※ 二葉と一。月のモノの話



どうしても伝えたかったから



 知識がないわけじゃない。だが、母親にいうとからかわれそうで、どうすればよいか分からない。ついでにいうと、それ以外の理由もある。体調が優れないのもある。知っておいてほしい人にいうべきな気もしたし、その人にだけは隠し事はしたくなかったから。弱い姿だって昔からよく知っているからさらけ出せる。親なんかより近くて、とても遠い貴方。すべてを知っていてほしい貴方。



 唐突な連絡はいつものことなので、気にはしていない。だが、その様子があんまりにもおかしかったので、さすがの神崎も心配になるしかなかった。不安そうにか細く震えた声が、その状況を痛々しく物語る。泣いているわけではないが、泣くのではないかと心配になるほどだ。そもそも、こんなに弱気な様子など初めてのことだ。あの、クソ生意気な姪・二葉がこんなふうに。さすがの神崎も、慌てて呼び出しに応えるしかない。
 行ってみれば、顔色の優れない二葉の姿。どこか動きもぎこちない。よく状況が分からないので、神崎はオロオロと困るばかりであまり力になれそうもない。結局はストレートに何があったか聞くしか道はないと気づいて、顔色の冴えない二葉の双肩に手をやりながら顔をまっすぐ見つめて、神崎なりの真摯さでクソ真面目に聞いた。何かあったんだろ、と。神崎の思いとしては何もなければそれに越したことはないが、何かがあればそれをどうにでもしてやりたいとすら思っていた。それが、生意気だけど懐いてくれて、ほんとうは可愛いと思っている姪に対してしてやれることだと。
「一、実は……おれ、」
 俯いたまま、だが意を決したように神崎の目を見つめ返す。強い意思がそこには灯っていて、何とか健気にも不安を払拭しようと頑張る姿には堪らず神崎も胸うたれそうになる。
「アレ、……っちゃって」
「ん?何だって?」
「アレ、…になっちゃって。」
「アレって何だよ?」
 ことごとく内容を理解していないが、二葉もそれは覚悟していて物音高くガンッとテーブルの上に生理用ナプキンを置いてやれば、神崎は急なことに慌てふためいた。いやお前いくつだよ。そう二葉は思ったがからかうつもりでやったのだから黙って心の中でほくそ笑んでおく。こんなウブな二十代は問題があるような気もするが、何とか神崎は平静を装って腕組みをする。
「しかしなー…、ビックリしたんだぞ、こっちぁよ。調子悪いとか怖いとか血がどうとか言いやがって、思いっきり暗い声出しやがって。それに、…その、そういう、ことなら俺じゃなくて、オフクロとかがいんだろうがよ。他にも、ダチとかだってよ、俺じゃ、わかんねぇし………どうすりゃいいんだよ。俺、代わってやれるわけじゃねぇし、何もできねぇぞ」
「いい。一に、」
 二葉が言いかけた時に、何かを思い出したようにケータイをいじり出して誰かに電話をかけて耳に当てる。人が話しているのにそれを無視して電話かよ。二葉は神崎のケータイを叩き折りたい衝動に駆られたが、さすがにそのパワーもスピードもない。初潮を迎えて具合が悪いのは確かなのだ。大人になるのも楽じゃないな、そんなことを二葉は思う。神崎は城山と話をしており、しかも来いなどと言っている。勝手なものだし、誰も城山を呼べなんて言っていない。二葉は面白くなかった。どうして城山を呼ぶのだ。二葉は一と話がしたいというのに、彼は話を聞いてもくれない。不満だったので黙ったまま俯いたら、影が濃くなった。神崎が二葉を見下ろしている。
「だいじょぶか」
 神崎の言葉に嘘はない。本気で二葉の身を案じている。この分かり易さが可愛いと二葉は一回り以上も年の離れたおじに思うのだった。だから「ううん」などと甘えた声を出してしまう。そうすれば甘えさせてくれるから。体調の悪い女の子を介抱してくれるから。そんなズルイ考えなど、気づいたらもう二葉には備わっていた。甘えにかこつけて二葉は神崎のヒザに座ったが文句も言わない。「ぐあいわるい」もう一度言うと、大きくて温かい手が頭を撫でてからお腹を撫ぜた。まったく分からないわけではないらしい。ピッタリとくっついて二葉は離れようとしない。そんなふうにしているところに、城山と、なぜか呼んでいない花澤が一緒に来た。
「あー、二葉ちん先輩に甘えてる〜。甘えんぼなんだぁー」などとからかわれても、二葉は一向に恥ずかしくない。城山が小さく頭を下げて言った。
「神崎さん。花澤由加は、丁度電話の時に隣にいて、勝手に着いてきました」
「…んな感じだな」
 そんな話をしていてよくやく気づく。城山はたまたま着いてきたのだと言ったけれど、これはラッキーというか、ちょうどよかったのではないか。事が事だし、よくよく考えてみれば女の方がいいに決まっている。小さな声で、神崎は城山に呼びつけた理由を告げる。そんなことも考えず、女兄弟のいる城山を呼んだというだけのことだった。ボソボソと女の月のモノについて話す神崎はどこか滑稽だったが、城山はそんな拙さからも神崎の人柄を感じ取ることができるのだった。表情を緩ませて二葉に微笑みかける。それと同時に神崎のにぶさについて思わないわけもない。神崎のことだからきっと分かるのだろう。神崎のことに関わることだからきっと。二葉は笑いかけても城山には答えてはくれないけれど。そんな神崎を支えるべく、城山は感情の動きなど感じさせないように振る舞う。そのために夏目や城山は神崎の傍らにいられるのだと思うし、きっと必要になるのだと思う。今自分が必要ではないとしても、きっと。
「下着は、汚してないですか? 血は、お湯では落ちにくいんですよ。水で、早いうちに落とさないと」
 そんなことを流暢に言う城山にポカンとした表情を向けたのは、神崎だけではなかった。当然とも言うべきか、二葉も。どうしてか、花澤も。それを見た神崎がすぐにツッコミを入れる。何だかんだ言って、誰から見ても神崎と花澤はいいコンビである。
「オメーが何でまじっスか、とか言ってんだ。バカかてめー」
「…や、ウチは血はお湯で落ちると思ってたっスよ。アレで汚れたら棄ててたし」
「…っ、き、聞いてねーってのバカパー子!」
「だからウチは花澤由加っスってば!いい加減覚えてくださいよ先輩。バカバカ言って先輩だってバカじゃないっスか〜」
 城山は苦笑いしながら二葉に目をやる。どこか面白くなさそうにしながら神崎のヒザの上にいる。彼女の気持ちなど神崎以外の誰もが丸わかりだった。どうして、神崎に女の子になってしまったことを言ったのかも。今の花澤と神崎との仲のよさそうなやりとりを見ている気持ちも。そしておじとしての神崎の気持ちも含めてすべて。だからこそ、下世話なことなど城山は口にできないのだった。このモヤモヤ感はどこで吐き出せばいいのだろう。花澤の顔を見ながらそんなことをボンヤリと思う。
「パー子はバカだし、使えねえけど……、でも、なんか分かんねぇことあったら、聞いていいんだからな?」
「そっスよー。ウチで分かるんなら、教えたり手伝ったり、するっス!」
 二葉は複雑な面持ちで頷く。神崎はそんな二葉を撫でている。それを見守る花澤と城山。これはこれで結構幸せなんじゃないかと思う。少なくとも、城山にはそのように映る。だが、二葉はどこかふてくされた様子で顔を背けた。花澤のことだって嫌いなわけではない。むしろ好きなはずだったが、こうして神崎とあんまり仲良くされるのは愉快なことではないのだ。こんな仲のよさそうな二人を見るために神崎に言ったわけではないというのに。そして、それに気づかない神崎と花澤…。いずれ花澤は気づくだろうが。
「はじめのばか」
「ん?」
「ばか」
「…はあ?」
 それでも離れようとしないふてくされた二葉は確かに、今は小さな子どもだけれど近い将来間違いなく美女になるだろう。立派なレディーに。きっと神崎には釣り合わないくらいの、周りがビックリするような美女になるだろう。今でさえこんなに乙女なのだから。
「無理すんな」
 不機嫌の理由を体調のせいと決めつけた幸せなモテ男は何も知らない。こうしてたった一人、呼ばれた理由も何も。
 それは、二葉は少女ではなくて、もう女性になんだと彼女なりに伝えたかったからだ。神崎だけには。
 その理由なんて、言葉にするだけ野暮だというものだ。幼いながらももう充分に女は女なのだと、城山は複雑な思いで見つめていたのだった。


13.11.05

またも二葉ちゃんと神崎君のの話
(思ったよりだいぶ長くなりました…)

学年は書いてませんが、初潮っていうのは小3〜6くらいの間じゃないですかね?体大きい子の方が早いイメージがありますね。わかんないけど
まぁ小学生の二葉ちゃんと、ハタチも間違いなく過ぎてる神崎君です。特に説明の必要のない設定です。

ちなみに、パー子と神崎君はいい感じだってみんな思ってるけど、ただのゲー友なので、LOVE感はありません念のため。彼らの胸の内は知らんけど。。



ちなみに、みんながみんな親とかきょうだいの気持ちで二葉に接してます。猫可愛がりしてますが、 神崎が撫でたりするのは珍しい。や、体調気遣ってるワケよ。男には分からん痛みなのだし。そこは優しい。
優しくしてくれる珍しい神崎君なのに、面白くない二葉ちゃんなのでした。女の子って難しいね!


こんな感じの、もだもだしてる二葉ちゃんと神崎君シリーズなんてどうでしょうか?
二葉ちゃんが押しても引いても、神崎君はわざとなんじゃ?と思う位に感じなかったりするんだけどね。

タイトルM.I
タイトルさがすのに、てまどいました…
2013/11/05 22:06:56