかったのだった。

「あったかくなってよかったね、カズくん、寒がりだから」
「…まーな」
 梓と和也とは小学校からの付き合いだ。近所の子と同じクラスになった、ただそれだけのこと。だが、同じクラスで同じように目立たない生徒である二人は一緒に帰ろうとしなくても、帰りが一緒になることがたまたま多かった。だから顔と名前がすぐ一致するようになった。昔から可愛い顔をしている梓と、冴えない和也は特に仲がよいわけでもなかった。でも、知っているだけにお互いに気にしあっている部分はあったと思う。中学も二年間は同じクラスだったし、部活は口裏を合わせたわけでもないのにとりあえず入った美術部という、名ばかりの部活にいた。部活に行くと帰る時間が一緒になるし、合わせなくても同じ道で帰ることになるのだった。
 その時はまだ好きとかそんなつもりはなかった。それは和也だけのことで、本当は梓はずっと和也のことを見ていた。だから梓の方が和也のことを長く見てきたし、よく知っている。中学の時に、梓はバレンタインチョコをあげるのが恥ずかしくて、ふつうの女の子ならもっともっと恥ずかしいと思うのに、そっちの方が恥ずかしくないと思って手編みのマフラーをプレゼントした。本当はバレンタインに渡すはずじゃなかった。でも、クリスマスには間に合わなかったという事情があったのだが、それはさすがに和也には言っていない。そんなことを思い出した梓は、和也の隣に小走りで追いついて声をかけた。
「ねえ、カズくん。まだ、あのマフラー巻いてくれてるよね。うれしい」
「え、なんだよ急に」
 またむず痒さが増した。思い出す。流れる時を、二人で分かち合う。一緒の時が多かったから思い出を共有している。二人であのマフラーのことを思う。
「今年も巻くの〜?」
「…そりゃ、な。他に、持ってねえもん」
 恥ずかしくてうれしいのに、和也は一生懸命に照れを隠している。そういうところは何年経っても変わらないのだ。男らしく、とかかっこ良く、なんて結婚してまでもそんなことを思っているのだ。昔から変わらないそんなところも梓は大好きだと思った。
「もう毛糸も痩せてきてるし、あったかくないよ。捨てなよぉ」
 納得しないところは返事をしない。和也のくせだった。わざと返事をしないでむすっとする。子供みたいだと思う。そんな話を梓は前に和也の母親として笑っている。男の人はやっぱり女よりも子供なのだ。そんなことで笑われたことを和也は知らない。彼女たちは和也の考えなど知っているのだ。返事をしない理由は、Noをいうのが怖いから言えないのだ。へんなところで気弱な和也のことを支えるのは、梓の強さなのだ。許す強さ、待つ強さ、守る強さ。嫌といえない和也のために。
「だいじょぶだよ、カズくん。私、これから作るから。マフラー」
 梓に促されるがまま、公園の中にある枯葉だらけのベンチに二人で隣り合って座った。梓が座ってから遅れて座ろうとする和也は、手で枯葉を退かした。そしてからそこを指す。梓は気にせずベンチにもう腰掛けているというのに、梓にはない細やかな気配りができる。梓はにこっと微笑んで座り直した。
「ありがとう」
 そして梓が座っていた枯葉だらけのベンチをさらに払ってから、和也はそこに腰を下ろした。ベンチの上で手と手を重ねた。こんなことをしたのは結婚してからは初めてだったかもしれない。互いの手が温い。そんな当たり前のことが、どこかうれしかった。
「今度は、クリスマスに間に合うように、がんばるね」
「うん、分かった。楽しみにしてる」
 公園の中を母親と子供がはしゃぎながら遊んでいる。さんさんと暖かな空気の中、たのしそうに彼らは遊んでいる。ブランコに乗る子供と、漕ぎすぎに注意するようにいう母親。とても微笑ましい光景だと思った。
「私たち、いいふうふ、かな?」
「……悪くないと思うけど」
「カズくんがやさしいからだよ」
「……なんだよ」
 もしかしたらあの親子に父親はいないのかもしれない。離婚なんてあまりにありふれていて当たり前すぎるから、今時そんなことに痛みなど感じないのかもしれない。いい夫婦の日。語呂合わせを信じたくなるほど、ゆったりと時が過ぎる。子供の姿が見えなくなってから周りの様子を目だけ動かして和也は見て、誰もいないのを確かめてから梓をかるく抱き寄せた。額とくちびるに触れるだけのやさしいキスを落とした。梓がはにかんだ。うれしくて堪らないといったふうに。
「へへ、帰ろっか」
 手をつないだまま、二人で仲良く帰った。ソファに腰かけると、和也の隣に梓が座った。まだお腹も減ってないしどうしようか、と梓がいったので、和也はあの親子を見た時から思っていたことを口にした。
「梓。久々に、しよう?」
 カッコつけで弱虫のくせに、性欲には敵わない。男はやっぱりどこまでも男なのだ。その多大なる包容力で梓は抱きついてくる和也の背中に両腕を回した。


13.11.24

いい夫婦の日ネタ、書きたかったんだけど日に10時間稼いでるとちょっと難しくて、昨日からチャラチャラーッと書いてました。なんか書きたいこともないのでヒドイ出来かもしんないけど、久々のカズアズです。
ただイチャイチャまでいかないくらいの日を過ごせばいいだろう、と

いい夫婦に一番なりそうな二人なので、つい。
まあアニメのラブラブっぷりは見てないんですけどね、や、そのうち見ようかとは思ってるんですけどね、なかなかね、、、

プロポーズの言葉をかけなかったのが心残りです。
つうか考えてないんだけどさ。
そのうちカズアズのプロポーズネタ書きたいっす

2013/11/24 15:42:23