赤の大海






「最近、満足してるの?」
 そう聞いた細目・細身の男の顔に貼りついているのは、何の表情も示さない、そんなものだった。
「俺はいやだ……俺は、いやだ」
 そう答えるので、彼はその問いに答えるのが精一杯だった。巨大な身体は、ちいさく揺れていた。
「そんなに嫌なら、殺しちゃえばいいのに。何のための、力なんだい」
 彼は、相手の残酷な笑顔にすら気付かない。



 その数日後のことだった。
 落ち着いた表情で、呂布のもちものの将である、細目・細身の男・張遼が、巨大な身体の持ち主・呂布の前に現れてニッとその顔を崩し、微笑んでみせた。
「そうか、フッくん。やっと、終わらせたんだね」
『フッくん』は、張遼が呂布につけた愛称。仲の良い二人は、「遼」「フックン」と呼び合うほどの仲だ。微笑ましいのか、何なのか、彼等の「闘いの鬼」とも呼ばれるべきその強さを目にした者は、微笑ましいとは思えず、ただただ薄気味悪いだけのものにしか聞こえない、恐怖心を煽り立てる、そんな愛称だろう。
 呂布はその巨大な身体を持て余したようにその場に立ち突くし、夥しい鮮血に身を染め、ボーっとしたような表情を張遼に向けていた。
「とりあえず、その汚い血を拭こうか」
 張遼が冷静に、呂布の着ていた服を脱がせはじめると、それに倣って呂布は何もいわずにただその身を張遼に任せて着替えさせてもらっていた。
 彼が望まぬとも、誰かから浴びた血は、洗い流される。


 悪行の限りを尽くした、と言われていた董卓が、その義理の息子である呂布に殺された、という、忠誠の欠片もないニュースが巷を駆け巡っている最中。
 呂布と、その友達や、董卓を選ばずに呂布を選んだ者たちが、次々にその場から離れようと身支度をしていた。もう、彼等はここにいる必要などないのだ。もう、董卓という呪縛から逃れ、その身は自由になったのだ。
 彼等は確かに忠誠の欠片もない、ヒトとしての道から外れた行動をしているように思われがちであるが、それ以上に董卓、その人物の人道ならざる非道振りは、極悪この上なく、彼等は思った以上に周りから「最低」のレッテルを貼られることなく、その地を後にすることができた。
 その、董卓軍を後にする時に見せた呂布の笑顔は、清々した、といわんばかりの清々しい、希望に満ちた笑顔だった。その傍らには、張遼、そして、呂布の恋人・貂蝉が寄り添いながら、これからの長いであろう道を共にするために陣取っている。
 董卓は、義理の息子・呂布によって殺された。そのことを、呂布の傍らに陣取るふたりはしっている。そして、呂布と董卓との間に、いったい何があったのかも。すべて。それをしりながら、ふたりは呂布に付き従い、寄り添う。


 生前、董卓は下卑た笑みを浮かべながらよく呂布のことを、自慢の息子であるいいふらしていた。
「呂布はのぅ、儂の手となり足となり、儂を天下に導く強い、儂の自慢の息子じゃ!」
 そして少し離れた場所で酒を飲む呂布に向かって声をかける。
「のう、奉先。お前は本当に強いのぅ」
 不自然にも、董卓は呂布本人に呼びかける際には、字で彼のことを呼ぶ。むろん、義父としては当然であろうが。
 ニヤつく董卓の表情は、誰の目から見てもセクハラとしか形容できず、おぞましい身震いもの。
 そんな下卑た笑みを浮かべていたのも、当然のこと。



「おっ、おぉぅ、…ほ、奉先よ。んむぅ…、今日も、元気だのぅ」
 呂布の上にのしかかって身体全体を揺らす義父。その息も途切れ途切れに出す声は、低い喘ぎ。その目は興奮のためにギラギラと輝いて濡れ光る。
 会話が途切れると、辺りを満たすのはふたりの浅く、荒い呼吸と、興奮と快楽を誘う源から耳に届く、卑猥なる水音。どちらかが、微かにでも動くたびに擦れ合う快楽の園。
 お互いがその肉体の悦びのために、しらずのうちに顔を歪めているのが、どちらから見ても、相手の側しか分からない。それが「つまらん」といって、董卓は時に大きな鏡を部下にいって用意させたこともある。
 その時、鏡に映った自分たちの姿を見た董卓は、悦に入った表情でニンマリ笑みながら、問いかけるようにいう。
「入ってるところ見て、興奮したか? また、お前のイチモツ、また大きくなったぞ…」
 口を開いた拍子に、董卓の力の抜けきった口許から涎が垂れた。
 キタナイ。
 キモチワルイ。
 思ったが、それと同時にひどく、呂布は興奮した。本人も、何故だか分からなかった。
 呂布は、絶対に自ら動こうとしなかった。それだけが、彼なりの必死の抵抗。戦場ともなれば、鬼とも言われるほどの実力を出し、人という人を斬り続けてきた漢であるのに、どうしてか、こういった場面にのみ、絶対に董卓に敵わない。
 精神は拒否しても、身体がそれを拒否していない。



 最初は、酒が入って眠っている時に、心地好い眠りからの覚めで気付いた。
 下半身が痺れるような心地好さが伝ってくる。それに身を任せながらうとうとと夢と現を行き来しているうちに、本当に下から熱くなる感覚がじんわりと脳まで伝ってきた。
 まだきちんと起きて機能していない頭は、その独特の『気持ちよさ』さえも伝えるのが遅れている。
「……ぅ、な、なんだ…?」
 呂布がやっと様子がおかしいと気付いて、上体を少しだけ起こし、自分の身に目を向ける。自分のしらないうちに、自分の身に何かが起こっている、という状況は、思っている以上に心配であり、不安である。自分のことをいちばんしっているのは自分である、と誰もが、無意識のうちにそう、思い込んでいるからだ。
 その視線の先には、董卓がニマニマといやらしく笑いながら呂布を弄ぶ姿があった。
「…何じゃ。本気で寝ていたのか。てっきり狸寝入りかと思っておったわ」
 と意外そうにきょとんとしたような、気の抜けた表情を呂布に向けた。
 そんな反応が返ってくるとは思ってもみなかったので、呂布は思わず言葉を飲み込んでしまった。その目にはきっと、不穏の色が浮かんでいたことだろう。
「まぁ、ちょうどよかったようだの」
 董卓がその呂布の上に乗ってきたのは、それが初めてだった。
 けれど、それからというもの、ちょくちょくやってくるようになり、そして最近では、毎晩というほどに呂布の元に、董卓は訪れるようにまでなった。
 董卓の中に圧迫されると、とろけるような快楽の海に沈みそうになり、もがけばもがくほど深みに連れて行かれる。
 董卓は決して離しはしない。
 あのおぞましい薄汚さ浮き出た外見とは裏腹に、董卓の中に包まれると、やさしげな心地好さが体中を満たす様が、逆に恐ろしかった。
 しかも、その恐ろしさは、ずっと消えないのだ。
 けれどもそのまま身を任せていると、驚くほど早いうちに、精神までも最上の昂みに連れ去られてしまうのだ。
 果てる瞬間、自我など誰もが保てない。鬼人であろうと。

『鬼』を喰らう、『魔』。

 その夜、戦場の鬼は、その望まない快楽に負けた悔しさに、人知れず涙した。
 相手が、相手が悪すぎる。
 義理の父、ということだから、ではない。
 いずれ「殺そう」。
 そう、決めていた相手だから、だ。
 理由など、説明するまでもないほどに、董卓の横暴振りは人という人すべてに、拭うことのできない不信感を与えている。
 生命あるだけで害。そんな有害な存在も、ある。



 そんな夜が、当たり前になっていた日のこと。
 また、董卓がご機嫌な、愛嬌ある笑顔を振りまいて、呂布の元に現れる。
「おぉ〜、奉先よ。久し振りじゃったの。会いたかったぞぉ〜」
 ガバと抱き着くように近付き、その身にまとっているものを剥ぎ取らんと細やかに動く。
「…っよせ」
 身長の高い呂布は、身をよじりながら腕を上げて拒否の姿勢を見せるも、その行動そのものは、明らかに甘い動きだ。彼ほどの力ならば当然、どんなことをしてでも、董卓の行為をやめさせることなど容易なはず。

 呂布は、嫌がっては、いない。
 確信犯・董卓。彼はその軽い拒否に思わず、にやりとする。

 その夜は、ふたりで過ごすのは十日ぶりほどの夜だった。そのせいで、董卓の求め方も今までのそれより、執拗だったかもしれない。
 董卓が呂布に跨って、腰を使いながら指でよく鍛えられた筋肉の筋をやさしく、卑猥に、その贅沢な暮らしぶりからついたであろう、贅肉でたるみきった、細やかで汚らしい毛に覆われた太い腕を使ってなぞり、要所要所に下や唇を降らせれば、顔に生い茂ったもじゃもじゃという髭がその肌を撫でる。そうしながら、愉しげに微笑んでいる様を、見ないようにしながらただ、呂布は耐える。
 何に耐えているのか。それは、本人にも分からない。
 身体と、こころが、バラバラになった、そんな状態では。何も。

 嫌だと思いながら、身を任せる。
 頭の中の、どこか奥底では、自分自身で動きたい、と焦れる部分もあり、こころがそれを押し留め続ける。こんな豚の、思うとおりに動くことを、こころは拒絶する。
 しかしその無条件に送られ続ける、否定する脳内すら侵食する快楽に、思わず唇を噛み締め、拳を握り締め流れのまま目を細める。足の指先にまで力がこもってしまう。恍惚の時だ。

 その時、細めた目線の先に、貂蝉が映る。
 ふっ、と目線がぶつかった、気がした。
 少しだけ、開いていたのか、それとも貂蝉が何かあって開けたのか、判別などつかないが、そんな扉の隙間から、貂蝉がふたりの転がりながら繋がる様を、眼に映した。
 貂蝉の、その眼は、何も映していない、ただの硝子細工のように、思えた。


 その瞬間、ほんの数秒。
 それが、永遠にも思われるほどに長く、永久の拷問のように感ぜられた。





 時が流れ始めたのは、貂蝉がすぐに姿を消したからだ。その美しい絹をたなびかせながら、彼女はその場から、何も映さない眼をすぐに逸らし、消えた。
 どん底の闇の中、呂布は眼をカッと見開いたまま、身を固くしていた。
 その間じゅうずっと董卓は、腰の動きを早めながら呂布にしがみつき、猛獣のような呻き声を、呂布の耳元で洩らし続けていた。
 その董卓が、息を弾ませながら上体を起こした。呂布を見下ろす目は、とろんとどこか遠いところを見ているようで、それもまた気味が悪い。
「なんだ、驚いたぞ。急にイッてしまいおって」
 この時も、力の抜けた口からは、汚らしくだらんと粘度の高い涎が糸を引いた。
「だが、さすがに日を空けたからのぅ、イッパイ出したのぉ」
 董卓は、満足そうにいい、自分の身体を傾けながら起こし、自分の身体に付いた精液を指で軽く拭うと、その指先を見せつけるように前に差し出し、
「飲みきらんで溢れおったなぁ…」
 と、熱のこもった声で、まだ果てた余韻に浸ったように力なく、しかし張りのある声で、目を細めながら笑み、それを大雑把に口にした。
「ほんとうに、儂らは身体の相性が合うようじゃのぅ」
 口から糸を引き、吐き出されるようにまた現れ出でた指先の、先程までの白く淫靡に光る様は、嘘のように拭われて、董卓の唾液で汚らしくテラテラと光っている。その指先を見ながら、董卓はニヤニヤと笑った。
「……して、何を泣く?」
 董卓には、呂布が表情なく、ただ涙を流す意味が理解できなかった。
 その夜じゅう、彼の悲しみと悔しさの入り混じった、感情の波は治まることがなかった。


 呂布は貂蝉を想いながらも、何故か、前に張遼から聞いた言葉を思い出していた。
「最近、満足してるの?」
「そんなに嫌なら、殺しちゃえばいいのに」
 目先に浮かぶ快楽に溺れ、前に考えていたことを忘れていた、と思った。

 そして、気付く。
 董卓に毒された日々は、これ以上なく、脳を甘く痺れされた。
 董卓が感じ喘ぐ姿は、誰も見たくもないほどにおぞましいものだったけれど、それ以上に彼の中に広がる気持ちよさが、そのこころすらも打ちのめして、その心地好い律動に身を任せ続けた。
 つまり、自身の、精神の弱さである、と。
 断ち切らなければ、ここで。そうしなければ、もっともっと今以上に、深みにはまり込み、きっと抜け出せない。はまり込んだら、泥沼。底は見えないのに、それでも足を引かれる、その様が脳裏にまじまじと浮かぶ。


 しかし呂布は、それでも、決心がつかなかった。
 次の日の朝っぱらから、頭を抱えて、無言のまま佇む様子は、誰の目にもおかしい。
「どうしたのフッくん、お腹でも痛いのかい?」
「……遼」
 いつになく、真剣な声色。張遼が思わず意外そうに眉を上げた。しかし、その様子を、呂布の目が捉えることはない。彼の目は別の遠い場所を見つめているようだ。
 しかし急に、その何も映さない瞳が張遼を映しだす。
 それと同時に呂布が、目の前の細身の男に抱き着くようにしがみつく。名を呼ぶ声は、さまざまな感情が入り交じっているようで、熱っぽい響きを持っている。
 そんなふうに縋りつく呂布の身体に手を添え、頭をやさしく撫でてやりながら、張遼は問いかけるようにいう。
「フッくん、何があったんだい?」
 呂布の手に込められた力が、少しだけ、強くなった。
「あの、豚を、殺す…。俺は」
 その言葉には、真剣な気持ちが込められている。そんなこともお構いなしに、張遼は鼻を鳴らす。
「フッくん、君の身体から、董卓殿の、香水のような匂いがする」
 その言葉を聞くや否や、バッと張遼から身体を離し、目の前にいる相手の顔をまじまじと見る。張遼に触れている手が、小さくカタカタと震えていた。
「ほ、本当か」
「本当さ。最近はその匂いがする。染み付いているのかい?」
「…っや、やめろぉっ、あんな豚の臭みなぞ……」
 決して悪い匂いではない。ただ、『董卓だから』似合わないから、気持ち悪いような、そんな気がするだけであって、ドギツイ香水のあの「クサっ」としか思わないような、そんな臭いではない。意外にも、彼の愛用している匂いは、万人にウケそうな、ほのかな、和らぐような香りだ。
「聞かせてよ。友だちじゃないか、私たち」
 張遼が、呂布の口から事のあらましを聞いたのは、それが最初だった。
 しかし、当然この張遼の口振りからでも容易に想像がつくように、もうすでにしっていることで、そのことに呂布が気付いていなかった、というだけのこと。
 戦場で強すぎる男は、頭のほうはめっきりダメで、単純な出来事にすら気付けない、仏の手の上で踊るサルと、何ら変わりがない。しっている上で眺めるその揺らぐ姿は、戦場で鬼のように血を浴びる姿とは別人のように、情けなく弱々しく、そして何より、その目には滑稽に映る。そんな姿を見ることができるのも、信頼しあった者同士の特権。彼らの友情は、とても微笑ましく、美しい。


「…そうだったのか、それは、辛かったろう。だったら、やっぱりフッくんがいうように、殺しちゃうしかないよ。そうすれば、フッくんの大好きな貂蝉ちゃんも、きっと許してくれるよ。もう、メチャクチャにしてやればいいんだ。だって、董卓殿は悪い奴なんだから」
 その、何とも『おふざけ』にしか聞こえないような幼稚な言葉に、呂布は深く感銘を受け慰められ、これまでの快楽の海に別れを告げる決心を決めた。
 それほどまでに、彼の中で「張遼」と「貂蝉」の存在は、大きい。


 董卓は、また呂布を夜這いに来た。
 最近は何をしているのやら、どうやら忙しかったらしく、呂布の決意が固まってから、数日後という、一時期のクルーに比べ、だいぶゆったりとした期間を経て現れた。
「おぉ〜、会いたかったぞ。奉先ん〜」
 相変わらず、反吐が出そうな、腐った笑顔を振りまく。しかし、今日の気分はゆったりとしたものだった。こんな奴の誘いになど、俺は乗らんと意気を上げていたからだ。

 しかし、それは少々、甘かったようだ。
 つかつかと近寄ってきて、鼻息荒く話しかけられているうちに、いつの間にやら、と思う間もないほどにさりげなく、董卓はその無駄な毛に彩られた手を呂布の興奮を煽る場所に華の芽を散らし、気がついた頃にはもう、昂ぶった気分に心地好く息が上がっている、という状況。
 こいつは、こんななりでなければ、生まれながらに男娼だったのではないか。
 そう思うほどに、導く手立てが巧みだ。
 気付かないうちに…堕ちる。

「今日も、元気そうじゃのぉ。奉先よ…」
 呂布の身体のすべてを、余すことなく手で、唇で、己の身で、舌先で、撫で回してその痕跡を残し、その痕を満足そうに眺めながらにやぁりと笑んだ、その姿を見て、今日まで決めた想いを、こころに刻み付けた痛みを、貂蝉のあの何も映さない瞳を、呂布は瞬時に思い返し、急に董卓に掴みかかる。
 董卓の、貼り付いたかのような笑みは、剥がれることはない。



 今から、お前を、殺してやる。



 言葉ではなく、その燃えた瞳で、力で、訴えるように董卓を押し倒す。
 その後、しばらくの間の記憶がどこかあやふやだ。
 董卓の歪んだ表情が、眼に映った気がしたが、それは当然のことだろう。殺されかけた者の苦しみ悶える姿なのだから。

「…激しい、な」
 溜息のように洩れた声を耳元で、微かに呂布は聞いた。
 董卓の、喘ぎと喘ぎの中間に、その声は確かに耳に届いた。
 短い期間、失われていた『音』が、呂布の耳に、戻ってきた。

 何故か判らない。呂布は董卓をかき抱いて、初めて自分から上に乗って、その炎をもって喰らい尽くさんと、自ら身を埋めて快感の海をつくっているのだった。
 ちがう。違う。チガウ。
 そんなことを望んだのではない、と頭が拒絶した。しかしその動きが止まるはずもなく、本能の赴くままに野獣は猛獣を侵食するのみ。
「むおぉぅっ、…す、凄いぞ、奉先よ、奉先よっ」
 猛獣が吼えながら、必死に腕を回し、また吼えて締め付けた。猛獣の中は、熱すぎる以外には、すべてが心地好く、己のすべてを任せきって、気持ちよさ以外のもののすべてを投げ出すことのできる、至上の世界だ。
 捨てるためにこの機を待ったのに、また溺れている。愚かな魚か。

「ごおあぁぁぁぁぁっ」
 董卓が再び、吼えた。それと同時にこれまで以上に締め付けが厳しくなり、細やかなる痙攣も、その身体同士を通じて伝わってくる。
 このことが、繋がっている事実を、無言にも無情にも、互いの脳裏に焼き付ける。
 それは、繋がる悦び。繋がる苦しみ。同時に伝える。
 呂布の熱も、苦しみも痛みもお構いなしに、ぶちまけるように吐き出し、自分の呼吸も整わないうちに、傍らに置いてある自分の、重い戟を軽々とその野獣と呼ばれる所以の力で持ち、思いきり視線の前で薙ぐように振りかぶった。
 
 その瞬間、呂布の目の前は鮮血に支配された。
 聞こえるのは、湧き出でる鮮やかな色の水が、地に着く時に立てる水音だけ。
 その後、遅れながらにぼとぼとと重さのあるものが地に着いた音が、何度か耳に届いた。それは、真っ二つに割れた体内から溢れるように出た、董卓の腹の中に蠢き続けていたもの。
 それらが落ちて、辺りに散らばっても、水の音は止まなかった。
 呂布は、その音を、二つになった董卓の身体を見つめながら、身体から力が抜け倒れゆく董卓のひとつめと、ふたつめの身体を、何故か眼を逸らさず、ただ、その湧いている水を浴びながら見つめていた。身体が熱い。そこから動けなかった。
 理由は分からないが、動けなかった。







†後書†
昼ドラ呂布軍シリーズ1
テーマ曲は、ジョバイロ(笑)
ヴァイオレンスで、赤や紫、といった毒々しい、そんな印象の残る曲は、この話にはぴったりだと思う。聴きながら二日で書いた(早いな爆)マ、短編なんで。
エロは基本、自分、書けないらしいので(でも入れる…諦めろよ自分)どちらかというと、今回はヲカルトを目指してみた。そういう面ではうまく書けたんではないかな。
あとは、読みたくてもなかなか読めない、『董卓受け』を書いてみた(趣味腐っとる笑)全然ヤラシサなんかは無いんだけど、まぁヲカルト×ヴァイオレンスということで、共演できたので、よしとしましょう!(勝手だ)因みに、董卓はリバシな人という気がしてますが、受けを切望している(何)あと、こんなものを書いておいて言い訳がましいかもしれないが、近親相姦は大嫌い。しかし彼らは、彼らと孫兄弟だけは、仕方ない、許そう。…ということで書いたのさ☆
この話の続きは当然お題を使って書きます! コレ以前の話…というのも少々思案中。





反対色DE5のお題

1:白の暗闇
2:黒の閃光
3:青の血液
4:赤の大海
5:透明の彩色


↓配布元↓
[VIRTUAL*CUBE]


最後まで使いきれるかどうかは、分かりかねますが、一作、数年前に消えてしまったために、難しいかと思われます。

副題の昼ドラ呂布軍というタイトルどおりの内容となっておりますので、だいたいは内容のほうも想像がつくかなぁ、と。


2006/02/21 08:41:12