深海にて6


 何度時を重ねても、埋まらないものがある。目の前にいる相手は自分ではないし、自分は相手ではないのだから、理解できないこともある。つながりたいとどれだけ願っても、つながることはかなわない。個は個で、人は人。一つと一つは、あくまで二つなので一つとはならない。どこから誰が見ても。自分たちだけ勘違いしていたとしても。願ったとしても。


 子供のようなふれあいが、いつしかつながりになったのは悪魔のささやきのせいだ。邦枝にはそのささやきは聞こえていない。聞いたのは男鹿だ。
 彼らが何度も時を経て、時間をかけてゆっくりじっくりとふれあうことを続けていった。それは不純などと呼ばれるべきものではなかったと思う。同じ高校のメンツでここまで純な時を過ごしている恋人同士はたぶんいないのではないか。呆れたように姫川が嫌味タップリに嗤った。どんなに笑われようとも、自分たちのスピードがあるのだし気にすることはないと邦枝も男鹿も、その頃にはもう分かっていた。たまに周りの者が茶化してくることがあっても。


 男鹿が悪魔のささやきを聞いたのは、冬の始まり。寒い日だった。この日も何十度目かのふれあいを、この日は男鹿の部屋で慎ましやかに行っていた。家の中にいればヒルダや家族がいるので、ベル坊を任せておくのは容易い。恋人と二人での時を楽しみたいのだなどとワザワザ言わずとも公認されていたし、面倒な手順を踏むこともなかった。いちゃつく時は部屋を静かにしておかない。これは男鹿がない脳みそを絞って考え出したことだ。ゲームの音でもさせていた方が親も姉も安心している。辰巳はまだ子供のままだと思い込んで安心している。身体など普通の高校生以上に元気で強いというのに、家族というものは常に一緒にあるせいか成長についてはまるで分かっていない。それが喜ばしいことであるのか、それとも悲しむべきことなのか。それは用途によるだろう。今の状況から言えばラッキーな話だ。
 その日、ゲームを流しっぱなしにして男鹿は自分のベッドの上で邦枝の身体をまさぐった。邦枝は恥ずかしそうに身をよじるマネをするが、それが照れ隠しによるポーズなのはもう分かっていた。本当は邦枝も触って欲しいのだ。だが、女の身でそれを口にしても、行動してもはしたないと思っているのだ。あの家のこともあるし、古臭い考えはさも当たり前のもののようになっているし、男鹿も邦枝にはそうであって構わないと思っているのだから、そういった意味では二人の価値観は一致していた。だから、攻めるのはいつも男鹿だ。
 顔を寄せると、いつものように慣れぬ様子で一度は顔を背ける。本当は背けたくないし、目だけは男鹿から離していない。だが、横を向くその頬に、唇に触れると邦枝はすぐに大人しくなる。やわらかな唇に、軽く尖らせた舌で触れるとヒリヒリするような甘美な感覚が口に、舌に、脳に瞬時に広がるような、何度でも味わいたくなる感覚。男鹿もそう思っていたし、邦枝もそう思っていることは、互いの熱に浮かされた目の様子で明白だった。このぐらいはいいんじゃないか? 男鹿はさらに唇に触れた。いつもより少しだけ激しく、できるだけ優しく。なるべくやわく尖らせた舌で男鹿は邦枝の口を割る。薄く開いたそこはすぐに割れ開いて、適度な湿り気を帯びた口内が男鹿を待ち望む。触れ合う粘膜と粘膜は思考を溶かしていく。唇の外側を舐め、すぐに唇の内側と歯の表を軽くナゾる。それだけで邦枝の身体からはいつもの強張りが抜けていく。身を預けるように男鹿に凭れかかった。既に互いの身体からはこれまでの昂ぶりのため熱が発されている。首筋に触れるだけのキスを落とすと、邦枝の身体が応えるようにビクリと跳ねた。この瞬間が堪らない。大したことなどしていないのにこの女はいいようにされて気持ち良くなっているのだと思うと、男鹿の加虐心は満たされる。土下座もそうだが、こんなことで満たされるものだということを知らなかった。新しい発見だと思った。ちなみに、面倒だし付け方も分からないのでキスマークとやらを残したことはない。邦枝のことだから、目に見える所に残したら真っ赤な顔をして怒るポーズをすることだろう。そんなどうでもいいことを思いながら男鹿は、ブラウスのボタンをいくつか外す。こういった行為は何度もしている。ずっとしていたいし、もっとしていたいと思う。その想いを込めてもう一度唇にキスをした。ただ、こうしていられるのは間違いなく幸せなことだと思うだけだ。キスをすると、鼓膜が近いせいか脳内が唾液でどろどろに溶けるような気がする。ゲームの音が気にならなくなる。呼吸の音しか分からない。でも、荒い吐息が互いの口の中で混ざり合って誰の呼吸かもよく分からない。離れた唇は物欲しそうに小さく動いた。きっと邦枝は「男鹿、」と呼んだのだと思う。男鹿はそう見た。目はいつもみたいに潤んでいる。ついでに唇も潤んでいるように見えて、魅惑的だと思った。邦枝は無意識でもちゃんと男鹿を挑発する。邦枝は男鹿の胸元に寄りかかる。身体の力が抜けてくたりとしている。
「…邦枝、」
 短く男鹿が呼ぶと少しだけ首に力を込めて顔を上げる。熱に浮かされた目が何かを物語っているが、何が言いたいのかはよく分からない。そんなことより、今日の邦枝は女っぽい。色っぽい。乱れてる。やらしい。すけべだ。いろんなことを思う。本人に言ったら殴られそうなことまでをも思う。その代わりに男鹿は尋ねる。もっと、続けてもよいかと。蕩けた顔をして邦枝は、もっと蕩けたさそうに頷く。これは反則だ。今まで保っていた理性の意味が分からない。ボタンを逆側から外すのって結構面倒くさい。こんなことをしだしてからする度に思うけれど、この焦れったさがまたいいのかもしれない。これからの楽しみへの期待を高めてくれる。性急に指を動かしたくなるのを堪えながら、男鹿はたどたどしい指どりで制服のブラウスのボタンをすべて外して邦枝の胸をはだけてしまった。白く暗めの部屋の中に浮かぶ邦枝の肌はどこか眩しい。きめ細かな肌に、喧嘩ばかりして武骨な指で触れる時、男鹿はいつも言い知れないゾクゾクとしたものがせり上がってくる。邦枝の肌は不思議だ。きめ細かで儚げなのに、どこか強い色をたたえていて。こんなに弱そうなのにきっと壊せないだろうと男鹿はいつも感じる。薄水色の下着がふくよかな部分を隠している。邦枝の砦を取るのは今でいいのだろうか。いつもより熱に浮かされた頭は確かな邦枝の意思を測り兼ねている。暑い日でもないのに、頭は熱でどこかぼんやり夢うつつだ。邦枝の胸元もいつもより桜色に近い。もう、どうにでもなれ!だ。合意の上なのだし。男鹿はここぞという時に、押せないものだったが、今日は何かが違う。この互いの熱のせいだ。部屋が静かなせいだ。ヒルダとベル坊が昼寝するとか言っていたせいだ。何やかんやと理由をつけても何の意味もない。どうせ、いくところまではいっても、最後までなんてことにはなりえないのも分かっている。でも、止められるのは周りの環境だけだ。
 男鹿は下着を取ろうとするものの、そんなことをするのは生まれて初めてのことだったので、ボタンを外すのよりもさらに難易度が高いことを知った。とにかく、ことに至るまでにいろんな苦労がありそうだということも。なので、すぐにホックを外すことは諦めた。姉や母といった女性陣が家族にいるのでブラジャーくらい見慣れているはずなのに、やはり違うものなのだろう。邦枝の下着だと思えばムクムクと揺らぎようのない欲がもたげてくる。外し方の分からない下着は上へとずり上げてしまうことにする。だが、力任せに破いてしまわないように、できるだけ力を抑える方が難しい。そもそもが喧嘩はバトルでできているような男なのだ。押し上げた下着の下に隠された生まれたままの邦枝の膨らみに、目を奪われて言葉も時をも失う。これを暴きたかったのだと、男鹿は男心に感じる。邦枝は薄目でちゃんと分かっているはずだ。逃げるように体を背けて、だが、その前に抑える男鹿の確かな力に屈する。本当に嫌なら逃げられるのも分かって、それでも逃げられないのはやはり嫌ではないからだ。
 邦枝の胸に直に触れる。これまで感じたことのない、邦枝の身体の中でも一二を争うやわらかな部分だと男鹿は感じる。下着越しに感じたそれよりも数段、思考を蕩けさせるような感触が手から伝う。顔を寄せると、それだけでどうにかなってしまいそうだ。邦枝の口からも抑えきれない甘さを帯びた喘ぎが溢れる。切れ切れだったそれはやがて、絶え間ない快感を男鹿の耳へも届ける。ツンと尖った乳首を人差し指で押すと、邦枝は全身を震わせてなくような声を洩らす。初めてだよな? などと男鹿はまったく思わなかった。自分だって、邦枝の肌に、胸に触れるたびに声を洩らしそうになるくらい感じているのだ。
 怖い。
 恐怖を感じる。男鹿が喧嘩とか闘いじゃない何かでそんなことを思うのは初めてのことだ。だが、気持ち良さに流されてしまいそうでもあった。触れているだけでこんなに気持ちいいのならば、本当にセックスなどしてしまったら自分たちはどうなってしまうのか。そう思ったらそれ以上は踏み込めなかった。進んだと思えば恐怖がそこにはあって、それ以上は進めない。触れ合いは時に恐怖を生むものだということを、その日生まれて初めて知った。想像のできない何かは怖いものなのだ。邦枝の胸に頬ずりをしながらこんなことを考えるのはおかしいと思ったが、頬から、指から伝わる気持ち良さを楽しんでもいた。これ以上触れ合ったらきっと離れられなくなる。それは予想なんかじゃなくて、事実になってしまうだろうきっと。
 その日、邦枝の目から涙がこぼれ落ちたのでそこでとどまった。泣いた理由を聞くほど男鹿も野暮ではない。
「どうして、……こんな」
 呼吸が整いつつある邦枝がボソリと呟いた。そんなこと知るか、男鹿は思ったが何も言わずにいた。男鹿も邦枝も同じ思いだったのだ。ただ、言葉にしないだけで。言葉にしてしまったら、後戻りがきかなくなるような気がして。それでも、また触れ合いは続けたいと願ってしまうのだ。浅ましくも、人は弱いものだから。



13.10.30

深海にての大人っぽくなってきた展開です。つーか内容、意味なさすぎ!!!展開もなさすぎ!!

つーか、葵ちゃんの生おっぱい編です!
わーい、やったね!!

しかしエッチしねぇなー…さすがです、ネギの文章らしくズルズルしてます。ロクなもんじゃねぇです
書いてる方はやらしい気持ちじゃなくて、ピュアな気持ちのつもりだったんだけどね、、、(伝わらないか。

まぁこういうシーンでセリフが少ないっていうのは、あまり同人的でないので読みづらいし分かりづらいかもしれないっすね…。
でもセリフ多いのって、まぁシーンやテンポにもよりますがそんなに好きじゃないので。
実際、エッチしますよって時にそんなに喋っちゃったらムードもへったくれもなくて、萎えちゃうんじゃないか?w ってそれリアルかよ。


次はもう少し踏み込み編にしたいです!
で、野望としては何話か男鹿×葵で粘液べっとりにしといてから新展開に持っていきたい。エロ文章はそんな書けんけど、エッチな文章を目指してるからええのだ(マジかよw

とりあえずセックスにいくまで、あと何話か必要な気がしますね……この遅さだと。飽きたらゴメンねみなさま。

2013/10/30 23:22:24